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噺家として最も恥ずかしいことは何かと聞かれたら、多くの噺家が、
「落語の最中に台詞を忘れて絶句すること」と答えるだろう。
絶句した経験のある噺家と、ない噺家、どちらが多いのか知らないが、
私は、若い時はもちろんのこと、つい4年前にも繁昌亭でやらかした。
その時は、舞台袖の後輩が小声で教えてくれた。
先週の金曜日、在日コリアンの実業家が集まる場で落語をした。
会場は高級中国料理店の和室。
スーツ姿の男性ばかり総勢60人という、ある種異様な雰囲気のなかスタート。
ほとんどの参加者が韓国語を理解できるということなので、最初に韓国語落語を一席、
休憩を挟んで日本語で一席してほしいと依頼された。
まずは韓国語で『犬の目』を。
皆さんの語学力は高く、徐々に笑いが起き、盛り上がってきた。
ところが、あともう少しで終わるという場面になって、私の動きがピタッと止まった。
台詞が出てこないのである。
客席のほぼ全員が、「この兄ちゃん、大丈夫か?」という顔をしている。
その表情を見ていると余計に焦り、冷や汗が出てきた。
気持ちに余裕があれば、「ここからは日本語でやりま〜す」と宣言し、
最後まで押し通すこともできるのだが、なぜかその日はそんなテンションでもなく、思わず、
「すみません」と言ってしまった。噺家が高座で謝っては台無しである。
もう一度途中からやり直したが、やはり、同じ箇所で止まった。
沈黙が続くなか、幹事さんが立ち上がり、「銀瓶さん、休憩を取りましょか」と
助け船を出してくれた。このまま引き下がれない私は、「いいえ。別の噺をします」と言い、
今度は韓国語で『時うどん』に入った。
ところが、噛み合わなくなった歯車は元に戻せないのか、『時うどん』も出だしでストップ。
仕方なく、「休憩をお願いします!」と叫ぶと、それまでで一番の大爆笑が起きた。
休憩後、日本語の落語はきちんとできたが、私は辛かった。
その後の宴会に同席しないといけないからだ。本心は、このまま逃げて帰りたかった。
しかし、皆さん優しい人ばかりで、次々にビールを注いでくれる。
意を決した私は、円卓を順番に回り、自分のミスを詫びた。
あるテーブルで、「あの続きは、どうなるんですか?」と尋ねられたのでやってみると、
今度はスラスラと台詞が出てきた。
「おもしろいですね〜」と喜ぶ参加者たち。
「こんなやり方もアリか」と思った。
その日は『台詞を忘れた、忘れられない日』として、私の記憶に深く刻まれた。
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