先日、12月13日は『事始め』。
一年の無事に過ごせたお礼と新しい年の挨拶を師匠のところにしに行くという日です。
今は、京都の芸こさんの世界、そしてわれわれ落語家の世界に残っている習慣です。
3年間修行で師匠に怒られながらも毎日毎日通った師匠のお宅、
まあ故郷みたいなもんですけど、ここに弟子一同が集まり、
師匠を囲んで酒を酌み交わします。
1階の居間の一番上座に師匠が座り、完全に入門順で席も決まります。
僕は20人中19番目なので、座るところすらなく、ずっと立って給仕をするんです。
2階の床の間には、大きな鏡餅とたくさんの小餅が一列に並びます。
小餅には名前を書いた紙が貼ってあって、三枝、きん枝、文珍…。ずーっと並びます。
入門して最初に迎えた事始めのときは、三枝、きん枝、ずっと来て、
古瀬って(僕の本名ですけど)餅が一番最後に並んでました。
次の年、やっと三枝、きん枝、…、かい枝と付いた餅が並んだ時は
めちゃくちゃうれしかったのを覚えています。
でも我々の社会は縦社会やから、兄弟子とかが来るとめちゃくちゃ緊張します。
何年か前の話ですけど、みんなで飲んでたら筆頭弟子の桂三枝さんが来はりました。
ワーって言うてたんが、急にみんな結構緊張して、全員が正座とかしだしたんです。
20〜30分して、帰りはった。急に緊張が解れました。
うちの師匠が言いました。『みんな足崩しや。ワシも崩すさかい。』
師匠も正座してたんです。
僕なんかは、師匠の家に直接行けばいいだけですが、人によっては大変です。
例えば、僕の友達の桂都んぼくん。人間国宝桂米朝師匠の曾孫弟子。
桂米朝師匠の弟子の、桂ざこば師匠の弟子の、桂都丸師匠の弟子なので、
まず、午前11時に最寄り駅の京都・東向日から阪急電車で都丸師匠の住む、
茨木市まで行きます。電車賃200円。
そこから都丸師匠とともに、ざこば師匠の住む吹田に移動です。220円。
そこからざこば師匠も合流して、武庫之荘の米朝師匠のおうちに行き、260円。
合計680円。考えたらほんまに手間のかかる行事です。
今年、うちの師匠が3月に亡くなったけど、一門みんな変わらず、
師匠のおうちに集まりました。
師匠の奥さんを囲んで、師匠の仏壇の前で師匠の思い出話とか、
修行時代の失敗談しながら、みんなで飲みました。
今はお礼も携帯メールでしたり、気楽で希薄な人間関係の時代ですけど、
こないして足を運んで挨拶をするって、
めんどくさいけどこんな一手間かけた人間関係って
大切にしていかないとあかんなあと思いました。ちょっといい話でした。 |