| 11月12日放送 |
一冊の絵本から |
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49歳 女性 |
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「ねぇ、あの絵本まだあるかなぁ」
大学生だった息子が、ふと思い出したように話しかけてきた。
「たぶん幼稚園の時に見てたと思うんだ」
彼の記憶の中の、その本の説明を聞いているうちに、私もぼんやりと思い出すことができた。
どうしても、もう一度見たいという彼の願いに動かされ、屋根裏の納戸を探し、図書館の児童室にも出向いた。
が、そこでも見つけることはできなかった。
ふと思い立って、出版社数社に問い合わせてみた。
数日後、「きっとこの本だと思うんですが」
という親切な手紙が添えられて、K社から“あの本”が送られてきた。
もう絶版になっていて、保管されていたものを探し出してくださったのだ。
それは、二十センチ角のうすい小さな本。
彼が三歳の頃、幼稚園で毎月購入していたものの一冊だった。
十五年前、目にしただろうこの本は、おじいさんの喜怒哀楽の表情を撮った、モノクロの写真集というものだ。
大学で情報デザインを学んでいた彼のアンテナに、この本の何が触れて、眠っていた記憶を呼び起こしたのだろう?
あの頃の私は、初めての子育てに悩んだり、迷ったりばかりの毎日を送っていた。楽しいと感じるゆとりは、なかったように思う。
でも、三歳のやわらかな心にまいた種から、十五年もたってこんな形で芽が出るなんて、畏怖さえ覚えるくらいの出来事だった。
「幼児期は、その人の基礎ですから、家が建ってしまうと見えません。
でも、だからこそ一番大切な時期なのですよ」
学生時代、幼児心理学の恩師からくりかえし言われていて、身にしみていたはずなのに、我が子に対しては、思い通りにいかないイライラをもろにぶつけていた、幼い母親だった。
そんな親に連れられて通った幼稚園。
時を忘れて、おなかいっぱい遊んでいた彼の三歳の日々を、この小さな本が思い出させてくれた。
今、彼は就職して横浜で暮らしている。
希望した道を歩んでいる。
離れて暮らしているから、お互い優しい気持ちになれる。
ほんとに頼りない親だったけど、ここまで育ってくれたことを
「ありがとう」
いつもこの思いが、心の底にある。 |
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