近藤師範の「川柳な風景」

 今朝は、近藤師範の「川柳な風景」をお送りしました。
 川柳とエッセイ。同じ文芸の世界とはいえ、全く違うジャンルだと認識していました。
でも近藤師範は、川柳とエッセイを握手させよう、そうすれば全く新しい世界が広がってくると言います。
 川柳は、作者のこれまでの人生経験の集積ですよね、それはいつも投稿してくださっている方ならよーくおわかりのことと思います。
いいことも悪いこともたくさん経験してきた貴方だからこそ感じることができる発見が、五七五には詰まっています。
 さあ、そこで大切なのは、川柳を川柳にだけ留めておかないことです。
一句できたら、その作品がどのようにして生まれたの、その背景をメモなさってください。まずは、それだけ。
 でも、この背景エピソードを詳しく描いていけば、きっと貴方だけの物語が生まれるはず。
そして、かけがえのないエッセイとなるのです。
 もうお分かりですね。川柳一句と、それにまつわるエピソードの組み合わせ。
それが10セットも集まればどうなりますか!あっという間に「自分史」が出来上がるというわけです。
 一生のうちに一冊、自分の本を作る。これは多くの人の夢だろうと思います。
自分史ブームは続いていて、様々な出版社もこの事業に乗り出していると聞きます。
自分の思い出を語るだけで、それを上手く文章化してくれ、印刷代を出せば自費出版してくれるビジネスはいくらでもあります。
 でも大切なのは、自分らしく、自分が満足できる一冊を作り上げることですよね。
そのために川柳は何よりの題材。まずは、これまでの川柳を整理して、エピソードメモを作ってみてくださいね。
自分なりの締め切りを決めるのも一手かも。
「『自分史』の締め切りなくて進まない」(シルバーママ)

春川柳がたくさん届いています♪

「朝の5時猫とラジオを聞いてます」(ゆみちゃん)
しあわせの五・七・五の時間。あなたはどんなふうに過ごしていらっしゃいますか。
「うぐいすが鳴いていますと起こされる」(大和の雨蛙)
 自然界との穏やかなやり取りで目が覚めるって、しあわせな朝です。
「新緑のシャワーにいのちよみがえる」(よもやま話)
 近藤師範が大好きだと言う欅の木。
冬はすべての葉が落ちて、樹形の美しさが際立っていました。
天に向かって両手を思いきり広げて伸び上がろうとする姿。
そこに今、ちいちゃな薄緑の芽が無数に噴き出し始めています。
新緑はまるで生命力のシャワーのように私たちに降り注いでくれますよね。
 この季節はまた春野菜もおいしい季節。
私は新玉ねぎや新じゃが、大好きなんです。生でサラダもよし、お味噌汁にするもよし。
「ぬた和えがレパートリーに増えた春」(楠亭八太)
 春らしい一品が食卓に並ぶだけで、心がちょっと踊ります。
「私にもつぼみふくらむあったよな~」(いつまでも町民)
いえいえ、過去形にする必要はありません。心ふくらませていきましょ。

発表! 3月のしあわせ賞!

「3月のしあわせ賞」発表の朝でした。
 近藤師範の最終選考に残ったのは、3作品。
「常連を気取って奢る回る寿司」(酔いどれ親父)
 私も先日、回転寿司に行ったとき、思わずこの句を呟きました。
 どこかの回転寿司やさん、この一句をキャッチフレーズになさったらいいのに。
「嫉妬文字男編にすればいい」(ともちゃん)
 この川柳は、音で聞くだけでなく、是非文字を読んで味わって頂きたいですねえ。
「嫉妬」という字は、二文字とも女偏。
一体どういう立場の人がこの文字を作ったのでしょうか、ほんまいややわあ。
様々な企業も、政治の世界も、きっと男偏の嫉妬のエネルギーで満ち溢れているのでは?
 そして、「3月のしあわせ賞」に輝いたのは、こちら。
「待つ耳は朝刊バイク聞き分ける」(豊中のタカシ)
 寝床で、屋外の音に耳を傾けている時間。
朝刊が届けられるのがこんなにも待ち遠しいのは、
ご自分の川柳が毎日新聞に掲載されているかもしれないという望みからでしょうか。
 この一句を、新聞配達をなさっているすべての人たちに贈りたいですね。
新聞と読者の関係性が見事に表されています。
新聞記者として生きてきた近藤師範の新聞愛が決定打になったのかもしれません。

近藤師範の「川柳な風景」

 黒澤明監督の映画「まあだだよ」をご覧になりましたか?主人公は内田百閒。
昭和の時代を中心に小説、随筆を著した方で、名文家として知られています。
映画を観た私の印象は、頑固なおじいさん。
日本芸術院会員に選ばれたとき固辞したのですが、その理由を聞かれて「イヤダカラ、イヤダ」としたエピソードが有名な作家でもあります。
その人柄に魅かれて若い人たちが集まってくる様子が印象に残っています。
 その内田百閒が、こう言ったそうです。「川柳は、俳句の八百倍難しい。」どうしてそれが八百なんだ?と、嘘八百だなんて笑い話もあったとか。
 そんな人物を描こうと黒澤監督が選んだ最大のポイントは、大家であるにもかかわらず、全くエエカッコしない生き方に魅力を感じたからでした。
どれだけカッコつけなかったか、その川柳をご紹介しましょう。
「長い塀つい立小便がしたくなり」
いやあ、「しあわせの五・七・五」では、いきなりボツ酒場行きですよね!
 上手く作ろう、なんて力が全く入っていません。
他人からどう思われようが、自分は自由にやるさ、という内田百閒の人生の歩み方に黒澤監督は憧れの念を抱いたのかもしれません。
 川柳に、エエカッコは要らない。近藤師範はそこのところを強調します。
きれいごとを打ち捨てたあとに残る本音にこそ、人間の真実が光るからです。
 偉大なる内田百閒先生、ボツ酒場仲間として大切なことを教えてくれて、ありがとう!

「川柳な人々」 2023大賞受賞者のゆめさき川さん。

 3月3日の中之島の舞台で。年間大賞が発表されました。
 年間7万句を超える投稿の中から選ばれる大賞は、皆さんの憧れです。その栄誉に輝いたのが、こちら。
「ウソついて出かける夫若いやん」
 今日は、作者である「ゆめさき川」さんにお電話をつなぎました。
 もしもし、と話し始めたらいきなり明るい笑い声。ゆめさき川さんとのやり取りは、笑い声が絶えないものとなりました。
 大賞に選ばれ、晴れの舞台に上がることになった瞬間、頭が真っ白になったそう。第一声は「恥ずかしい~!」でした。
 そんな照れ屋さんのゆめさき川さんですが、近藤師範からは改めて絶賛の声が上がりました。毎年、大賞を選ぶのは四苦八苦。
でも今回は別。ゆめさき川のさんの一句は圧勝だったそうです。
 勝利のポイントはなんといっても「若いやん」の下五。
本音と皮肉の入り混じり方が絶妙で、夫婦のやり取りが手に取るようにイメージできるのです。
 ゆめさき川さんは、普段の様子を明かしてくれました。
「うちのひと、けったいやねん。車を運転して出かけていくところを見送るのだけれど、行先は右なのに、ひょいと左へ曲がっていく。
そんなわかりやすいウソばっかり。ようやるわ~!」
 大賞受賞の報せを受けたご主人は思わず、こう呟いたそうです。
「これから、どんな顔して出掛けたらええんやろ。いつもウソついて出かけてるみたいやん」
 このご夫婦、普段の暮らしがまるごと川柳です!
 ちなみに中之島からの帰り、最寄り駅まで迎えにきてくれたご主人。
ゆめさき川さんによると「いつも迎えにくるねん、けったいなひと。」。
でも、賞状と副賞のクリスタルの立派な楯を一人で持ち帰るのはたいへんだったようで、お迎えつきでよかったですねえ、ゆめさき川さん!

しあわせの五・七・五 川柳な人々

Copyright © Mainichi Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.