番組内容

住宅街の中にぽっかりと京の伝統野菜が育つ畑

いまでこそ、賀茂なす農家として知られる森田さんですが、 三代続く農家の森田家で、ここまでたくさんの賀茂なすを育てるようになったのは、 森田さんの代になってからだそう。そのきっかけはなんだったのでしょう?

「先代の時代には、京都市内の料理屋さんのために少しだけ賀茂なすを作っていたんです。今みたいにたくさん育てるようになったのは最近。
実は農業はあまり好きではなかったんですよ(笑)。
屎尿を使うことにむちゃくちゃ抵抗あったんでね。
しかし長男でしたから、跡継ぎをしなければならない。
それで19歳になって、農業を始めました。しばらくして母が “人と違った農業やってみたら?”と言ってくれた言葉が、 私をチャレンジに向かわせてくれましたね。
当時珍しい水耕栽培をやったり、孟宗竹を割って自分でハウスを組み立てたり。
そこで賀茂なすを育てていたのですが、よそにはないものだから高く売れる、 そうすると小遣いも増える。
手探りだったから、母校の先生や大学の先生に聞いたりしながら、試行錯誤してきました」










※試行錯誤を繰り返しながら現在のスタイルに行き着いた森田さんのビニールハウス。賀茂なすと農業を語る森田さんの顔が、とても生き生きしています。









※森田さんの若い頃の話に聞き入る本上。そういえば食べかけの賀茂なす、手に持ったままですね(笑)

農業が好きではなかった、とは言うものの、森田さんは根っからのチャレンジャーだったのかも知れませんね。自分の代からと言いながらも、ここまで素晴らしいハウスで賀茂なすを育てることができているのですから。
ちなみに、森田さんから見た賀茂なすの魅力って?

「伝統野菜というネーミングで、1個あたりの単価が少し高い!」
う〜ん、生産者らしい発言。

そんな森田さんですが、嫌だった農業をおもしろいなと思えたのは、 自分が作ったものを食べたらおいしかった、ということなのだそう。
「最初は実ができてくるともったいなくて食べられなかった。
しかしどんどんできてきたので、食べるしかない。
食べてみると“これおいしいやん!”と驚いたんですよ。
それでいろんな人に“いっぺん食べてみて”と勧めるようになって。
この喜びが今に繋がっています」

「いつの頃からか、いろんな人から"森田さんの野菜はよそと違う"と言われるようになりました。自分では違いがわからなかったんですが、その言葉を胸に、やっていかなきゃいかんな、と続けています」 と森田さん。
現在は息子さんも一緒に賀茂なすを育てられているそうですが、息子さんだけではなく、広く次の代へと農業をつないでいくことを、最近は考えているとか。

「農業というのは、収穫してお金として入ってくるまでに大変時間がかかります。それを待たなければならないし、その間は辛抱しなきゃならない。だから後継者が少なくなっているんだと思うんです。息子に農業を継いでもらうとき、こんなことを言いました。
農業と思うと嫌になるけど、自分たちは毎日食べる人のために働いている、農業ではなくて生命維持産業と思ってほしい」
人の命に関係するお医者さんでも学者でも、朝昼晩食べなきゃいけない。そのために農業はあると考えれば、最高の職業だと森田さんは言います。

「人の命に繋がる職業だからこそ、農薬のやりすぎはダメ、化学肥料は減らそう、堆肥は家畜糞だけじゃなくて落ち葉を集めて堆肥を作るなど、工夫しなきゃいかん」
農業は人の命をつなぐ、その言葉が、とても熱く響きました。








※おいしい野菜を広めたい、そんな思いの森田さんの畑にはいつしか、野菜を分けてもらいたいと人が訪れるようになっていたそうです。広めたい気持ちはいつしか、野菜の直売所を開設することへもつながりました。

「自分もはじめは農業に抵抗があったから、自分が嫌だったことは息子に受け継がせたくない。だけど試練として、いつしか壁にぶち当たる。その壁をいかに打ち破るかを考えていかなきゃ、と話しています」 農業を次の世代へつなぐために、優しくて厳しくて、まるで大自然のような心が、森田さんの笑顔の奥にはあるのでした。










※丸々と実る賀茂なすの一つ一つにも、森田さんの愛はたっぷり注がれているのです。


Director’s voice [若手農家も頑張る上賀茂] 上賀茂エリアでは、若手農家の活動も活発だと言われています。自分たちで作った野菜を軽トラックで売り歩いたり、地元の子どもたちを収穫体験に招いたり、東京へ売り込みに行ったり。昔から上賀茂にある在来種の賀茂なすだけにこだわるなど、次世代の芽は着実に育っているよう。

長い歴史が脈々と受け継がれてきた京都という土地柄だからでしょうか、若い農家の人たちが自分たちで立ち上がり、活動していくこの街は、農の活気にあふれているように感じました。




【プロフィール】
森田良彦さん
京都・上賀茂で100年続く農家の三代目。四代目の息子さんと共に、賀茂なすをはじめ様々な野菜を育てている。
http://www15.plala.or.jp/puremorita/