エッセイ

ひさしぶりのキャンプ、の巻。中編


 キャンプをしていて一番おもしろいのは、夜は真っ暗である、という事実に直面することです。
 暗闇のなかで地面に体を横たえていると、わあー、星がきれいだなあ! って、感動しますが、その反面、どこか心細く不安な気持ちにもなるのです。まさかオオカミに襲われる、ということはないだろうけど、クマはもしかしたらいるかもなあ、イノシシが突進してきたらどうしよう、とか想像してしまうのです。
 100%ない、とは言い切れないでしょう? いや、そんなビッグな動物に限らず、ムカデがこっそり近づいてきたら……とか、ハチ、アブに刺されたら……とかというのも地味に困ります。日頃虫は大好きで、トンボやバッタ、カマキリ、カミキリを見たら是非捕まえようと頑張るタイプなのですが、どうしたわけか私は蚊を筆頭に、痒くさせる奴、毒のある虫に好かれる性質があるよう。あちらのほうから過剰に積極的に近づいてくるんですよね。原稿がはかどらないとショウジョウバエが飛び交いはじめるし(ほんとだよ)。ちなみに今年はロケ中にアブに刺されて腕がぱんぱんに腫れて、右手が水を入れたゴム手袋のようになりました。かかりつけの皮膚科医に「ほんじょさん、こ、これは……」と絶句されたものです。
 暗闇の話でした。
 夜、外に出ているとついおっかない妄想を抱いてしまう。子どものころからおかんに連れられキャンプばっかりしていましたが、暗闇に慣れるなんてことはちっともなくて、むしろ経験を積めば積むだけますます恐がりになったように思います。へなちょこ丸腰のオレ。しかも今はふたりのちびすけを抱えているんだぞ。いざというときどうする? って。夜の夫はだいたい早々にほろ酔い状態なのでたよりないしなあ。
 今回のキャンプは山間の清流だけれど、対岸には街灯のついた道路、そして人家も見えている。しかも隣は大規模キャンプで、大人も子どもたちもたくさん。だから決して恐くはない状況なのですが、ふとそんなことを思ったりするのは、やっぱり夜の闇のせいだと思うのです。山間の夜は深くて暗い。それが素敵なのですが。夜空では秋冬の始まりを告げる星々がきらきら瞬いているのですが。

 というわけで暗くなったら寝る。これが鉄則。
「さてと。寝るとするか」夫がごそごそとテントに入りました。ふうたろうもイエーイ! と嬉しそうに本日の「おうち」に飛び込みます。一歳半のそうたろうにとっては初めてのキャンプ。いつもと違う雰囲気に目がらんらん、鼻息も荒い。
 こぢんまりとしたテントにきゅうっと四人、一本多い川の字をみんなで書くつもりだったのですが……。
「あたし、ここがいい」と娘はいきなり夫と私の足元にごろり。「だって床が斜めで、なんだか変なんだもん」
 絶対転げ落ちるだろうから先に転げ落ちておく作戦。初めから「坂」の一番下に寝場所を取るとは、なかなか分かっておるな。
 そうなのです。現地に出遅れて到着、テントを岸からいちばん離れた場所に設営したのですが、若干傾斜していてなんだか収まりが悪かったのです。下は砂利なのでだいぶ整地したつもりだったのですがそれでも坂道に寝ているみたい。寝袋の下に銀色のマットを敷いているのも滑る要因になって、ずず……ずず……ずう……と徐々に全員下がっていくのでありました。息子だけはそれが全然気にならない様子。そりゃあそうだ、いつも転んで転がってばかりですから。この珍しい寝床にコーフンしてあっちへころころ、こっちへころころしているだけです。横になった私たちを乗り越えたり、しがみついたり、噛みついたりして、ちっとも落ち着きがない。二〇分もそうしていたでしょうか。そのうち満足したのか静かになって、丸まっちい体はすうすうと寝息をたてだしました(結局朝は娘とともにテント内のいちばんの坂下で発見されることになります)。
 ざあーっという音は雨の音にも聞こえる。川の流れる音が、夢のなかでもずっと聞こえていました。

 斜めのテントで体は多少凝ったけど、みんなで元気に朝を迎え、ジャム付きパンとフルーツとコーヒーの簡単な朝食を済ませました。
 朝ですよ、朝! キャンプの朝です。空が高く青く、ああこれが秋の空かあ!
 娘はさっさと水着、ライフジャケットを身につけ、完全装備。川に走っていきました。でも……あれれ、川には入らず川岸でしゃがみ込み何かを始めたよ。水に入っていかないのが慎重で、かつ寒がりの娘らしい。彼女の後ろではカヌーで流れていく川の学校の生徒たち、ライフジャケットだけでぷかぷか過ぎていく子どもがいっぱいいるのに。きゃあきゃあわあわあ。なんだか対照的です。外にいるのにうちの子は引きこもっているように見えるなあ。
 息子はというとこちらもテント脇にしゃがんで、バケツに砂利をためるのに夢中。石も砂も水も大量にあるので、大満足ダヌキです。ゴツゴツの歩きにくい地面はちょっとこわいけど、バランスを養うのにはいいかなあ。
 私はテントに風を入れたり、寝袋を干したり、昼食の準備をしながらぼーっと子どもたちを観察。夫は二杯目のコーヒーを大事に大事にいれています。
 しばらくすると、娘のところへ野田知佑さんのアシスタントのMさんが来てくれて何やら話し相手になってくれています。野田さんと野田さんの愛犬二頭、ボーダーコリーのアレックスとハナも含め、みなさん娘のことを気にしてくれているのがありがたい。
 しばらくすると娘が「ほら、マリモ!」と、ソフトボール大の巨大な藻の玉を掲げて満足そうに帰ってきました。「これ鮎のエサなんだって」。わ、本当にマリモみたいに見える。これを作っていたのね。いろんな川遊びがあるものであります。
 川の学校は、授業というか、遊びタケナワ。カヌーの子、潜る子、釣りする子、あちこちがお祭り騒ぎ。
 秋の始まりとはいえまだまだ日差しが強く、頑張れば泳げそう……そろそろ私も動くとするかなー。

(つづく)
ひさしぶりのキャンプ、の巻。中編