さて、いよいよ茅葺き民家の中へ—と行きたいところでしたが、 なにやら本上、気になったようです。 その目線の先は、入り口の横にある、 なんだか立派なプレート。
「この家は国の登録有形文化財になっていまして、文化庁からいただいたプレートです」と屋根晴さん。
ということは、これは大事にしなきゃいけないよ、という建物なんですね。 中がどんな風になっているのか、余計に気になりますね〜。
大きな引き戸を開けて、中へ入ってみましょう。 土間にタイルみたいなものがはめられているんですけど、 これは石でしょうか、珍しいですね〜。
屋根晴さんによると、昭和50年くらいに、茅葺き民家には 現代式のものにする、という流れがあったそう。 多くはその時期に改装されているそうですが、 ここはそれを昔式に戻している家。 「たたきといって、地面はコンクリートではなく 土を叩いて固めているんです」
玄関から裏口まで、一直線に通路が延びています。 風が抜けて気持ちがいい場所です。 夏はこの風が、特に気持ちいいそうですよ。
茅葺き民家の内部は四方に窓があって、 風が通る作りになっています。 天井には大きな梁、立派ですね〜。
「昔は暖房器具がなく、いろりでたき火をしていましたから、 梁は全部すすけています。 屋根も囲炉裏の熱で乾いていたので、 その分屋根も長持ちしていたんです」
大黒柱も太くてピカピカ。 ケヤキでできているそうです。
「昔の家の女性の仕事は、 濡れたぞうきんで建具とか柱まで毎日拭くことだったのですが、 それでここまでピカピカのままなんです」
ちなみに大黒柱の下には石がどしっと構えていました。 昔の家は柱を地面まで差し込むわけではなく、 大きな石を置いてその尾上に乗せていたと言います。 だから地震が来ても、家が石の上で踊るだけなんですよ。 先人の知恵って本当に頭が下がります。
「間取りは昔の典型的な田の字形の家で、 座敷があって、畳の間があって、囲炉裏があって、 囲炉裏の部屋の奥は茶室になっているんですよ」
この広さに宿泊して一日所有者になった気分を味わう。 それそれは贅沢だと思いませんか?
「このいろりで鮎を焼いたり、ぼたん鍋や地鶏で鍋をしたり、 みなさん明け方まで満喫されているようです」
ですよね〜、寝るのがもったいない。 海外のお客さんも多く、とても喜ばれていると屋根晴さん。
この「かやぶき一棟貸しの宿 美山FUTON & Breakfast」では、 朝食に美山でつくっているパンと、コーヒー、ソーセージ、 卵、牛乳、ブルーベリージャムが付いてきます。全部美山産!
夜は材料を持ち込んで自炊してもいいし、 地鶏鍋セットやバーベキューセット、 鮎のセットなどをオーダーしておくことも可能。 一棟で20人近く宿泊することができ、 ヨーロッパからのハネムーン客、 卒業旅行のグループで利用する日本の大学生、などもいるとか。
「みなさん目的を持ってこられて、それを達成して帰られますね。 家族三世代とか、夏はファミリーも多いですね。 夏はここから歩いてすぐのところに川があって、泳げるんです。 ここで水着に着替えて、川へいって、前の田んぼではカエルとり。 この環境を子供たちは喜んでいますね。 水もきれいで、冷たいんですよ。 僕なんかは10分も入っていられないんですが、 子供は30分でも1時間でも平気で入っていますね〜」
つまり宿としての設備も、周辺の遊ぶ環境も、 ここはすべてそろっている、ということ。 本当にステキです!
屋根晴さんのところでは、 ここ以外にも新築タイプの「美山KAYA Villa」、 5月にオープンした「美十八 mitoya」という古民家タイプ が茅葺きとしてはあります。
さて、囲炉裏端は本当に居心地がいいのですが、 ほかのお部屋も見せていただきましょう。
まずは茶室。 壁にもワラが入っています。 壁の黒く見える部分は鉄粉を混ぜて、 わざとサビを出して風合いを演出しているそうです。
茶室の先には縁側があり、 その奥の庭には蔵も見えます。 「蔵の中は水琴窟になっているんです」
え?どういうことですか? 不思議!
縁側沿いの廊下は、畳敷き。 元々の持ち主のかたは木材で財を成した方だそうで、 細かなところに趣向を凝らした家を作られたのだとか。 どの部屋も、とっても個性的です。
一階を見終わって二階へ。 これまたびっくり! な場所なんです。 屋根の内側が全部見える造りになっていて、 これは昔、吹き抜けになっていた場所だからだそう。 ロフトみたいになっているのですが。 ここに来ると、茅葺きはどうやって屋根が支えられているのかが、 よくわかります。
「本来屋根裏というのは、 昔の人が茅を刈り取って、乾燥させて、春に収納する、 茅の貯蔵庫だったんです。 本来はこういうことはしないので、 美山でも、屋根裏が見られるのはうちと、数軒しかないんです」
上には明かり取りの窓もあります。
「今はアクリルでふさいでいますが、 昔はオープンになっていて、いろりで火をたいたときに、 最終的にあそこから煙が抜けていく場所なんですよ」
ちなみにこの二階、 宿泊を女子会などで利用される方も多いそうで、 そんな女子たちが二階を見ると「ヤバイ!」なんて声も聞かれるとか。 そりゃぁそうです、これだけの広さを自分たちだけで使えて、 しかも一階とはまるで違ったこの雰囲気! 驚くのも当たり前です。
「美山でエステをやっていらっしゃる方がいて、その方とコラボして、 ここでオイルマッサージを受けていただくこともできます」
女子の瞳がハートになっちゃいそうですね。
あまりの広さに踊りいてばかりいたら、 「好きなところに布団をひいて寝られますよ」 と屋根晴さん。ですね! 自由ですね♪
二階を見終わり、いよいよ水琴窟へ移動です。 扉を開けると、蔵の中心に穴が開いていました。
「これが“美山水琴窟”です。昔は米の貯蔵庫だった場所で、 そこを改装して、前の所有者が水琴窟を作ったようです」
さっそくため筒に耳を当て、水琴窟の音を聞いてみました。 透明な音が心地よく響いていきます。
「風流な音でしょ。しかしイギリスから来たお客さんに聞かせたら “便所の音”と言われました(笑) だからこういう音を風流と感じたりするのは、 日本人独特の感性なんだと思います」 ん〜、屋根晴さん、洞察が深い。
そうそう、建物の見学を終えて一階に戻り、宿の食事の説明も受けました。 実は今、「寿司屋台」というものを提供しているとか。 「天気のいい日は縁側で、それ以外は土間で、 5分で組み立てられるカウンターを作ったんですよ。 それで、京都で修行していた寿司職人に来てもらって、 1組限定の寿司屋台が出るんです。 美山は意外と小浜が近くて、 予約していただくとその日に職人が小浜へ仕入れにいって、 夜に寿司を握ってくれます」
そうか、宿泊してもらうことで、 茅葺き民家のことだけでなく 美山の地の利、食の恵みも知ってもらう、ということなんですね!
といった話をしていたら、 目の前においしそうなものがいくつか並びました。 美山牛乳に美山の玉子を使ったプリン。 どれも宿の朝食で提供しているものだそう。
大好きなんですよ♪ と本上。さっそくブリンをいただきました。 プリンをいただく。 止まった場所で食や住居や環境といった 地域の恵みを知る。 屋根晴さんのところの茅葺き民家の宿泊って、とても奥が深いんですね。