伊藤さんの作業場へと足を向けてみました。 机の上にも壁にも、とにかくいろんなものがあるのですが、 不思議とどれもしっくりと調和していていい雰囲気です。 それに、窓が大きくて気持ちいい!
この窓、実はもともと別の場所に着いていた窓を庭側に移し、 そこに京北の他の家で廃材となった窓をもらって 合わせてみたらぴったりだったとか。
「もらったらもらったで、それを使う工夫をするのでおもしろい」 と伊藤さん。 これもクラフトマン魂、ですかね(笑)
伊藤さんの作業机の上には、革や道具が並んでいます。 ちょうど財布を作っている途中だそうです。

「これは牛の革。 もともと牛の革を我々が仕入れるとなると 机にのらないくらい大きいのですが、 それを加工しやすい大きさにカットしながら、 型紙を作っておいて、 型紙よりも若干大きめに革を取っておき、 あとは調整しながら仕上げていく感じです」

革用の包丁を見せてもらいました。
包丁というよりもお好み焼きのへらの形にも似ています。
刃の厚みがしっかりあるので、 普通の庖丁のように切るものではないですよね?


そうですね〜、と言いながら実際に切って見せてくれる伊藤さん。 線を引くように、革を切っていきます。 あまりにも分厚いやつは二度三度と引いて切るそうです。

「全部同じ厚みのパーツで作ってしまうと ごついものになってしまうので、 こちらの機械で革の厚みをすくんです」 そう言って伊藤さんが見せてくれたのは、 足踏みミシンのような機械。 中で刃が回転していて、革を当てると あっという間に薄くなっていきます。
「手作業でするとなるとなかなか難しいので、 これは機械でないとできない加工ですね」 と伊藤さん。 機械の名前はNIPPY。なんだかカワイイ名前ですね。

「道具類はドイツの製品が多いのですが、 ドイツの製品をコピーしているものもあります。 革のなめしの技術もそうですが、 ヨーロッパの方が機械も進んでいるんですね。 だからそれを取り入れている、というのが日本です」

NIPPYで革を削ってみせてくれました。 ホント、一瞬で薄くなっていくんですよ!

アームミシンや袖ミシンと呼ばれる機械もありました。 いろんな用途に対応できるので、伊藤さんが使うミシンはこれ一台で、 あとは手縫いだそうです。 美容師さんのシザーケースも取り扱っているそうですが、 仕事で使うのでなるべくタフ、 かつその人にとって使いやすいようにデザインするのだけど、 当然ながら使っていると糸がすり減ってきます。 その部分は手縫いで補修するそうです。
「ちょっと本上さんに手縫いを手伝ってもらいましょう」 いきなり伊藤さんがそう言いました。 戸惑いつつ、本上も台の横に座り、作業開始です。
「ミシンだと上糸と下糸の2本で構成されているんだけど、 革の手縫いに関しては、長い一本の糸 (たこ糸のように太い、ロウでコーティングされている) の両側に大きな針をつけて、同じ穴に通していきます。 ミシンと違って、一本の糸で縫っているので、 仮にどこか1か所が切れてもほつれないんです」
そう伊藤さんに説明を受けながら、本上、体験です。 少しずつ、少しずつ針を進めていくのですが、 なんとどちらが手前か、覚えておかないといけないことに気付く本上。

途中でちょっと違っていたことに気がついた本上。しかし戻れません。 「ちゃんとルールがあって、守らないときれいなステッチにならないんですね…」

革は縫い終えたら、刃物で面取りをします。 チーズや鰹節を削るような作業ですが、 この面取りとそのあとの磨きが、 革細工職人の腕の見せ所のひとつだそう。 そして伊藤さんの磨きで、隠れアイテムはヘチマ。
「表面を鏡面に仕上げていくんですけど、 ちょっとゴリゴリ言うんです。 しかし最初毛羽立っていたものが寝ていきます。 そのあとに帆布で磨いていくと…触ってみてください」
伊藤さんが面取りした部分を見せてくれました。 確かにつるつる! なめらかに角も取れて気持ちいいです。 結構短時間でここまでできるものなんですね〜。

面取りされた部分は手触りもスムース。 磨く際に伊藤さんが使っていたヘチマも、 実は集落の方のヘチマの畑からもらってきたもの。 「街にいた頃だったら、ヘチマ一つでも買っていたんですけど、 お金を介さずとも、というエクスチェンジの仕方がおもしろいですね」

ほかにもナチュラルの革を染める、 電気ペンを使って革の表面に模様を焦がし入れていく、 スタンプのように押していくなど、いろんな工程があります。 どれも大変な作業ですね〜。 でも、いろんな表現ができるから、 アーテイストとしては興味が尽きないものなのでしょう。
「そうですね、いろんな技があります。 友人が作ってくれた蜜蝋を入れて作ったりもしています。 革って育てるのが好きな人もいれば、 新品の感じがかっこ悪いからと、 加工したり、ワックスを何度も塗っていく人もいます」
できることは無限大、だから奥が深い。 それが革細工ということですね。

革の数だけ加工方法もある。たくさんの革を前に話を聞いていると、 そんな気がしてきました。どこまも探求、ですね。

「最近はいろいろな加工方法を思いついてやって、 やればやるほど表情がみんな違うからおもしろいし、 その個体差を味として感じてもらえたら。 人工のものとは大きく違うというところですし、 そこがステキだなぁ、と」 革の魅力にしっかりハマっている伊藤さんです。

それほどまでに革に夢中になっている伊藤さんですが、 そもそも興味を持ったきっかけって何なのでしょう?

「オートバイが大好きなんですよ。 バイクというとイコール革ジャンとかグローブとかありますよね。 僕も革ジャン着て、それで革が大好きになって。

あるときバイクで石垣島へ行ったんです。 そこで出会った旅人が革のパンツを切ったもので たばこケースを作っていました。 切ったものに穴を開けてボルトとナットで止めるだけ、 ってやつなんですけど、これおもしろいな〜と思って、 帰ったらやってみようと思ってやり始めたのが20歳ぐらい。 今40歳なので、それ以来人生の半分くらい革を触っています」

しかし好きとか、興味がある、というのが仕事につながっていくのは、 ただ好きだけではなかなかできないですよね? どこかで勉強されたりしたんですか?

「20歳そこそこの時に、愛知の革のメーカーに勤めて、 それからバイクに革の道具を積んで 日本中周りながら職人さんを訪ねて回ったり、 駅前で売ってみたり、バイクのイベントに出店してみたり。 半年くらいかけて回りました。 それまでは自分が住んでいる街の近辺でちょこちょこ回っていたのが、 フィールドが広がって、 そのうちツーリングスポットのようなところに住みたいなぁ、 というのが今、形になっていっていますね」

涼しい顔して、結構コアな話をしてくれる伊藤さん。 旅人だったとは!

思いを行動で形にしていった伊藤さん。 でも日本一周でどうやって「ここ行ったらいい」と決めていったのでしょう?

「知り合った人に“○○行くんだ〜”と言うと じゃあここ行ってみな〜と教えてもらったりしました。 『行き当たりバッチリ』ですね。 ほぼ野宿しながら、おじいちゃんおばあちゃんには心配され…」

ん〜、計画的な無計画、とでも言うのでしょうか(笑)

来週も引き続き、京北で革工房を営む伊藤さんに話を伺います。 これからの京北への、伊藤さんの思いとは? お楽しみに!

<ミニコラム> 今週の風景


皮を削るNIPPYの横の壁に、一枚の紙。 息子さんの絵が貼ってありました。 田舎の暮らしは職住直近、とは言いますが、ほぼ一体(笑) この垣根のない感じも、やさしくってステキな雰囲気です。

革職人 伊藤 拓さん

工房を構えていた神奈川県川崎市から2011年に嵐山移住、その後13年に工房を京北に移し、オーダーメイドで革製品を製作。京北在住のほかの作家と共に「里山デザイン」という制作チームも結成している。


■今回の訪問地

京都市右京区の最北に位置する京北地域。地域全体は丹波高原の中にあり、日本海と太平洋の分水嶺でもある。のどかな山里に今も受け継がれる伝統や文化、産業が残り、豊かな自然も魅力。

京都トピックス
【美山かやぶきの里「雪灯廊」】
900基以上の灯篭がかやぶきの里を彩り、雪灯篭づくりも楽しめる「美山かやぶきの里『雪灯廊』」。
【開催日時】
1月28日(土)〜2月4日(土)17〜20時
【開催場所】
美山かやぶきの里(南丹市)
【お問い合わせ先】
美山町観光協会0771-75-1906

【バックナンバー】
#044 作ってみてわかる革の楽しさ。
#043 自然と人の暮らしが同居する集落を歩いて行く。
#042 工房の中に入ると そこは…すごく楽しい!
#041 えいっ! という気持ちで山豊かな京北へ移り住む

【1月のプレゼント】

今月のプレゼントは、番組内でも取り上げている「革工房TAKU」の革ホルダー付きタンブラーです。ピンクかブラウンをお1人ずつにプレゼントです。 革のぬくもりに包まれたタンブラーで、ホッと心温まるひとときを過ごしませんか?

締め切りは、1月29日です。

【応募先】
●おハガキの方は、
 〒530-8304
 MBSラジオ「本上まなみ もうひとつの京都」の係まで。
●メールアドレスは、manami@mbs1179.com
●FAX番号は、06-6809-9090



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