ワカメをもらう、の巻。前編
 「ごろごろするな」「だらだらするな」
  ピクニックの何がいいかって、誰もそうは怒らないことです。
 「しゅくだいは?」「てつだいなさい」
 外にいる限りは、おかんやおじ、おばたちにこうは言われない。言われたことはなかったよ。不思議ですよね。外に出ただけなのに。
 でも、だって、ピクニックですからね。
 ピクニックピクニック。言葉も躍っています。
 これがこんなに楽しいのは、お日さまのもと自然の中でのんびりぐうたらできるから、ということにつきるでしょう。ぼさーっとしていても「あーいいなあピクニック」と通りがかりの人に寛容に見てもらえることでしょう。少なくとも私はそう見る。
 あーいいなあ、って。
 何を食べてるんですかあ?

 お休みの日。天気がいいと、家にいるのがなんだかもったいない気がする性質の私。とくに芽吹きの季節、春の陽気がドアをとんとんたたくころには、あっちこっちの花が咲き出したのではないか、と気が気じゃなくなる。ちょっと偵察に行こうかな……前々から目をつけておいた日当たりの良いあの公園、あの川の土手なんかはそろそろいいんじゃないかなあ、なんて頭に浮かんできます。
 ピクニックの場所探しは得意中の得意。普段から散歩のときにあたりをつけておいたりもするのですが、若葉の季節ならモミジの木の下がレースのような葉を見上げられて心地よかったりする。柳の木の下も、葉が風に揺れるのがきれいです。それからクローバーの上なら、柔らかくて素足を投げ出して座るのが気持ちいいね。石ころや木の根っこがごつごつしていない、傾斜もあんまりない、居心地良さそうなところをうまく見つけたら、ござを敷く。そうして、腹ばいになって、目線を低く低くして見る景色を満喫します。木や草や苔の根元、落ち葉の重なり、虫たちの営みを見るのが楽しい。草や土の香りも和みますなあ。
 そう。出かけるのに、ござは必需品。ベンチに座るのはピクニックではない気がするのです。地面に座って、もしくは寝転んでのんびりしてこそピクニック、と私は思う。
 思えば子どものころからピクニックが好きでした。学校から帰ると、しょっちゅうござとおやつと本を持って出かけていました。友だちや妹、それに飼っていたうさぎの《うさんごろ》をバスケットに入れて一緒に連れていくことも。レンゲの咲いている畑、クローバーがいっぱいある野原、ザリガニ釣りのできる沼、松ぼっくり投げができる林、イチョウの落ち葉で真っ黄色に染まる森などなど、その時期ごとに行きつけの場所も変わったっけ。
 長いお休みで母方の田舎、庄内に帰省すると、たくさんいるイトコたちとピクニックをしていました。みんなでおにぎり食べたり、夏はアイス食べたり。ござの上でぐうたらを満喫。そういえば、祖父母の家の裏庭でのピクニックのときは、叔父にブランコやターザンロープを作ってもらったり、自分たちで段ボールの船やいかだをつくって航海ごっこ、といったようなこともしていました。海なのにワニの役もいて、たまに襲われるの。これはぎゃあぎゃあ言って盛りあがったものです。
 夏は大人たちも一緒に海でピクニック。叔父たちはなぜか浜辺で麻雀をしていました。せっかくの海なのに! あのころ、昭和の時代はアウトドアでも麻雀が流行っていたのでしょうか。水着姿、ビーチパラソルの下でにやにやしながら牌を混ぜている叔父の写真が残っています。
 海へ行くときは必ずおばあちゃんがお砂糖を入れた麦茶を作ってくれて、それは私やイトコたちにとっての、特別なお楽しみでした。海でしこたま遊んで、しょっぱくなった体に染み渡る甘いお茶。うまかったなあ。

 普段のピクニックはというと、ごく簡単におやつタイムを過ごすだけのものが多いですが、お弁当はあるとやっぱり嬉しいね。おにぎりひとつとっても、外で食べるものは格別においしく感じるし、たくさん食べたくなるものです。いつものごはんの量だと、お弁当にするとちょっぴり物足りなく感じるのはやっぱり空気がおいしいからかな。子どもも外だといつも以上にもりもり食べて、親の私の分まで横取りするくらいです。
 それから、ピクニックには本も持って行きたいものです。ござに転がって風に吹かれながら読む本は、『トム・ソーヤーの冒険』や『十五少年漂流記』なんかはさらに盛りあがれるし、『青ひげ』とかの怖い話はおそろしさも薄れてありがたかったりもしますしね。小学生のころから本を持っていってた記憶があります。中学、高校、大人になっても本を欠かしたことはないなあ。たとえ読まなかったとしても、本と一緒のピクニックはいいものです。
 このごろ読んでいるのは石井桃子さんの『新しいおとな』という随筆集。帯には《よい本を、もっとたくさん》とあります。そうですよね!
 七歳の娘も、ピクニックのときには必ずリュックになわとびと本を忍ばせています。「あたし、本がなかったら生きていけないかも」だって。大げさな物言いに笑ってしまうけれど、どうやら同じ趣味のようですね。
 京都に引っ越して二回目の春。三月生まれの息子も無事に一歳になり、靴を履いての“初あんよ”は、京都御所でのピクニックの日でした。タンポポやしだれ桜がきれいに咲いて、ふかふかの土と、ほよほよそよぐ草の新芽たちが、息子のちっちゃい足をやさしく受けとめてくれました。
 赤い靴。昔その持ち主だった娘が、自分の弟の手をひいて、いちに、いちに、とリズムをとって支えている様子がなんだかおかしくって、嬉しかった。

 私の理想のピクニックはきれいな小川のほとりで、川のせせらぎを聞きながらのピクニック。木にハンモックも吊せたらいいなあ。それから携帯用の小さなコンロでお湯をわかしてコーヒーを入れる。ちっちゃい釣り竿があったら楽しいな。せっかくだし虫取り網も、あ、それから火をおこして焼き芋や焼きリンゴを作るのもいいな……。
 いろいろ考えると、どんどん脳内で荷物が増えてきました。これじゃあキャンプになっちゃいそうです。前に宿の船があり、そのそばの物干し竿に、穫ってきたワカメを干すご主人とおばあさんの姿がありました。