ワカメをもらう、の巻。前編
 今年のゴールデンウィークは、関西から山陰の方へ日本海側を車で旅しました。
 三泊の予定で徐々に西へと行ったのですが、一泊目は京都北部つまり丹後、久美浜の民宿です。
 民宿の魅力って、思うに「よそのおうちに泊まりに来た」ような感覚が味わえるところ。家族経営が基本なので全体にこぢんまりとしていて、ほかのお客さんや宿のご一家と、うんと近い感じで過ごせるのがおもしろいなあと思う。どこから来たんですか? とか、この辺でおすすめのおそば屋さんは? とか、良い眺めのスポットは? とか口コミ情報を交換するのが楽しいのです。
 建物内は裸足や靴下ばきで廊下をうろうろ。お風呂はお部屋ごとにどうぞ、というシステムとか、建物の奥の方にご主人や女将さんの一家団欒の気配があったりするのも(テレビの音とか子どもたちの声が漏れてくる)、なんだかあったかいなあーと感じるのです。お料理も全般的に、気張りすぎていないものが出てくるので、郷土の味とか家庭の味がイメージしやすいのも好ましい点。
 特に子持ちになってからというもの、民宿の温かみあるおもてなしが嬉しいなあと思うようになりました。お部屋は大抵和室なのでハイハイする赤ん坊がいても安心だし、室内も旅館のような立派な掛け軸、とか、つぼ、といった調度品が少ないから、ヒヤヒヤする頻度も少なめだし(現在旅先ではいつもお部屋に通された瞬間、壊れ物類は高いところに上げるか、引き上げてもらうことに。床の間に素敵なお花が生けてあってもゆったり眺めることが叶わず残念です)。
 建物自体やお風呂も大きすぎないから、延々と廊下を歩いて行って大浴場で入浴させなくてはならないというような大変な目にも合いにくいし。何かと良いことづくめなのであります。唯一の問題点は、旅館やホテルに比べるとお部屋同士の壁が薄いことで、もしもそうたろう(仮称、息子、一歳)が夜泣きでもしたら……とびくびくするのですが、今のところ何とか無事に夜を過ごしています。事前に子連れであることを申告しておくと、お宿の方でも部屋割で配慮してくださっていることが多いのです。ありがたい。

 さてさて、久美浜のお話でした。
 山陰海岸国立公園内のこの久見浜湾というのは、地図を広げていただくとわかると思いますが、日本海に直接面しているわけではなく、ほとんど湖のように陸で囲まれている、不思議な地形です。すぐ近くに日本三景のひとつ天橋立があるのですが、同じような砂州(さす)で作られた地形なので、あちらを「大天橋(だいてんきょう)」と呼び、こちらは「小天橋(しょうてんきょう)」と呼ばれているんだって。
 小天橋。なんともかわいらしい名前だと思いませんか?
 私たちが泊まるのは、この湾に面したアットホームな民宿、そしてここで私はものすごくおいしいワカメに出会ってしまったのであります。
 それは、朝食の食卓に、干した状態で載っていました。
「そのまま手で揉んで、ごはんにかけるとおいしいですよ」と女将さん。
 少しちぎって口に入れてみると、ふわー。磯の香りが鼻に抜けていきます。
 おいしい! おいしいねえ。同じく食卓に載っていた湯豆腐の小鍋に入れてみると、かさかさワカメはみるみるうちに生き生きした姿に戻りました。こりこりシコシコしておいしいのです。
 私は普段、スーパーで塩漬けワカメを買うのですが、このワカメは香りも歯ごたえも、いつものものと全然違う。
 そういえばワカメにも旬があって、春。今がその時なのでした。
 とってもおいしいです! そう言うと女将さんは「うちのおじいさんが、この時期はいつも朝、穫りに行くんですよ。それを目の前の浜で干すんです」ですって。
 なるほど、新鮮なわけです。
 前の晩も海の幸をたんまりいただいて、お腹がはち切れそうになったのにもかかわらず、朝になるとなぜかまたお腹が減っている。上げ膳据え膳で、何にもしないでただ食べてごろごろぐうたらとは、ぜいたくなことですなあ。このお休みが明けたら私も頑張ろう……。今はおいしいものを満喫するのだ。  ぱくぱく、ぱくぱく。お皿からはみ出すほどの巨大アジの干物も「うちのおじいさんが釣りました」とのことで、肉厚、脂がのって絶品です。フキの煮物やタケノコ、卵焼きもいいお味。ああ幸せ。
 それにしてもこのワカメ。ちょっとでいいから持って帰りたいなあ……。
 あのう、もし良かったらこのワカメ、少し譲っていただけませんか? 女将さんに相談したところ「ええどうぞどうぞ!」と嬉しいお返事。
「ちょうどお土産に差し上げようと思っていたんですよ」スーパーの白いポリ袋にぎゅう詰めの、生のワカメがどんと私たちの前に登場しました。
 ひゃあ、大量! びっくりして目を丸くしていると、干しワカメも同じポリ袋で一袋登場しました。
「どうぞ持って帰って下さい」「おいしいと言っていただいたので、おじいさんがたった今、もう一度船に乗って穫りに行きました」
 ええ!?
 あまりにたくさんなので申し訳なくなり、せめてお代を、と思ったのですが「いいんですよ」とにこにこ。
「それより、朝ご飯を召しあがったら、うちの船を出しますのでぐるりと湾内を一周してきてください。今日はお天気もいいし、気持ちがいいですよ」
 窓から外を見ると、目の前に宿の船があり、そのそばの物干し竿に、穫ってきたワカメを干すご主人とおばあさんの姿がありました。
(つづく)