冬のおひさま、の巻。
 川の流れというものはずーっと眺めていても見飽きることがありません。なんでもかんでも海に向かって流れて行くでしょ。
 子どものころから今まで、何回笹舟やタンポポ、小枝や葉っぱやどんぐりを投げ入れてみただろう。山からしみ出した水が小川になって、流れるうちにどんどん大きくなっていつかあの広い海まで行くのです。私がちぎったあのタンポポはどこまで行けるかなあと想像するのが楽しかった。『桃太郎』は上流からやってきたし、『トムソーヤの冒険』は筏でミシシッピ川を下る。物語が活き活きと動くのは川の水のうねり、流れがあるからだと思うのです。
 目の前の穴吹川では、桃ではなくて子どもたちがどんぶらこどんぶらこと流れてきます。なんとも気持ちが良さそうに! そして背中とおしりを陽に当てて、獲物を捕るのに夢中な子も。ああ、どんなのがいるのかなあ。魚? エビ?  気になって自分も確かめてみたくってうずうずします。  せっかくだし私も川に入ろうかな。

 夫は野田知佑師匠のカヌーを特別にお借りして、娘と乗ることにしたようです。娘は野田さん宅の前の大きなため池で漕いだことはあるものの、川でカヌーに乗るのは初めて。
「お父さんはカヌーで沈(ちん)した、ひっくり返ったなんてことはこれまで一回もないのだ。安心して」
 慎重派の娘は夫の「さあさあ」という誘いに熟考している。ちょっと怖いかもと尻込みしつつ、でも川の学校生のお兄さんお姉さんたちの楽しげな様子にも心引かれていたのか一緒にいくことにしたようです。
 そうそう、そうだよ。ここで行かなきゃどうする。
 行ってらっしゃーい! がんばってねー。 父娘を送り出した私は、息子とテントでごろごろ、そのうちに、ぐー。すぴー。いつの間にか一緒になって寝てしまいました。
「……ただいまあ」
 あれ? いつの間にか娘が帰っています。見ると、しょぼくれた濡れネズミ。「2回もひっくり返ったんだよお……」お、半べそだ。夫もTシャツ短パンの裾からぽとぽと水が垂れている。
「瀬のところで前のふうたろうが急に振り返ってこっちにしがみつくからバランス崩れてさあ」「しかも2回とも!」
 ふうちゃん、怖かったんだねえ? と聞くと、うんうんと頷きしがみついてきました。
 これまで、ため池でしか乗ったことがなかったから、川の流れをダイレクトに感じてびっくりしたらしい。野田さん曰く、愛犬ハナも最初怖がって急に立ち上がったので、沈して、何度も叱っていたそう。ハナは日本を代表するカヌー犬と思っていたけど、初めからカヌーが得意なわけじゃあなかったんだなあ。ちょっと笑える。
 ねえねえ。濡れネズミついでに、一緒に泳ごうよう! 完全に腰の引けている娘を抱えて、川の流れに身を委ねました。「つーめーたーい」「こーわーいー」かちかちに体を固くしてしがみついてきましたが、ぷっかぷっか浮かんでいると次第に緊張もほぐれてきたようです。体と心はつながっているのがよく分かる。怖いだけで終わってしまってはもったいないものね。川に落っこちるなんて、相当びっくりしただろうけど、いい経験したなあ。やっぱり来て良かったな。

 娘が川から上がった後、私はスタンドアップパドルボード(SUP)に挑戦。ずんぐり太めのサーフボードに乗ってくいくいと櫂を漕ぐ乗り物です。ずいぶん前に一度だけハワイでやって楽しかったんだ。川の学校のスタッフさんの私物を、空いているタイミングでお借りできたのです。
 流れの緩やかなところで乗っていると、川底の岩や魚が見える見える! 水面に立っているなんて、葉っぱに乗ったアリか、アメンボにでもなったみたいな気分です。ひゃっほーう。楽しいなあ!
「なんでずっとにやにやしてるの? ブキミ。しかもへっぴり腰だし」なんて夫や娘に言われつつ、大満喫しました。本当にあとで写真見たら、どのカットもにやにや笑いでした。だって面白かったんだもの。

 ところで後日、娘が学校の作文に、「今週あったこと」を書きました。
《カヌーがひっくりかえって、水をがぶがぶのみました。おとうさんはじぶんもおよげないくせに『だいじょうぶ、おとうさんにつかまって』といいました。ふたりでしばらくながされてから、りくに上がりました》
 どこかへっぽこな香りのする父娘。いいコンビだね。
 さて。来年は二歳になる息子も川遊びできるようになるはず。息子用のちびライフジャケット買うぞ! 暖かい季節が待ち遠しいです。