冬のおひさま、の巻。
 12月最後の土曜日。私は滋賀の田舎で、子どもたちと一緒に小さな畑の真ん中にしゃがんで、丸々と太った大根を抜いていました。
 晴れてはいるものの、師走ならではの凍えた空気です。ずいっと頼もしく育った大根たちは冷蔵庫に入っているのよりも確実に冷えている。真上から見ると、葉が放射状にぶわっと平たく広がって、お隣同士で絡み合っています。オレがオレがオレこそがって、できるだけお日さまを浴びようとする活動が静かに激しく繰り広げられているのです。
 首をかしげて株元あたり、真横から見てみると、黒々とした土から真っ白な肩がにゅーと出ている。早く早く上に上にと背伸びしているみたいに、胴体の半分ほどが露出しているものもあれば、5センチほどしか出ていないものもあって。しかも一度に蒔いたはずの種なのにそれぞれ太さも違うのが、実に個性的です。人間模様ならぬ野菜模様が興味深い。畝をじっくり見て、ひときわ混み合っていそうなところから太いのを選び、こんがらがった葉を整理して、うんしょと真上に引きました。プチプチと根の切れる音。しっとりしめった土が大根のひげ根に固まってついてきます。大地の良い匂いがする。
 黒い土の中で暮らしていたというのに、手の中にある大根が真っ白なことにいつもはっとします。本当に不思議だなあ。そして、ちっぽけな種が何百倍もの大きさに育つことにも驚くのです。
 手にして眺めていると、指先がかじかむほどの冷たさ。だけどとってもおいしそう!
 この畑は義母のものです。母屋の真裏にある、実にこぢんまりとしたかわいらしい畑なのですが、漬物にする大根、煮物にする大根、青ネギ、春菊、ホウレンソウ、白菜、それから春に収穫するグリーンピースの小さな芽もぴょこぴょこたくさん顔を覗かせています。いろんな緑の豊かな世界。
 冬となるとしょびしょびの雪が多いこの地域、晴れた日なんてそんなにないだろうに。わずかなお日さまの日差しでここまで育つなんてすごいなあと、感心してしまいます。
 これが春になると大根のところにジャガイモが植えられたり、夏はグリーンピースの場所がキュウリ、カボチャのツルは畑の周りをぐるりと一周していたりで、義母は本当に畑のやりくりが上手。季節ごとにいろんな野菜を育てているのです。
 私はこの小さな畑を見ているのが大好き。上手くタイミングが合えば、ジャガイモの種イモを植えるのをやらせてもらったり、グリンピースの支柱にする竹を藪へ切りにいったりと、ちょっとしたお手伝いができる。
 大根の隣にある白菜は、虫食いの穴がいっぱい。外側の葉はレース編みみたいになっています。この芸術的編み物をこしらえた犯人、はらぺこあおむしはどこにいるんだろう……と目を凝らしてみるけれど、忍者のように隠れているみたい。どこにもいないなあ。よく見てみると白菜の葉って、太く長い産毛がけっこうたくさん生えているんですね。ホウレンソウはというと、これまた地面ぎりぎりで平べったく勢力を広げていて、緑も濃く、葉も分厚い。無骨さが際立っていて春先のそれとはだいぶ様子が違います。
「畑にいるのが楽しい」と義母は言います。土を触っているのが本当に気持ちいいの、ちっとも飽きないのよと。なんだかそれ、わかるなあ。畑に所狭しと色々植えているのは楽しんでいる証拠です。話を聞いていると、今冬はカブはお休みしてねえ、とか、ネギの苗をお隣から分けてもらったの、とかよく言っているのです。家の裏に自分の小さな畑があるのって理想的。うらやましいなあ。
 抜いた大根はおでんになりました。きめ細かくて甘みのあるおいしい大根。寒さで凍らないように、野菜は自力で糖度を上げる。だからおいしくなるんですよね、と以前築地の八百屋さんが言っていたなあ。
 元気な葉っぱは、さっと干して、何にするか考えよう。刻んだ葉とおじゃことを炒めてもおいしいし、豚肉と味噌炒めにしてもごはんが進むんだよねえ……。ああ、あれこれ思案するのが楽しいな。
「そういえば、私の母が干した大根葉をお風呂に入れると体が暖まると言って昔は時々やってたわ」と。ええ、大根風呂? 「もわもわと大根の香りがして、あんまり良いもんやなかったけどねえ」。面白そうだなあ。ちょっとやってみようかな。
 冬の終わりかけになると、食べきれなかった大根で義母は「千切り」(切り干し大根のこと)を作ります。天日に干したこれが、また甘くておいしいんだ。うちの子どもたちの大好物です。「千切りにするのは力がいるから大変なんよ」とこないだ言っていたから、次は私が頑張って作ってみるか。

 4月から始まったこのラジオの番組。いろんな土地でいろんな農家さん、酒蔵さんのお話を伺ってみて、普段口にしている野菜や果物がどんなふうにして育てられるか、日本酒がどうやってできるのか、知らないことがたくさんあって驚きました。プロの話はどれもこれも貴重で、とっても面白い。
「タマネギの収穫時期は就農1年目からわかりました。緑の葉が倒れたら、掘るんですよ」とタマネギ農家の浅田さん。
「スイカの収穫時期は見た目ではわかりにくいんですよ。28年やっているけれど、私も正確なところはわからないのです」とスイカ農家の伊藤さん。
「この仕事を辞めようと思ったことがない。田んぼに出るとストレスがなくなりますよ。だから休みがなくても大丈夫なんです」と米農家の諸橋さん。
 どれだけ頑張っても上手くいかないことがある。だから次はこうしようああしようって、考える。絶対においしいものを作ってやろうと思うから、面白くてやめられないんだとみなさんがおっしゃいます。
 この夏はわが家でも娘が甘長トウガラシの苗を育てていました。日当たりも良く、米のとぎ汁をかけていたお陰か立派に苗が育ち、ものすごくたくさんの実をつけてくれました。ほくほく顔で収穫、「今日は5本」「7本もあったよ」「お母さん2本食べてもいいよ」ちょっと得意げに台所へ持ってくる娘が面白かった。やっぱり収穫ってうれしいものなんだよなあ。いろんな作物の「収穫祭」、祭りが世界中で行われているんだもの、あたりまえか。
 土に触れることの楽しさ、厳しさ。できたものを食べるときの、食べてもらうときの喜び。身近なところからでも入っていくことができるけれど、突き詰めていくと天は果てしなく高いところにあるのだなあということをつくづくと考えた年末でした。
 2015年はどんな方に出会えるのかな。どんな言葉に出会えるのかな。楽しみです。