ぎゅうぎゅうづめで白浜旅行の巻
 この冬は本当に寒かった! 私の暮らしている京都では、この冬中どんよりの曇天、雪がちらちら、こんこん、あるいはみぞれがびしょびしょと降る日ばかりでした。実に辛かったなあ。こんなに春が待ち遠しいと思ったことは、今までなかった気がします。
 12月1月2月……と、ずっとこのお天気にやられてしまい、私としては珍しく気持ちもどんよりしがちでした。寒いので何もやる気が起こらなかったのです。心を奮い立たせないと外に出る気がしない。家から一歩出る瞬間、おへその下にぐっと力を入れ(よし)と覚悟を決めて出て行かないと負けてしまいそうで、好きな散歩もちっともする気が起きず。実際には、ぴちぴちと跳ね回る元気な子どもたちが家にいるので、着込めるだけ着込んで鴨川やら宝ヶ池やらに繰り出しましたが……。
 時々仕事のために東京に行ったりすると、京都のそれとはまるで違う、からっからの晴天にしばしば愕然としたものでした。移動の新幹線の中から、名古屋、東海エリアに入ったあたりで気候ががらりと変わるのが見た目でわかるんですね。京都から東京なんて新幹線で二時間半もかからないのに、本当に不思議なものだなあ。逆に帰り道、どんどん雲が増えてくる空を見て(ああ、帰ってきたなあ)と思ったり。
 京都へ越してからというもの、東京から京都へ撮影で来られるスタッフのみなさんには、つい「こちらへお越しの際は充分な寒さ対策をしてきて下さい!」とお節介を言うようになってしまいました。
 我が家では元日早々にボイラーが壊れるという事件が起き、七日間全くお湯が出ない生活を強いられたりもしたもので、それも芯から冷え冷えするという原因のひとつになったのだと思う。

 その日は、外は20センチ超の積雪。初めは雪でボイラーの吸気口でも詰まったのかと思ったのですが、見ればそこに雪はなく。老朽化していた機械がこれまで一生懸命頑張っていたものの急な冷え込みでとうとう燃え尽きてしまった(工事してくださった方、談)……という切ない顛末でした。  ああ、あの、食器を洗うときの手のかじかみようったらなかったなあ。夫、私、娘で交代交代に洗いましたが、昔の人はみんなこうやって洗っていたんだろうねえとか、魚屋さんお豆腐屋さんとかはいつもこうして冬の寒いときも水仕事されているんだねえとか、いろんなことを話し合うきっかけになりつつ、お湯が出るありがたさが身にしみてわかった数日間でした。大雪で車も出せず、一歳児のちび連れて徒歩でお風呂屋さんに行くのも難しく、やむを得ずホテルに一泊したり。振り返ってみると、まあ色んなことがあったねえ。  とにかく寒くて寒くて! 
 早く冬が終わって欲しいなあと日々思い続けているので、東京にいたときよりもより敏感に春の訪れを感じるようになったのかもしれません。

 ある朝、春は急にやってきました。
 布団からいつものようにえいっと起き上がったときに(あれ?)と思ったのです。なんか、いつもあたりまえにあった「びーん」と音まで聞こえそうな冷気が和らいでいるではありませんか。庭を見れば、植木鉢のチューリップの芽が出ています。ぽこぽこと、濃い緑色の、分厚い頼もしいちび葉っぱ。
 外に出れば近所のおうちの「ロウバイ」が咲きはじめたことにも気がつきました。梅より早く咲くロウバイ。半透明の黄色いあの花は、独特の芳香がありますね。近所のロウバイは結構大きい樹で、毎年見事に花を咲かせるのです。枯れ茶色、灰色の世界が急に淡い黄色で満たされて、見ているだけで気持ちが明るくなりました。
 近くのおまんじゅう屋さんも、覗けば三色団子やよもぎ餅うぐいす餅など春らしいお菓子を多めに並べ始め、またそれを買い求めるお客さんも増えてきました。
 鴨川に出れば落ち葉の下にはちっちゃなクローバーの一群れが。桜の花芽も少し大きくなってきている!
 ああ、みんな、みんな、準備していたんだねえ。あれだけ寒かったのに、ちゃんと、春が来るのをわかっていたんだねえ。
 待ちに待ったからこそ、とびきり愛おしい、と思えたのかもしれません。
 春が来た。春が来た。
 急に自分がいきいきしてくるのも、根がきっとシンプル、つまり単純だからに違いない。わかりやすい性質です。
 早速滋賀にある、夫の母の畑を耕しに行きました。3月8日から10日くらいの間にジャガイモの種イモを植え付けるのが例年定番となっているのですが、事前にその準備をしに行ったのです。
 まず残っていた大根、ホウレンソウや白菜も抜く。グリンピースの苗を慎重に避けつつ、近所の方から分けてもらったという落ち葉の堆肥をたっぷりと撒き、鋤や鍬で耕していきました。硬くなった土を掘っては砕き、掘っては砕き。
 小さな畑なので、全て手作業です。小石や虫もひとつずつ取り除いていきます。時々ものすごく太いミミズが顔を出し、そのたびに娘は「あっ! それ、ちょうだい」と自分も怖いくせに、いとこらを怯えさせようと、そこらの容器に入れて運んでいくのでした。自分よりも人が怖がっているのを見ると、嬉しく楽しく愉快な気持ちになるという、若干ひねくれた性質を持つ娘。そんなところ似なくていいのに……、あ、夫のことですよ。
「ふうちゃん、こっちにもっとぶっといのがいるよ」いひひ、と笑いながら夫はさらにミミズを勧めるのでした。
「土を触っているのは楽しい。心が穏やかになるんよねえ」義母がいつもそう言うのですが、本当にそうだ。ずーっと畑にいる私に「ひと休みしよ」「お茶飲も」「あんまり根を詰めたら疲れるよと言ってくれるのだけれど、なんのなんの。お役を譲ってくれた義母には感謝。慣れないからへっぴり腰でかっこ悪い、かつ時間もかかったけれど、夢中になってしまいました。
 そして翌日は、ちょっとうれしい筋肉痛となりました。