ぎゅうぎゅうづめで白浜旅行の巻
 久しぶりに“ほんじょ一族”で旅行に出かけました。今回のメンバーは、おかん、私、妹しーたん、私の子ども8歳&2歳、妹の子ども4歳&10ヶ月の計7人、そして犬のイチローというチーム。夫は「原稿書き」とかで留守番、さびしそうなふりをしていますが、《一人になってうれしい》と顔にはっきり書いてあります。
 このメンバーで旅に出るのは半年前の夏休み、山形・庄内への帰省以来です。いつもながら一台の車にぎゅうぎゅうづめで出かけます。
 7人乗りのファミリーカー内には3台のチャイルドシート。私の足元にはイチロー。おむつや着替え、遊び道具におもちゃに絵本、お茶におにぎり、あらゆるスキマスキマにきっちり仕込んで極限まで有効活用、もうこれ以上は入りませんよ! の飽和状態であります。
 これで南紀白浜アドベンチャーワールドに出発です。
「なんかしょっぱい味のおやつ、ある?」「おばあちゃんと前に行ったときはどこに泊まったんやったっけなあ、一泊は民宿で、一泊は奮発して旅館にしてんけどなあ」「おわつ(おやつ)ちょうだい!」「お姉ちゃん、そうちゃんにこれ食べさせていい?」「うん」「あっ、ちょっと! あいたたた」「おばあちゃんが生きてたのはもう二十年くらい前やろ、白浜になんて行ったっけ……」「さくちゃん、歌、歌おう」「あんた、本当に連れてった甲斐がないなあ。海の見える温泉、行ったやん」「きらきらひかるー♪」「あいたたたた、いたい、いたい!」「もう、やめなさい!」「そうそう、温泉と言えば、こないだセナハさんとお風呂入りに行ったらな、お母さんの分までおごってくれはってん」「ぐすんぐすん」「ほら、はるちゃん電話のおもちゃだよ、もしもし、は?」「あっくんも、もしもししゅる!」「それでお昼ごはんまでご馳走になってしまったんやわ」「お母さんお水ちょうだい」「ぐすんぐすん……」「なんかあついなあ」「やめないと、コワいコワいが来るよ!」「ちょっと、お母さん次のパーキングで止まって」「おっぱいかな」「さむいなあ」「びえーー」「ねむいんやわ」……
 わざわざ白浜の動物園まで行かなくても、すでにこの車内が動物園の檻の中みたいな状態で、誠に騒がしい。さらには、ぼりぼりばりばり、ちゅうちゅう、ごそごそ、がりがり……いろんな音が交錯しています。
 いちばん静かなのは犬のイチロー。助手席下に愛用の毛布を敷いてもらうとさっさと丸くなって、耳は蓋をしたみたいにぺたんと閉じて眠りだしました。放浪の旅が好きな母にどこでも付いていく犬のイチローは、今やベテラントラベラーなのです。
 私たちは子どものころから方々へ車で連れて行ってもらっていたけれど、今も昔も車にぎゅうぎゅうづめなのは変わらないなあと思う。大抵、私と妹のほかにいとこも乗っていたし、ペットだって犬以外にもうさぎや文鳥、カメまで積んでいました。食料もたっぷり、鍋釜コンロといった炊事道具まで積み、お腹が空いたら空き地でラーメンとか作って食べたりしていたのです。とにかく我が家は、昔から荷物が多かった。
 お陰で私は旅の荷造り、車の積み込みが上手い大人に成長、やっぱりそれはそれで荷物の多い夫に「さすがやな」とちょっと引かれつつ、地味に尊敬されている。まあ、相当場数踏んできましたから……。
 それはそうと、この水入らずの旅も三十年くらい経つと、さすがに乗組員は新人の方が増えていますね。車内に充満する子どもの声は変わらないから、時折ふっとタイムスリップしたような気になるんだけれども。私も妹も今や、それぞれふたりの子のおかんとなりました。なんだかしみじみするなあ。おかんだけは相変わらず元気で。なにごとにも動じず、ずっとマイペースでしゃべり続けている姿勢も変わりません(上のセリフのどれがおかんのものかは大体わかっていただけると思います)。

 今回の旅のお目当ては、パンダの赤ちゃんを見に行く、と言うものでした。母譲りの動物好きの私たちは、今しか見られない双子の赤ちゃんパンダを見に行こうと、春休みの計画を立てたのです。
 パンダの赤ちゃんは昨年末に生まれました。実は二ヶ月前、アドベンチャーワールドを取材で訪れたときに、スタッフの方から「3月頃になると白黒模様もはっきりして毛もふわふわ、ころころとぬいぐるみみたいになってきて、かわいい盛りになりますよ」と伺っていたのです。
 パンダの赤ちゃんのかわいさについては、岩合光昭さんの写真絵本『10ぱんだ』(福音館書店)で、10頭の赤ちゃんパンダがころころしている写真を見て堪能していたつもりだったのですが、このおすすめの一言で「これは実物の赤ちゃんパンダも見るべきなのではなかろうか、いや見るべきだ!」と思ったわけです。
 白浜には、この双子の赤ちゃんの他にも5頭のパンダがいて、これは国内最多の飼育数なのだそう。取材時は、芝生の上をたったかたったか走り回り、木にすいすい登ってどさっと落ちる芸(?)まで見せてくれた、アクティブなパンダの日常が見られてそれは驚いたものでした。
 白浜の白良浜(しららはま=ルビ)は、その名の通り白砂の美しいビーチ。その浜辺に建つ宿に荷物を下ろし、早速子どもたちを砂浜に放つ。夏は海水浴客でいっぱいになるこの場所も、春休みが始まったばかりとあって、卒業旅行で来たのでしょうか、若者のグループがビーチボールで遊んでいたり、親子連れがのんびり貝殻を拾っていたり、年配のご夫婦が記念撮影をしていたりと、のどかな雰囲気でした。
 風はまだ少し冷たいけれど、さっそく靴を脱いで裸足で砂に触れてみる。砂浜に座って潮の香りを嗅ぎながら、ぼーっとお日さまと雲、海の色の変わるのを見ていると(保養に来たなあ)という感じがします。《歩く百科事典》と言われた南方熊楠(みなかたくまぐす=ルビ)は、和歌山県の生まれ。ここ白浜には記念館もあるのです。尊敬する熊楠先生もこの浜に立って海を眺めた日もあったかしら、と思うとそれだけで胸が高鳴る。本当は熊楠先生の残した標本とかも見に行きたいんだけど、それは今回はお預けとしました。

 そんなこんなで久々の休暇でした。4人の子ども相手に仕事以上に疲れつつも、自然の中の子どもたちを見ると癒されるのもまた事実です。
 あっというまの2泊3日が過ぎて、またぎゅうぎゅうづめで帰る私たち。
 みんなでがっかりしたのは、帰りの楽しみに買っておいたパンダの形のチビカステラが、袋だけになっていたことです。一袋500円、ふわふわしていておいしそーな逸品だったのに! 一瞬我が子を疑いましたが、よくよく調べたら犯人はイチローでした。