みたらし祭り、の巻
 京都、下鴨神社のみたらし祭に行ってきました。
 7月、土用の丑の前後に毎年行われるこのお祭り、別名「足つけ神事」とも呼ばれているようですが、いつもは入ることのできない御手洗池に足をつけて無病息災を願うというものです。平安時代の貴族たちは、季節の変わり目には穢れを払い身を清めていたそう。 そういう風習が現代にもこうした行事を通じて伝わっているようです。
 夕方六時半。お隣の奥さんのKさんと連れだって、出かけました。
 Kさんは、お孫さんが4人。いつもうちの子たちを気に掛けてくれ、お孫さんの使っていたちっちゃな自転車を何ヶ月も貸してくださったり、お家に招き入れて下さって遊んでくださったり。今年のお正月、元旦からの大雪騒ぎの時は、そのお孫さんたちとうちの娘は、一緒に道路でかまくら作りをしていたっけ(雪がどっさりあると子どもたちは初対面でもすぐに仲良くなる)。

 さて。
 夏の暑い暑い夕方。太陽はもうすぐ沈みそうですが、日中充分に熱せられていた地面はまだもわもわと空気を暖め続けています。
 二歳のそうたろう(仮名、二歳)はこのところお気に入りの「霧吹き」を片手に、久々のベビーカー。対面式、しかも座面が高いということもあり、ガンマンよろしく私やおかん、姉のふうたろう(仮名、八歳)、Kさんを狙ってしゅっしゅっと霧を吹きかけてきます。見た感じはだいぶかっこ悪いですが、水鉄砲と違って撃たれた方はびしょびしょにならないし、なにやらミスト効果で、気化熱利用、体温を下げられるかも……といったありがたい尽くし。つまり、結構おすすめなのであります。
 「近道しましょうね」と先導の奥さんが裏路地をすいすい、右へ左へと誘って下さいます。普段散歩は好きなので、家族では近所もうろうろとしているのですが、夕方のこの時間、顔なじみとはいえ初めて一緒に出かけるKさんに案内されていると、知っているはずの小道も、どこか旅先の知らない路地に見えてきて、不思議に面白いのです。
 昔々、出雲の人たちが大勢移り住んできたことからこの名前がついたという出雲路橋を渡ります。路地から一気に視界が広がる。山々はシルエットになりつつある時刻です。賀茂川を渡る風の涼しいこと! ああ、空がキレイ! みんなで感嘆します。

 あれこれおしゃべりしているとあっという間に下鴨神社に着きました。
 自転車置き場にベビーカーを置いて、境内へ。うっそうと茂る、黒々した森を抜けていくと、お社の前に出ました。
 目の前の朱塗りの門には提灯がたくさん。明かりがほわーっと灯って、風にゆらゆら揺れて。見上げた空は茜色、幻想的な光景です。
 まずはお詣りをしましょう、と、それぞれの生まれ年の祠の前へ散らばりました。娘の戌、息子の巳、私の卯、順番にお詣りです。
 そして、いよいよ御手洗池へ。ぞろぞろとたくさんの人たちが列をなし、靴や靴下を脱いで、手に手にろうそくを持って池へ入って行かれます。なんだかみんなが当たり前のように膝までズボンの裾をめくって準備しているのがおもしろい。神事だから、それなりに厳かな心持ち、表情なんだけど、子どもや若い人たちだけでなく、おじさまもおばさまももれなく膝小僧出しているんですもの。みんなちょっと夏休みの子どもみたいに見えるのです。
 うちのおかんはというと、ワンピースのスカート部分を半分くらいパンツに挟んで、準備は完璧のようです。
 娘と手を繋いで足を水にそろり。
 わあ、冷たい!
 奥さんが「気持ちがいいわねえ」、おかんも「ああ、汗が引きますねえ」。みんなニコニコです。水の中を進んでいくとロウソクの火をつける場所があり、それから献灯場所になっている池の一番広いところに出ました。
 わああ。見ると息子が腿まで浸かっている! 冷たいのか固まっています。一番深いところで大人の膝下ぎりぎりまで。結構深いのです。お灯明を供え、お詣りを済ませて水から出ると、身体がすーっとして、気持ちがよかった。
 その後、足を拭き靴を履いて、全員膝小僧の非日常の光景から、みんな普通の道行く人に戻りました。
 おしまいにものすごく長い、バーのカウンターみたいなところでお水をいただいて(これがおいしくて、ついお代わりももらってしまう)、一連のみたらし祭のお詣りは終了しました。
 糺(ただす)の森は、お祭り屋台がずらり。そぞろ歩きを楽しんで、娘はわらび餅(みたらし団子は大行列だったので断念)、おかんはグリーンティー。それから金魚すくいもしていました。おかんは八匹すくい、目当ての出目金をおまけにつけてもらって大満足。帰途につきました。
 奥さんは縁日好きのうちのおかんが気もそぞろになっているのを察知して、息子を抱っこしてくれたり、荷物を持って下さったり、本当に優しかった。
 一緒にいかがですか? と誘って下さって嬉しかったなあ。
 こんなに素敵なお祭りがあるなんてこと、知らなかった。
 ご近所づきあい、大切! って心から思うのです。