苔ってさ、の巻
 毎年、母の田舎、山形の庄内で夏休みを過ごします。集合するのはオジオバ、イトコ、その配偶者、子どもたち。毎年代わり映えしないメンバー……のはずですが、最近イトコ世代が出産することが多く、新メンバーの赤ちゃんが毎年増えています。
「わあ久しぶり!」「おお! 君がハルちゃん!」「初めまして〜ユイです!」「いやー、顔、一緒やん!」「サクのミニチュア版だー」「マイちゃんがお母さんになったなんて、笑えるねえ」「そうでしょう??」
 私のイトコは全部で14人。今年の春、唯一大学院まで行ったカズくんが社会人になり、これでみんな独立しました。
 ちっちゃくって、からかわれてはべそをかいていた彼が会社勤めをするなんて、感慨深いなあ。
 おじいちゃんおばあちゃん、みんな立派に、いや立派とは言えないかもしれないけれど、孫たちは大きくなりましたよ。最年長の私は、イトコたちみんなの、豆つぶ時代からの成長をしげしげ見ていたので胸がじんわりしてきて、ついつい天国に向かって話しかけたくなるのであります。
 そうだそうだ。カズくん、遅くなったけど就職祝い何が良い? 全員にあげたわけではないのだけれど、ここはひとつ姉さんぶって聞いてみる。
「うーん、枕、かな」
 へ? 枕?? 半紙で作った簡易のし袋に〈就職祝 枕代〉と書いて渡しましたが、枕代ってなんか変だなあ。締まりがないというか……まあでも、元気に働くためにも睡眠は大事だからいいか。
 みんなで海水浴にも行きました。車で二〇分ほどなのですが、人数が多すぎるので数台に分乗します。「じゃあ自由の女神で!」「OK!」という感じ。

 自由の女神というのは、庄内の湯野浜というあたりの海岸に立っている像で、「フ、自由の女神」とかといたずらで呼んだりする子もいるのですが、なんでそこに立っているのかいつからあるのかは全くわからない、本当にこじんまりとした石像です。そもそも本当に自由の女神の形なのかも、近くに寄って確認したことがないのでわからないのです。急にミロのビーナスに替わっていても気がつかないかもしれない。
 それぞれ適当に買ってきたおやつやパン、みんなで握ったおにぎり、ゆで卵。簡単なお昼ご飯を食べつつ、赤ちゃんとじいじばあばはゴザの上、元気な男子どもは海へざぶざぶ。
 おーい、クラゲ居なさそうかーい? 「大丈夫、いないよーう」。よし、クラゲチェックはOK。じゃあチビさんたちも入るか!
 ゆっくり準備運動をして、私も入りました。浜は人もまばら。のんびりのどかで、曇天、気温も低めで風もなく、赤ちゃん連れのピクニックには最適です。海も水温低めでしたが、ずっと浸かっている分には、冷たい! と縮こまるほどではない。

 子どもたちのわあわあきゃあきゃあいう声を聞きながら仰向けに浮いて、身体の力を抜いていきます。全身を海に委ね、あたかも一枚の海藻になったような気持ちで漂うのです。エステとかマッサージとかとは種類が全く違うのですが、私にとってはこれが究極のリラクゼーション。ああ気持ちが良いなあ。いつまでも浮かんでいたいよ……、ぷかぷかプカプカと海面に漂い続けました。
 うちのおかんやオジオバたちも、子どものころから遊んだ海。この海に入らなかった夏は、本当に、数えるほどしかないのです。

 一面にハスの花が咲く池を見に行ったり、イトコの奥さんの親戚のおじさんが営んでおられるラーメン屋さんの、絶品「納豆味噌ラーメン」を食べに行ったり、別のイトコの職場(お店)に買いものに行ったりと毎日みんなでぞろぞろと行動。おやつタイムは家の冷凍庫のアイスクリームが飛ぶようにはけ、チビさんたちが白玉だんごを大量に作り、大人たちにも振る舞ってくれました。
 夜はガレージでバーベキュー。お肉を2.5キロ買ったのですが「ねぶ(私のことです)、人数考えてよ。ひとり100グラムも食べられないじゃん!」だって。言われてみると確かに計算上はそうなりますなあ。いやいや、もはや人数が多すぎてよくわからないんだよ……。
 椅子やテーブルをありったけ出して、ゴザも敷いて。母の兄弟姉妹は今年も五人全員が集合。みんなでくっついて座って、お酒飲みながらガハガハ笑っています。「いがったっちゃや(良かったじゃない)」「おもしぇのう(面白いねえ)」と庄内弁が飛び交う。五人それぞれ、ちょっとずつ顔がリンクしているのが面白い。

 イトコチームは時折父ちゃん、母ちゃんの顔をして子どもの相手をしながら、やっぱりガハガハと笑って飲んで食べている。自分の親には近づかず、違うおじさんおばさん兄さん姉さんの膝に乗ったりぶら下がったりする子どもたちも、みんな楽しそう。一日中小競り合いで泣いたり怒ったりすることも多いけど、それでもみんなくっついてころころ走り回っている。昔の私たちと同じです。
 しょうもないことばっかりしゃべっていても、ぐだぐだでも、なんでも大丈夫な空気は、この家に集う人々が醸し出し作り上げた、唯一無二のものだろう。
 
 今年一番沸き立ったのは、叔父宅からやって来た一枚のDVDの、視聴会です。
 モノクロの画面に出てきたのは祖父母も映った、宴会風景。
「ぎゃートミコばば若っ!」「アツシちっちゃっ」「ミドちゃんかわいい」「リョウスケが細い!」「おばあちゃんだ!」「あー、おじいちゃーん」。
 推測するに17年前の映像です。昔のビデオテープを叔父が焼き直してくれたもの。
 祖父母が映る動画はとても珍しい。小さなテレビモニターに映し出される過去に、全員釘付けです。
 宴会場所は今とは場所がちょっとだけ変わっていますが、座卓を二三個つなげて、大皿がどどんと並んで、その周りを見知った顔の人たちが集っている様子、お酒のビン缶が景気よく連なっている様子はちっとも変わらない。「一緒じゃん!」とつっこみつつ、みんなで笑って、それから祖父母の姿にじんわりしました。
 おじいちゃんおばあちゃん。みんな大きくなりましたよ。代わり映えしないかも知れないけれど、相変わらず仲良く宴会しているよ。きっとそっちからも見えているよね。これからもずーっとずっと、見ていてね。
 またね! 元気でね! 数日間の恒例合宿は終了し、またみんなそれぞれの「持ち場」に帰っていきました。再会を誓い合い、冗談めかしたエールを送り合って。ちょっとさみしいけれど、また新しい一日が始まります。