【巻】…11・2368
【歌】…たらちねの母が手放れ かくばかりすべなき事は いまだ為なくに
【訳】…たらちねの母の手を放れて、こんなにもどうしようもないことは、まだ一度も経験していないのよ
【解】…「たらちね」は、豊満な乳房を持つという意味で、母にかかる枕詞です。
万葉集には、母親が出てくる歌が少なくないのですが、その殆どが厳しい存在として描かれています。それはなぜか・・。古代の婚姻は妻問婚、つまり夫が妻の家に通う形態なので、夫はほとんど家におらず、妻が教育やしつけを一手に担っていました。それゆえ、必然的に厳しい存在となっていったのです。
この歌の母親もきっと、しつけ等に厳しい人だったのでしょう。その母から自立への道を歩みだした象徴として、一度も経験したことのない、どうしようもないことに遭遇した!と、作者はやや声高に綴っています。どういう経験だったのかは書かれていませんが、もしかしたら、母親に知られれば怒られるような事なのかもしれません。そうやって母に対して秘密を持つことが、不安ながらも、自立への淡い喜びを呼び起こしたものと思われます。
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