2023年

2月26日

人間とは何か 科学進化が突き詰めるその先

大阪・関西万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。
このテーマを表現する8人のプロデューサーの中から先週に引き続き、大阪大学教授 ATR石黒浩特別研究所客員所長をお迎えしました。

これまでの50年、そしてこれからの50年をどうみておられますか?
「どれだけ加速的に進化するか。
コンピューターだけを見てもAI将棋が人間の棋士を負かす、翻訳もAIがやっています。
このAIの進化は我々も想像しなかったところです。
このAIの進化の速度を見れば、この先の予測もできるかと思います。
目一杯叡智を働かせて万博でお見せできたらと思います」。

石黒さんは未来をどう見ておられるのでしょう。
「未来は変わっていくので怖いものと感じるのはみんなそうです。
今の世界とは変わっていくので。
歴史的に同じことを繰り返しているんです。
新しい技術が出てくるとみんな不安になって、でも知らず知らずのうちに受け入れている。
クレジットカードもサインしてお金のやりとりなんて考えられなかった。
でも使っていますよね。
スマホもそうです。
情報を吸い取られると思っていましたが、なくてはならないものに。
人間にとって便利なものは必ず受け入れます。
そうして人間は進化します。
進化は怖くて勇気がいる。
でもやっぱり人間は進化していくものなんです。
小さい子どもに"わからないことでもやってみよう"っていうでしょ?
それを受け入れると次のことも出来るかもしれない。
同じことを社会のレベルで言っているということなんです。
例えば自転車。
乗れるようになるまで子どもに練習をさせる。
嫌がりながらでも練習させると乗れるようになる。
そうするとあっちの町やこっちの町に行けるようになる。
これと同じことです。
新しい技術が来て使えるようになるともっと豊かになれる。
子どもにいっていることを自分たちで実践するだけだと思いますね」。

石黒さんの子ども時代は?
「将来のことは全く考えていませんでした。
でもやりたいことはたくさんありました。
絵を描きたい、日記を書きたい、山で遊びたい。
やりたいことをやっていただけですね。
画家を目指していました。
工作は好きだし、ものは作っていたのですが、研究者になろうとか、ロボットの研究をしたいとは思わなかったですね。
結局、芸術的なことをやっていても、今のロボットのことも同じ興味なんです。
いろんな興味を持って行き着く先は一緒。
"人って何か"。
絵を描いていた時も自分を表現するためにキャンパスに描いていたわけで、ロボットをやっている今も人間性をどう表現すればいいのか。
この興味というのはみんなも持っているんです。
生きている人間にとって人って何か。
それを知るために進化して、人間の可能性を探求しているんだろうなと思います。
ビジネスはお金儲けなのか、人とつながって互いに支え合うためにあるのか。
明らかに後者ですよね。
お金を山盛り稼いだら幸せなのかというとそうでない。
人と繋がって社会の中で自分の価値を見いだしたり、それを通して人ってなんだろうと深く理解できて満足感を得られる。
今のアバターの研究はその目標に一歩近づいたと思うんです。
いろんな人がアバターを使って自由に働く。
多様な人を多様に結びつける。
アバターの技術を通じていろんな人が結びついてウェルビーイングな社会になればいいと思います」。

改めてアバターとは。
「アバターは元々仏教用語で"化身"という意味です。
日本に馴染みがあるのではないかと思います。
日本はロボットとの親和性が高いと思います。
Vtuberも日本発信。
いろんなものに乗り移って自由に活動する。
これを世界に広げていきたいです」。

今の若者をどう見ておられますか?
「研究室には20カ国ぐらいから来てくれています。
学生は進化している気がするんです。
価値観が変わってきています。
お金や車や家より、人間関係を大切にしたり。
変化しているのは確かですし、変化できない我々より頼もしいですね。
万博の協賛企業に対しても若い社員さんを議論の場に出してくださいとお願いしています。
30〜50年先の会社の未来を背負うような人。
そんな方々とパビリオン、未来を議論しています。
議論が楽しくてあっという間に時間が過ぎていきます(笑)」。

現在、ロボットが活躍しているシーンはどのようなところでしょう?
「アバターがいろんなところで使われています。
コンビニや保険会社なんかでもそうです。
話す相手として人の方が話しづらいことが多いです。
なぜアバターが広がっているのかというと、保険だとプライバシーに関わることが多いですよね。
それがアバターの受付の方が話しやすい。
自閉症の人も人間よりもアバターの方が話しやすい。
なんとなく人間に話す方がプレッシャーを感じてしまう。
就職指導もロボット・アバターでやった場合と人間の場合。
自己開示してくれたのはロボットの場合でした。
自己開示してくれないと適切な就職指導ってできないんですよね。
初対面はロボットの方がいいです。

僕自身もある局のアナウンサーの方に僕のアバターの方が話しやすい、生はキビシイ、存在感が強すぎるって言われました(笑)。
学生に対してもアバターで授業をしたほうがたくさん質問してくれます。
時々、講演もアバターでというと本人が来てくださいといわれるんです。
でも敢えて断ってアバターですると"アバターで良かったです"といわれる。
アバターで講演をすると良いことに、講演も聞けてロボットも見られる。
私本人が行くとロボットが見られない。
なんで私に興味があるかというとアンドロイドがいるからで、この生身には興味がないわけです。
若干寂しいですけどね(笑)」。

改めて大阪・関西万博への意気込みを。
「日本の文化に支えられてこの先、どう進化、発展していくか。
50年先の未来をお見せします。
そして1000年先、人間はどう進化していくのか。
これは芸術的になりますが、お見せできればと思っています。
50年前の大阪万博でも科学技術の展示と太陽の塔という芸術がありました。
太陽の塔は内部に生命の樹があって、人間そのものを表していました。
1000年経って人間はどうなるのか、どうなっていくのか。
そんなものをお見せしたいと思います」。

竹原編集長のひとこと

50年後、いや1000年先の未来を見ることができる大阪・関西万博。
これはもう期待せずにはいられませんね!