2023年

3月12日

命を守る より良い先祖になるために

4週にわたって2025年、大阪・関西万博特集です。
大阪・関西万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。
このテーマを表現する8人のプロデューサーが8つの事業を展開します。
先週に引き続き「いのちを守る」のプロデューサー、映画作家の河瀨直美さんをお迎えします。

万博でいうと大阪では1990年に鶴見緑地で開催された通称"花博"、『国際花と緑の博覧会』がありました。
「私、花博に思い入れがありまして。
当時、お付き合いしていた人と行ったんですけど(笑)。
御堂筋に花が増えて、街中が花で彩られましたよね。
その時に御堂筋に咲いていたチューリップを初めて8mmフィルムのカメラで撮影したんです。
当時、18歳で学校の課題だったんですよね。
アナログなカメラなので撮影する時にピントを合わせないといけないんです。
シャッターを押すとカタカタといって回る。
意思のあるカメラ。
カメラを除いてピントが合った瞬間やまっすぐな茎、鮮明な色のことを今でも覚えています。
でもこの映像は1週間経たないと現像から上がってこないんですよね。
ちょうど入学当初だったんですが、なぜか高熱が出て1週間ぐらい学校を休むことになりました。
熱が下がって、学校に行くとフィルムが上がってきていました。
暗い部屋で映写機にフィルムをかけて観ると...あの鮮明なチューリップが蘇ったんです。
つまり過去が現在にやってきてくれた。
映画はエンターテイメントですが、私はタイムマシンやと思ったんです。
学生時代はバスケットボールをやっていたんですね。
最後の現役引退の試合で奈良県代表として沖縄で試合をしていました。
コートに立てる時間は限りがありますよね。
もうあと何分かで試合が終わる。
そう思うと涙が止まらなくて...。
負けていた試合だったので、コーチに"負け試合で泣くな!"と叱られて。
でも私の中では違いました。
"負けて泣いているんじゃない"
当時18歳の私にはその時間が去っていく無情感が分からなかったんです。
でもこの8mmでチューリップを撮った瞬間、そうやったんか、と。
私のバスケットボールの時の涙の意味がわかったんです。
だから花博は付き合っていた人との思い出ではなくて(笑)、すごく心に刻まれているんです。
あのフィルムを見ると花博が蘇ります」。

過去・現在・未来で生きている私たち。
"映画はタイムマシン"。
納得のお話です。
「最近、あるお坊さんと話していていいことを伺ったんです。
"私たちはいかにして良い先祖になるか"。
私たちは絶対に死にますから。
そして誰かの先祖になるんです。
肉体としての命は無くなっても私たちの魂、心は次の世代の人が繋いでくれます。
そうして生き続けられる。
おばあちゃんがこんなことを言っていた、曽祖母がこう言っていた、姿は見えないけどこんなことを言っていた...昔から日本はこうでしたよね。
万博でそんなことができるんじゃないかと思うんです。
次の世代の子どもがどんなことを感じてくれるかというところに注力しています」。

改めて河瀨さんが手がけるパビリオンはどのようになるのでしょう?
「移築をしようと思っています。
新しいものを建てて、新しい提示をしたのが70年万博。
私は古くて役割を終えたものを移築して万博で蘇らせて活用しようと思っています。
それは廃校になった小中学校です。
そこには記憶が宿っています。
記憶を移築する。
100年ぐらい前の木造建築なんですが、その地域の人たちが建てているんです。
奈良県十津川村の折立というところにあった中学校で地域の人たちが山から木を降ろしてきて建てているんです。
自分たちの子どもが教育を受ける場所は自分たちで作るべきという考えから作られているんです。
だから校舎が地域の持ち物なんです。
その方々に交渉するとパビリオンの趣旨に共感いただいて無償で提供いただけることになりました。
建築として古いものだけれどリノベもしながら新しいものを造ろうと思っています。
京都福知山の小学校も移築します。
地域の皆さんに愛された学校で、見ていると愛おしいです。
大事にしていたところだからこそ朽ちていく建物を見るのがつらい。
でもまた万博で息を吹き返すのは嬉しいと地元の方も仰っています。
万博で価値を上げて、さらに移築して森を守るような活動の一端を担えたらと思っています。
岡本太郎さんの『太陽の塔』も万博終了後、取り壊される予定でした。
でも人々が要望して残った。
社会の中で置き去りにされているものでももう一度、息を吹き返す可能性があるものを活用して、そして未来に繋いでいきたい。
また守りたいと思える感覚を持ってもらいたいですね」。

望んで残して、繋げていく。
パビリオンのテーマ『いのちを守る』に繋がります。
「お金を出せば物が買える、流通もすごい。
でも人は手触りが欲しいと思っているんです。
私個人的なことでいうと畑と田んぼをやっているんです。

トマトやきゅうりを作ろうと子どもと始めました。
当時、小学校2年生、8歳だった息子が今は18歳に。
どろんこの中に入れておくとその中で遊ぶ、コンピューターゲームを与えるとゲームをする。
何を与えられているかが人間は大事です。
土を触るという感覚を取り戻したいと始めたことでした。
8歳で処構わず苗などを植えていた息子が今は担い手ですからね。
お米は全部手植えで鎌で刈って、はざ掛けして、天日干しして脱穀して...。
山のミネラルの水、雑草も刈ったりしないし、農薬は使っていません。
それを10年繋いでいます。
今回の万博のパビリオンも寄りに来てください。
そこで何か感じてください、それはあなた自身です。
学校でも座学もレベルが高いと思いますし、教育レベルも高いと思います。
でも田畑に出て感じることが欠けているような気がします。
自分たちが感じて学ぶ機会を大人がリスク回避をして減っているような気もします。
自分の心の中にある心地よさをパビリオンで感じて欲しいですね」。

大阪・関西万博へ向けてリスナーの皆さんへメッセージを。
「思い切り盛り上げないといけない時期に差し掛かっています。
あ、もう2年後...と、まずは認識していただき、私のキャラを知っていただき、一緒に楽しんでいてくれたら。
何よりも子どもたちが一緒に生き生きと笑っていられる社会を作っていきたいと思います。
より良い私は先祖になる」。

竹原編集長のひとこと

僕らも関わることで未来につながることを河瀨さんの言葉からひしひしと感じました。 大阪・関西万博、みんなで作りましょう!