2024年

2月 4日

迅速で精密 グラム染色自動化医療機器を開発

今週のゲストは株式会社GramEyeの取締役COO 山田達也さん。
池田泉州銀行のイノベーション研究開発助成金のヘルスケア部門で優秀賞を受賞されました。
どういったことを研究されたのでしょう?
「大阪大学発のスタートアップ企業です。
薬剤耐性菌問題、薬の不適切な使用によって感染症の原因である細菌に薬が効かなくなってしまう問題です。
世界的な問題で、2050年には、がんよりも命を落としてしまうと云われています」。

薬剤耐性菌とは?
「薬が効いていく過程の中で100匹に1匹だけ薬が効かない菌がいるわけです。
突然変異である程度の確率で生まれます。
そこに薬が投与されてしまうと、薬が効かない菌が生き延びてしまう。
そうすると100匹に1匹だった耐性菌全てが耐性菌になってしまう現象が起こってしまいます。
不必要な抗菌薬は入れない方がいいということになります」。

私たちの生活の中で病気にかかるとどうしても薬に頼りがちです。
「感染症というものはウイルスによるものと細菌によるものがあります。
皆さんが一般的に風邪と呼ばれるものはウイルス性です。
今回のお話で抗菌薬が効くのは細菌性。
だいたい9割ぐらいはウイルス性なんです。
病院に行くといわゆる抗菌薬、抗生物質をもらうことが多いと思います。
それを日常的に飲み続けると体の中で耐性菌が残ってしまうことになります。
尿路感染症という感染症がありますが、原因菌は大腸菌。
風邪で日常的に抗菌薬を飲んでいると耐性化した大腸菌によって尿路感染症になってしまう。
そうすると薬が効きにくくなったり、入院期間が長くなったり。
あと抗菌薬は副作用として下痢を発症することもあります。
できるだけ不適切な抗菌薬は止めていくことも重要です。
風邪の中でも喉が痛くなる溶連菌感染症には抗菌薬は効くんです。
適切な診断、検査、使い方ですね」。

お医者さんからしても難しい診断なのでしょうか。
「医師にとっても検査がなかった時代がありました。
症状を診て経験的に診断していたことがあったかもしれません。
それに頼ってしまうと別の細菌だったり、別のウイルスだったりする場合も。
しっかりと検査することが重要だとも思います」。

検査のための機器を開発されたそうですね。
「いわゆる感染症の検査は微生物検査と云われます。
コロナのPCR検査も微生物検査です。
細菌の感染症の検査は『グラム染色』と呼ばれる検査です。
菌をピンクと紫に染め分けて顕微鏡で観察をします。
色や形からどんな菌かを推測します。
菌の分け方が陰性菌か陽性菌かと分かれています。
染め上げる手技と顕微鏡で観察して見え方から推測しますので、一定の経験と手間が掛かってきますね。
病院の中の微生物検査は色々と並行して進んでいます。
その中で『グラム染色』の検査報告は半日から翌日になってしまうことも。
医師としては目の前に患者さんがいらっしゃいますので、何かしら抗菌薬を出さないといけない。
そんなところから経験的にお薬を出す。
この『グラム染色』のタイムラグを埋めるために私たちはこれまで技師がやっていたことをAIに代替しました。
染色と顕微鏡操作を自動化することで、より迅速で精度の高い検査結果を報告できる医療機器メーカーです」。

微生物検査グラム染色自動化医療機器開発。
「開発段階にあります。
2019年からの会社なのですが、今年中には医療機関に届けられることになります。
適切なお薬を届けられたらと思います」。

生産設備はどのようにされていますか?
「東大阪の会社と量産するお話を進めています。
これまでも東大阪の会社とものづくりをしてきました。
AIの部分は実際の病院からもらった検体であったり、AIの知識などは大阪大学さんをはじめ多くの医療機関の皆さんにご協力いただきました。
2019年からスタートして4年かけて作り上げてきました。
そんな中でも稀な菌もあって1年に1回しか出ない菌もあったりするんです。
こういったことも学習していくためにAIを開発し続けていました。
プロダクトの形であったり、ユーザーさんのフィードバックをいただきながら進めてきました」。

この機器は病院に入れる? 検査機関に入れる?
「基本は医療機関です。
特にその中でも検査技師がおられる検査室です。
その場でカルテ状に検査結果が報告されます」。

株式会社GramEyeは大学発。
「代表の平岡と私が同級生でして、大阪大学の医学部に同じタイミングで入学していました。
医学部生で勉強している時にこのプロジェクトを立ち上げました。
医療課題に対してプロジェクトを作っていく学生団体に所属していまして、友人関係でもあり、プロジェクトを進めていく仲間でもあり」。

山田さんは医療機関で働くという選択肢はなかったのでしょうか?
「元々、薬剤耐性菌問題の研究をしていました。
最初は国内ではなくてタイ。
日本では抗菌薬は処方箋をもらって薬局で買う。
タイでは薬局に普通に売っていて買えるんです。
風邪でも腹痛でも抗生剤が簡単に買えるんですよね。
非常に耐性菌が多い地域なんです。
そこでプロジェクトを立ち上げて、この下痢がウイルス性か耐性菌なのかを診断するラインのbotを作ったり、培地で菌を生やすなどの研究をしたり。
耐性菌に対する研究をして、耐性菌をいかに減らせるのか、抗菌薬を適切に使えるのか、ということと向き合ってきました。
実は元々研究をやりたくて医学部に入りました。
人の健康のために何かしたいという思いと、研究がしたいという思いから医学部を選択しました。
研究や耐性菌に対するインパクト、さらに世の中にものを広げるインパクトを目指して会社を立ち上げました」。

会社の歴史は次週に続く...。

竹原編集長のひとこと

病院に行ってお薬の種類やもらい方が変わりそうな、素晴らしい研究開発ですね!