2024年

4月14日

出会いから生まれた"形にすべきもの"

先週に引き続き、ゲストは株式会社Haluの代表取締役 松本友理さん。
今週は創業からのお話を伺っていきましょう。
「2020年4月創業です。 コロナに差し掛かる前に、ちょうどデザインの開発をしていましたね。
プロトタイプをユーザーテストしていた頃。
タイミング的には本当になんとか間に合ったという感じでした」。

創業のきっかけは何だったのでしょうか?
「私は元々新卒でトヨタ自動車に入社しまして、車の商品企画の仕事に10年ほど携わっておりました。
元々、ものづくりを通して世の中を良くしたいという思いがあったので、希望していた商品企画の仕事に配属されて充実していましたね。
本当に私の人生の大きな転機になったのが、息子が生まれた時。
脳性麻痺という障害を持って生まれてきたことです。
歩いたりとか話したりとか、体がうまく使えなくてリハビリに通い始めたんですけれども、病院に行ってびっくりしたことがありました。
病院にはいわゆる障がいを持った子どもがいるわけですが、それまでの私が生きてきた中では、その障がいのある子どもの接点もなかったですし、そもそも街中でもそんなに見かける機会がなかったんです。
こんなにたくさんの子たちは今までどこにいたんだろうと衝撃的でした。
その時に気が付いたのが、学校から働く場所まで障害の有無によって生活の場が分かれてしまっていることでした。
障がい者、健常者の両者が関わるきっかけになるようなものを作っていきたいと思いました」

ポータブルチェアのアイデアはどんなところから生まれたのでしょう。
「息子との生活の中ですね。
最初は自分自身の困り事がきっかけでした。
息子が座れるようになったのが4歳近く。
それまで1人で座れなかったんですね。
移動も必ずベビーカーだったり。
そうすると狭い場所や階段だと難しいこともありました。
行った先にキッズチェアがあっても息子は一般的な姿勢を支えてくれるような機能がない子ども椅子には座れない。
そうすると外出先で何に息子を座らせたらいいんだろう...と。
家の中では福祉機器を使っていたのですが、それは室内専用に作られていて持ち運びには難しい。
市販の子ども用のお風呂イスとか色んなものを試して、持ち運べて息子が座れるものがないかなって色々探したり。色んな工夫をして生活していましたね。
持ち運べて、障害のある子でも座れる椅子があったら、もっと子どもたちの行動範囲が広がるんじゃないかって。
まずは起業しようというより、ものを作り始めちゃったっていうのが最初でした」。

トヨタ自動車時代の経験が活かされていますか?
「そうですね、やっぱり本当にそこがすごく大きかったなと思います。
色んな子ども用品を見ていても"ここを工夫したら使えるのに"と常に考えていました。
障がいのある子どもの暮らしは、その子が使っている福祉機器など当事者にならないとわからないと思うんです。
ものづくりの経験がある私自身がこの状況に対して何かできることがあるんじゃないかっていう、ある種、使命感みたいなものが湧いていました」。

実際のものづくりはいかがでしたか?
「私自身は企業の中にいた時は商品を企画する営業側の声を技術部の方たちに伝えながら形にしていくっていう立場でした。
その先に作ってくれる人たちがおられましたが、会社から出て1人になると、そこをどう形にしたらいいんだろう、と。
私はデザイナーでもエンジニアでもないので、やっぱりそこがわからなくて。
形にすることを一緒にやってくれる仲間を探すところが最初のハードルでした。
起業すらしていない状態で、想いを持っているだけの状態。
その中で最初にドアを叩いたのが『IDEO』という世界的に有名なデザインコンサルタント会社。
本社はアメリカなのですが、日本にもオフィスを構えています。
『IDEO』は人間中心のデザインという考え方で知られてる会社さんです。
使い手ももちろんなんですけども、その作り手の思いっていうのもすごく大事にする思想がある会社。
作るからには本当に世の中を変えるくらいのインパクトがあるものが作りたい、この会社さんだったらきっと私の思いを理解してくれるはずだと。
そういう思いを勝手にもう自分の中で膨らませていました。
前職の先輩がその『IDEO』におられたというご縁がありまして、デザイナーの皆さんにプレゼンテーションする機会を作っていただきました。
外国人のデザイナー3人にプレゼンをして、すごく共感をしてくれて。
デザインを一緒に作ることになりました」。

どんな順でものづくりをしていくのでしょう。
「実際の障害のあるお子さんと、家族の皆さんに生活の中での困り事を聞いて、実際の生活を理解することしました。そこからたくさん試作品を作って、実際に座ってもらってという工程を繰り返して、およそ1年かけてデザインを形に。
次は、その試作から設計までやってくれるメーカーさん探し。
そのタイミングでようやく起業をしました。
できたばかりの会社でお金もないし、どうやって作るのかもわからないのに、試作から量産まで一緒にやってくださる愛知県の鳥越樹脂工業さんが手を挙げてくださいました。
本当に損得とか全く関係なく"形にすべきもの"というところに共感をしてくださったこと、そして、元々新しいことにチャレンジする姿勢が強いメーカーさんだったんです。
出会いがあったからこそ形になりましたね」。

IKOUはインクルージブデザインを開拓していく。

竹原編集長のひとこと

大きな社会貢献であり、企業を繋いで新しい力を生み出す、そして新しい製品を生み出す。
これからも新しいものが生まれそうですね!