喫茶ラウンジMegビブリオ

8月18日放送分

『君のクイズ』 小川哲 著 / 朝日文庫

三島玲央は、第一回『Q-1グランプリ』ファイナリストとして、スタジオの解答席に立っていた。『Q-1グランプリ』は生放送のクイズ番組で、
優勝賞金はなんと一千万円である。
スタジオには、緊迫した空気が流れていた。
三島はクイズ大会での優勝経験も豊富で、クイズ王と呼ばれている。
対戦相手の本庄絆は、記憶力に優れた天才型のテレビタレントで、コメント力も高い。そんな二人が、今まさに、雌雄を決しようとしていた。
決勝戦は、七問先取の短文早押し問題である。
三島と本庄は六問正解と並んでいた。つまり、次の問題で正解した者が『Q-1グランプリ』の覇者となる。十年以上毎日クイズと向き合い、
クイズという競技に慣れた自分ならきっと勝てる...三島はそう思っていた。
問読みのアナウンサーが息を吸い、スタジオに静寂が訪れる。

「問題...」
緊張のあまり、ボタンに置いた三島の右手が震えていた。問読みが息を吸い、また閉じる。
その瞬間だった。
パァン、という早押しボタンが点灯した音が聞こえた。
押したのは、対戦相手の本庄絆だった。
きっと、早押しをミスったに違いない。なぜなら問題文は一文字も読まれていないのだ。
ということは問題も分からないし、答えも分からないということだ。分かるはずがない。客席はどよめいていた。
本庄絆は今まで二問誤答しており、もう一問間違った時点で失格が確定する。申し訳ないが、三島は優勝を確信した。
しかし、本庄絆は、答えを口にした。
それから十秒ほどの間が空き...
ピンポン、と正解を示す音が鳴ったのだった。
三島は呆気にとられ、解答席で棒立ちになっていた。MCが優勝者を読み上げる声や、天から降ってくる紙吹雪...それらは曖昧になり、
頭が真っ白になっていった。
この日、本庄絆がやってのけた「ゼロ文字回答」は、放送終了後に物議を醸した。本庄絆の神がかった実力を讃えるもの、
そしてヤラセを疑うもの...意見は様々だ。
三島は真相を解明しようと本庄絆について調べ、彼が過去に出演してきたクイズ番組の映像も隅々までチェックした。
ヤラセなのか、それとも魔法なのか。
また別の「何か」があるのか?

そして『Q-1グランプリ』決勝戦を1問ずつ振り返っていくうちに、三島自身の記憶も掘り起こしていくことになる――。

「一体、なぜ彼は問題文を知らずに回答できたのか...?」

その最大のクイズに、三島が出した正解とは...?!


7月21日 放送分

城戸川りょう:著 「高宮麻綾の引継書」 / 文藝春秋:刊
「...ムカつく」
それは、高宮麻綾の口癖だった。
TS フードサービス・入社三年目。若手期待のエースだが口は悪く、皮肉も舌打ちも得意技。
貧乏ゆすりで、地震だって起こせる。
そして何かに対する苛立ちや怒りが、彼女の原動力でもあった。
TS フードサービスは、「食」にまつわる国内大手・「鶴丸食品」の子会社である。
高宮は、親会社の意向ばかりを気にし、鶴丸のことを「本店」と呼ぶ風潮に、日頃から苛立っていた。

ムカつく。だから、蹴散らす。
あたしのすんばらしい事業案で、鶴丸の連中を蹴散らしてやる...!

そんな高宮は、自らの手で新規事業を企画し、親会社「鶴丸」主催のビジネスコンテストで優勝を勝ち取った。
新規事業の名は、「メーグル」。フードロスに立ち向かう仕組みをつくり、世の中の循環に光を灯す----
そんな、彼女の想いを込めた企画である。

優勝を勝ち取った高宮は、「メーグル」事業化に向けて本格的に動き出すことになった。
現在の鶴丸食品・食料品ビジネス本部・事業推進部への出向が決まったのだ。
今の仕事と兼務という形である。
高宮のこれからは、希望に満ち溢れていた...。

しかし、それは唐突に訪れた。
上層部の判断により、メーグルの件は白紙にしたいと言われたのだ。
かつて鶴丸食品が出資していた会社の工場で、重大な死亡事故が起こっていた。

その会社は「メーグル」には欠かせない製造ラインと類似しており、見過ごすことは出来ないという。
精魂込めて作り上げた新規事業が、親会社に潰されてしまったのだ。リスク回避、という理由で。

「なんであんたたちの意味わかんない論理で、あたしのアイデアが潰されなきゃなんないのよ!」
はいそうですか、と、黙って受け入れられる訳がなかった。

怒りを爆発させた高宮は、社内外を奔走しながら、"リスク"の正体の徹底調査に乗り出すことになる。
しかし、後輩の天恵玲一や、周りの協力によって調査を進めるうちに、黒い過去が明らかになってきた。

なんと、かつての死亡事故は、単なる「事故」ではない...という疑惑が浮上したのだ。
真相解明に向けて、高宮は更に突き進んでいく...!
私は私の仕事をモノにしてみせる。だってそういう「たまらない瞬間」のために生きてるんだもの。
果たして高宮は、過去の死亡事故の真相を明らかにすることができるのか?
そして彼女が大切にしてきた新規事業「メーグル」を守ることができるのか...?!
といった、お話。


6月16日放送分

『謎解き京都のエフェメラル 冬夜に冴ゆる心星〜梅花と香る北極星〜 』ことのは文庫 / 泉坂光輝

「あなたの失くしたもの、見つけます」京都東山。
神宮道のそばでひっそり佇む探偵事務所には、失くしたものを必ず見つけてくれると評判の探偵がいる。弁護士志望の女子大生・高槻ナラ は、
ある依頼をきっかけに、そこで探偵助手をしていた。
名探偵と噂されるのは...端正な顔立ちだが、残念な事に生活力が皆無の春瀬壱弥 。ぐうたらな彼に、ナラは相変わらず振り回されっぱなしの毎日を送っている。
しかし彼の過去を知ったナラは、その心に寄り添いたいと思うようになっていた...。
そんなある日、北野天満宮を訪ねた二人は、五十代半ばと思われる女性に声を掛けられる。
この近くに、春日井綺子 という人物が住んでいた筈だが、知らないか?と。綺子さんは子供の頃に仲良くしていた友達で、片親で貧乏だった自分と
唯一仲良くしてくれたのだという。
親の再婚を機に引っ越すことになり、綺子さんとはそれきり四十年以上会っていないそうだ。
女性の名は樋口咲子 さんというらしく、彼女からの話を、正式に依頼として受けることにした壱弥とナラ。
咲子さんはどうしても、綺子さんに会って謝りたい事があったのだ。別れの際、綺子さんを傷つける言葉を投げかけてしまったから...。
それをずっと、後悔していたのだという。
しかし、手がかりは限られている。
一つは、いつも綺子さんに付き添っていた女性が彼女のことを「お嬢様」と呼んでいたこと。
二つは、春日井という名前。

三つは、最後に綺子さんがプレゼントしてくれた梅の匂い袋...。これらをヒントに、壱弥とナラは調査を進めていくのだった。
だが、壱弥はふと、こんな言葉を口にする。「この依頼を受けたのは、間違いではなかったか」と。
自分の心に傷をつけた人...あるいは人生を狂わせた人。そんな記憶から消し
去りたいほどの相手と、再会したいと望むだろうか。二度と会いたくない、と思うのでは?
自分は依頼者側の心にしか寄り添えていないのではないだろうか...そんな思いに囚われる壱弥。
それは彼の元にも、自分の人生を狂わせた張本人から「会えないか」と数年
ぶりの連絡があったからでもあった。
その張本人とは、壱弥が医者の道を絶たれ、探偵になるきっかけとなった...壱弥の未来を奪った人物である。

果たして壱弥は、過去と向き合い、依頼者の願いを叶えることができるのか。
そしてナラは、壱弥の傷ついた心に寄り添うことができるのか...?

「私は壱弥さんに、前に進んでほしいって思ってます」


5月19日(西田 愛)

結城真一郎:著 新潮文庫:刊 『真相をお話しします/(#拡散希望)』

「いまから僕は、ある殺人事件の″真実″を白日の下に晒そうと思っています」
小学六年生の渡辺珠穆朗瑪(わたなべちょもらんま)は、怒りと憎しみに震えながら、撮影を開始し、
カメラに向かって語りかけた。

ここは、長崎市の西の沖合・八十キ口に位置する...匁島。
一周回っても十キロ程度の小さな島で、島民は百五十人ほどである。
島に一つだけの小学校は、全校生徒たったの四人。
主人公の渡辺珠穆朗瑪(わたなべちょもらんま)...通称チョモ、
そして桑島砂鉄、安西口紅、立花凛子の四人である。凛子以外は移住してきたのだが「子供は多いのがええ、島の宝さ」と、
島の人たちは四人を可愛がってくれていた。そんな四人の前に、ある日「未来」がやってきた。凛子が、両親からiPhoneを
買って貰ったのだ。
チョモの家は特に教育熱心で、スマホも携帯も禁止、決まった時間と場所で一日の振り返り報告...というルールがある。
その為、チョモにはスマホの全てが新鮮に見え、憧れは募るばかりだった。砂鉄も「すげー」と溜息を漏らしている。
さらには、動画というものがあるという事、それを配信するYouTuberという存在がいる事も、凛子から教えられた。
「ねぇ、一緒にYouTuberにならない?」
凛子の無邪気な提案に、自分もYouTuberになってみたいとチョモの夢も膨らむのだった。

しかし。小学三年生の夏休み。あの日から、全ては変わってしまう...。
いつものように四人で遊んでいると、ピンクのモヒカン頭の男に声をかけられた。見るからに島の外からやってきたと思われ、
かなり興奮した様子である。男は「一緒に写ろう」と執拗にスマホを向けてきた。
まともじゃない...そう思ったが、砂鉄は隣に立ってピースサインをする始末。
しかし、口紅(ルージュ)の逃げようという一言で、なんとか男を振り切ったのだった。
そして。
...その男が殺されたと、ニュースで報道されたのは、その数時間後だった。
それからだった。島の人たちの様子が変わってしまったのは。
全員が明らかに子供達によそよそしくなり「この子達に関わっちゃいけない」と思っているようだった。
それは、最初から島で育っている、凛子も同じだった。

そして三年の時が流れ...小学校6年生になったチョモ達は、また新たな殺人事件に巻き込まれる事となる。
犯人は一体誰なのか、三年前の事件との関連性は...?
そして、島の人たちがよそよそしくなったのは何故だったのか?
真相に辿り着いた時、チョモが出した答えとは...


4月21日(西田 愛)

芦辺拓:著 創元推理文庫:刊「大鞠家殺人事件」

大阪の商人文化の中心地として栄華を極めた船場――。その中にある南久宝寺町通には、小間物屋から発展し、
化粧品製造で財と地位を築いた大鞠百薬館があった。
その大鞠家を巡る、一連の悲劇の始まりは明治39年...大鞠家・長男、千太郎が失踪したことに始まる。
娯楽施設であるパノラマ館見物の途中で、丁稚の鶴吉を置いて忽然と姿を消したのだ。それきり行方は杳として知れず、
千太郎の妹・喜代江が、婿養子を迎えて家業を継ぐこととなった。

そして時は流れ...。
第二次世界大戦下の昭和18年。
そんな大鞠家の長男に嫁ぐことになったのは、陸軍軍人の娘、中久世美禰子。しかし夫である多一郎は軍医として
出征することになり、一癖も二癖もある大鞠家の人々の中に、彼女は単身残される事になる。
そして戦局が悪化の一途をたどる昭和20年。
化粧品という、不用不急の非愛国的製品を扱う大鞠家は、戦争の影響でかつての栄華も衰えはじめていた。
それでも尚、かつてのしきたりを守る一族を、ある晩"流血の大惨事"が襲う。
切り付けられた美女、吊るされた男、酒樽の死体、そして夜ごと舞いおどる赤頭の小鬼。
次々に起こる事件と怪異に美禰子は、親友のナツ子とともに、対処にあたる。そして謎の探偵・方丈小四郎まで、
真相解明に乗り出すのだった。

危機的状況の中、誰が、なぜ、どうやってこのような奇怪な殺人を?
なぜ「彼ら」は、殺されなければならなかったのか?
明治、大正、昭和...大鞠家の歴史に隠された秘密とは?

大阪・船場を舞台に、豪商一族をめぐる、華麗なる惨劇が、いま幕を開ける...!


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