2023年

2月19日

「いのちを拡げる」 50年先の未来社会

4週にわたって2025年、大阪・関西万博特集です。
大阪・関西万博のテーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。
このテーマを表現する8人のプロデューサーが8つの事業を展開します。
今週はその8つの事業の中から「いのちを拡げる」のプロデューサー、大阪大学教授、ATR石黒浩特別研究所客員所長の石黒浩さんをお迎えします。

ロボット工学者の石黒さんは2025年の大阪・関西万博では「いのちを拡げる」のプロデューサー。
現段階はどんな状況ですか?
「計画した通り進行していまして、パビリオンの中をどうするか、どんなロボットを入れるかなど準備を進めています。
このパビリオンですが、"50年後の未来社会はどんな風になるのか"を見てもらおうと思っています。
50年というこだわりがありましてね。
50年前は70年の万博。
あの万博で携帯電話とかロボットとか展示されて未来を見せてもらいました。
50年間レガシーとして残されてきたものを現実にすることを夢見て研究開発をしてきたわけです。
万博ってそういう役割があると思うんです。
色んな人たちに未来に対して希望や目標を持たせる。
50年後の未来って中々考えません。
企業なら3年、5年、大学の研究開発でも10年先。
でも50年前の万博の未来を思わせる展示は今の我々を作ってくれました。
あのおかげで希望が生まれました。
私は当時7歳。
『みどり館』に行って暑くてたまらなかったという記憶ですが(笑)。
あの万博がすごかったのが、後に事あるごとにニュースになったり展示されたり。
未来の夢を与え続けてくれました。
今度の万博もそうしなければならないと思っています。
50年も影響を与え続けることが出来ると価値が生まれると思います」。

50年前から今日、今日から50年先の未来。
どんなものを見ることができるのか楽しみです。
「人々が想像できないものを見せないといけないので大変なんです(笑)。
我々は最先端の研究をしている自負がありますが、その先の先を考えて展示を見せる。
コンセプトは概ね決まってきていて、来年は展示物を具体的に作っていく段階ですね」。

石黒さんは「いのちを拡げる」のプロデューサー。
このテーマを聞いたときにどう思われましたか?
「科学技術によって命の可能性を広げていくのか。
人間は科学技術で進化してきました。
私にとっては素直な考え方でロボットやA Iの技術で人間は能力を拡張してきました。
それを「いのちを拡げる」と表現しましょう、と。
人間って何かわかっていないのです。
それを探究しているのは大学の研究だったりします。
少なくともいえるのは人間と動物が違うのは"科学技術という進化の方法"を持っているということ。
例えば月に行きたければ行けるわけです。
でも遺伝子を改良して行っている訳ではなくて、ロケットで行っている。
科学技術で能力を拡張する人間だからこれだけ繁栄できたのです。
人間は科学技術で進化する、可能性を拡げていく。
だから人間はこれからもっと進化してくと思います
それを分かりやすく展示して伝えるのが私の役割かと思います」。

人間の寿命は長くなってきています。
これは科学技術の影響でしょうか。
「科学技術によって命はもっともっと拡がります。
遺伝子関係のテクノロジーが進むと老化も治療できるといわれています。
一説では150歳まで生きることができる時代が来るともいわれています。
50年ではなく100年、1000年先を考えると、生身の体である必要がないかもしれないです。
技術を取り込んで進化してきた人間。
人工臓器や義手義足もそうです。
それを使うことで人間性は失わないですよね。
では生身の体でなくても構わない。
地球規模の異変が起こった時に生身の体は耐えられないです。
でも機械の体だったら...。
生身の体だから良い意識、機械が入っているから悪い意識。
そんなことはないと思うんです。
体の材料と意識は無関係です。
むしろ機械になって生身の不安がなくなると心が広くなる可能性がある。
生身の縛られない、インターネットにつながった体など、色んな活動をすることで心が広がると思います。
現在も体はインターネットにつながって頼っていますよ」

これからの社会、ロボットはどんな役割を担うと思われますか?
「私が今、一番力を入れているのはアバターですね。
遠隔操作型ロボットとかCGキャラクターに乗り移って働く。
事情があって家にいないといけない人もすぐに働ける。
そんな仕組みを作っていく。
これから50年で日本の人口が半分になるといわれています。
そうなると街に出ても人の存在感を感じられないようになる。
でもアバターを使って人らしい存在を感じることができる。
そうして豊かな街を維持できると思います。
完全自立型のロボットは難しいですが、現実世界はロボット、メタバースではCGのキャラクター。
すでにアバターで働くことは昨年、大学発ベンチャー『AVITA株式会社』でも提供しています。
アバターは学習してどんどん賢くなっていくんです。
そうすると我々の意図通り、自在に動いてくれるようになります」。

お話を聞いているとパビリオンへの期待が膨らみます。
「まだ内緒です(笑)。
これロボットなのか人間なのか、戸惑うような世界が描けるといいなと思っています。
人間って機械の体である必要はない。
進化していくのが人間。
様々な技術を取り入れていく人間の社会や体があります。
かつての万博と今回の違いは人間の社会や未来を人間の責任でデザインするようになったということなんです。
50年前の万博は一生懸命に生きればいい、地球環境の話はなかったです。
50年経って、地球環境を破壊するぐらいのエネルギーを使えるようになったし、環境を守ることもできるようになった。
人間は遺伝子レベルで人間をデザインできるようにもなりました。
人間は人間によってデザインされる時代。
環境は人間によってデザインされ守る時代。
かつて神様がやっていたといわれることを人間がするようになった。
これからの人間の進化は、人間が責任を持って進化させなければいけないと思います。
それだけの力を持ったということ。
だから未来は責任を持って進化させなければいけないと思います。
その具体例を少しでもお見せするのが万博のパビリオンの一番大きな意味だと思います。
あんな未来がいいな、こんな未来がいいなと片鱗をお見せして、色んな未来を考えてもらう。
そうするとかつての万博と同じようなレガシーを残せるのではないかと思いますね。
我々はこれからもっと進化します。
進化には多様性が必要です。
色んな生き物がいて未来へ向けて発展していく。
多様な未来を描いて人間社会として発展することを考えていくことが必要だと思います」。

次週に続く...。

竹原編集長のひとこと

まさに未来への提言です。
科学で人間が進化する。
石黒先生が描いておられる未来は実はもうすでに始まっているんですね。