2023年

4月16日

農業を変える"ご当地菌"の力

今週のゲストはサンリット・シードリングス株式会社の代表取締役 石川奏太さんです。
池田泉州銀行の社会課題/地域課題の解決に役立つ研究開発を応援する、第19回『イノベーション研究開発助成金』の大賞を受賞。
「およそ60社の中から選んでいただきました。
京大発のベンチャーなんですが、大学発ベンチャーの研究成果を地域ソリューションに割り当てるものです。
そのプラン名が『森の菌を農業へ』といったものです。
その後に"植物と共生する生態系を新たな資源とした地産地消・環境保全型の農業資材開発"と続きます。
そもそもこの"森の菌"って何ですかとなると思うんですが、これはキノコやカビなど森の中にいるものです。
それを農業に、となると急に聞いても難しいですよね。
里山農業を思い浮かべていただきたいんですが、田んぼや畑の周りには木や花などの植物がありますよね。
森の植物が生きていくために良いことをしてくれている菌があります。
これを"共生"といいます。
実際に農業に資材として活用していこうというのが私たちのプランです」。

土の中に多くの菌。その役割とは?
「土の中にいる菌が木の方に共生しているから松茸や椎茸が生まれます。
先ほどカビといいましたが、農業でカビというと病気なんです。
でも実は植物が何億前に水中にいたものが陸に上がって光合成したという歴史がありますが、その時点から一緒に生きてきたカビがいるんです。
植物が光合成をするのを助けたり、土の中の栄養を植物に運んだり、ヘルパーのような役割を担っています。
まだ知られていない善玉のカビや菌がいっぱいいるんです。
それを畑の作物などに使っていきたいと思っています」。

自然の中のたくさんの菌の中で善玉が。
「畑の中にはもともとたくさんの菌があることをご存知の方が多いと思います。
でも農薬を撒くじゃないですか。
知らずに、いい菌もなくしてしまうんです。
農薬と人が住む場所の配置転換期でもあります。
農薬を撒いていると苦情が来ることがあるそうなんです。
農薬を撒くことで自然環境にダメージを与えていると。
実は日本で使われている農薬が欧米では規制されているものもあります。
でもそれを使えなくなったら農作物が病気になってしまう。
では農作物を守るにはどうしたらいいのか。
森の菌が農薬の代わりに作物を守ってくれるという考え方です。
微生物資材はこれまでもしているんですが、どこから採られたか分からないものなんです。
研究室の培養液の中なのか、どこかの土地なのか。
はたまた海外の土地のものかも知れない。
どこから来たか分からないものを使って育てたもの...となりますよね。
そうではなくて、5m先の林の中にあるものですよ、とか、雨が降ると流れて来るものをうまく活用しています、となると安心ですよね」

菌も地産地消ですね。
「まさにそうですね。
実はこの背景には全ての物の値段が高いことにあります。
2021年12月にロシアがウクライナに攻め入った。
ウクライナは肥料の最大生産国なんですが、その影響で肥料や農薬が1000円で買えるものが1500円になってしまった。
さらに上がった...とも聞きました。
それに加えて円安。
農業をしている人にとってそれまで購入していたものが高くなってしまった。
そこに生態系の飼料。
これってもともとは無料。
経済、環境的にみていいもので健康リスクもない。
実用化するための技術を開発しています」。

いい菌を見つけて農家のみなさんにいい菌を販売。
「簡単にいえば"ご当地菌"ですね。
地域の特産物に菌も入れていいと思います。
生産とか流通を確立されている会社さんにこの新しい技術を使っていただきたいですね」。

いい菌を見つけてくるのは難しい作業なのでしょうか?
「サンプルをたくさん採ってくるのが難しいわけではないんです。
次世代シーケンサーというものがありまして、技術としてペットボトルサイズのものに土を入れると、どういう菌が入っているかわかる技術があります。
生物の情報が可視化できる時代です。
その何100万種という中、いい菌を見つけるのが難しいです。
大学発ベンチャーとして解析することが最新の研究成果です。
ひとつひとつの生物の機能を見るのではなくて、菌が他の菌と関わりがあって、周りの植物とどういう関係を持っているのか。
それが分からないといい菌は採れないです」。

気の遠くなるような作業ですね。
「ネットワークが重要なんです。
いい菌を見つけることはキーマンを見つけてくるのと似ています。
村の中心人物、ネットワークの中心です。
人間を探す場合は地道な聞き取り調査をしなければなりませんが、菌には聞けないですよね(笑)。
でも遺伝子情報を分析して駆使すれば何丁目の◯◯さんを見つけることが出来ます。
ただまだまだ実用化されていない領域なので、生態学の技術が世の中の役に立つと証明するために我々の会社があると思っています」。

石川さんはもともと生態学の研究を?
「実はもともとは生態学の専門ではないんです。
進化学や疫学をやっていました。
この会社に入ってから生態学を学んだぐらいです。
会社の中で生態学のスペシャリストがいまして、創業者・取締役の東樹宏和は今も大学で研究をしている生態学専門です。
他にも大学で研究をしている方が顧問にいらっしゃったり。
専門知識で事業を動かしているのもうちの会社の特色です」。

自家農園にも近い存在の分野ですね。
「京都の菌、北海道の菌、大阪の菌...ご当地菌をブレンドして、植物を育てることに適したものを作ってそれを家庭園芸の土に埋め込んでいく。
それを使って何ができるかというと新しい作物ができます。
岡山のビニールハウスでバナナを育てている方がおられます。
円安の影響もあって価格が自分たちでコントロールできない。
コーヒーもそうですよね。
ブラジルが不作で高級品になってしまう。
だから自給率を上げていかなければいけない。
でもバナナやコーヒーといったものは日本の土壌とは違うところで育つものですよね。
それならばそれ用の土を作るための菌なんです」。

会社の歴史は次週に続く...。

竹原編集長のひとこと

土づくりはいいご当地菌から。
農業の未来の形は古の菌の力なんですね。