2023年

4月23日

森の菌が宇宙へ!? 1万年後の農業をあきらめない

先週に引き続き、ゲストはサンリット・シードリングス株式会社の代表取締役 石川奏太さん。
『~「森の菌」を農業へ~ 植物と共生する生態系を新たな資源とした地産地消・環境保全型の農業資材開発』で池田泉州銀行の第19回『イノベーション研究開発助成金』の大賞を受賞されています。 「実は農業は事業の一面です。
その他にも林業、環境分野、防災、再生医療や太陽光パネルと土地利用などにも使います。
森の菌が製薬の材料になったり、森の菌がついた野菜を食べると私たちの体にいいことがあるかもしれません」。

改めて創業から伺っていきましょう。
「2020年の1月15日です。
私も立ち上げメンバーです。
私はその前はフランスで研究者をしていました。
創業者・取締役は京都大学生態学研究センターで研究をしている東樹宏和。
彼自身が持っている生態学の成果を何かしら社会に役立てようと始めました。
私は研究者から民間へと就活していた中、お誘いを受けまして、研究開発部長に就任しました」。

フランスでどんな研究を?
「コロナのような病原性のウイルスの研究をしていました。
パスツール研究所というところで蚊を媒介にして人に感染していくウイルスが地域をどう伝搬していくかの研究を2〜3年していました。
そこから帰国して入社するわけですが、私はそもそも生態学の専門ではないんですよね(笑)」

そんな石川さんがなぜ生態学に?
「もともと生き物は好きでした。
子供会で田植えをしましたが、稲よりも周りにいるカエルやタガメを探したりしていました(笑)。
学校の帰りも川へ寄って生き物を探したり。
当時は生態系なんて言葉は知りませんでしたが、自分の周りに生き物がいて、どういう関わり合いをしているのかは興味がありました。
もうひとつは研究の成果を社会に役立てたいという思いがありました。
疫学の研究や僕がやっていたいくつかの研究も役に立っていると思います。
でも自分の研究は自分がお医者さんじゃないと実感するのは厳しいんじゃないかと思いました。
今からお医者さんを目指すのも厳しいですし(笑)。
他のことで自分のやったことが役に立つことが見れるといいなと思いまして、その時に生態系で社会の役に立つ事業に出会いました。
役に立ったことが見えると面白いなと思いましたね。
創業して1年、がむしゃらにやっていくと、最終的に農業に生態系から採ってきた菌を入れると収量が増えたときにやった研究の実感がありましたね」。

どのように実感されたのでしょうか?
「実験室で栽培しているトマトや小松菜に菌を入れると生育がすごく良くなる。
そのイメージはありました。
でもそれを実際に農家さんとやりとりをして、どういうふうに実用すればいいかはわかりませんでした。
それが会社を実際に起こして、自分が入って現場を周ることでひとつの形になりました」。

実際に菌を販売して会社として利益につながっているのでしょうか。
「委託調査などでお金をいただいたりしています。
目に見えない生物の状態を分析してくださいという依頼もいただいています。
面白いことに同じ地域でも畑ごとに生物や菌が違います。
これまで農業は均一的なやり方でやっていたことが、畑ごとで成果が違っていた。
この違いがわかると即ち、生物・菌が違うのに同じ肥料を与えても地域で成果が同じとは限らない。
ではどうすれば個々の畑をいい方向に持っていけるのか、共有できないのか。
個々で工夫していくしかないとなると、とてもしんどい。
でも地域には森がある。
これは共有できるわけです」。
農業の歴史は1万年。
微生物や菌にまで研究が進んでいます。
これからの農業に影響を与えそうですね。
「これまでの農業は開拓と消費。
自然生態系にあったところに農地を作っていました。
そこにもともとあった資源、微生物をどんどん消費して食べてきました。
これからの1万年は還元しなければいけないと思っています。
農地の周りの森や林に目を向けて農地を再生する力が眠っているのではないか。
そこから森、林を大切にしようという意識も生まれるのではないか。
これができると生態系と農業がこれから1万年続いていく時代が来るかもしれません。
最終的に宇宙に行けるのではないかと思っています。
宇宙ステーションの中に生態系があっていいと思うんです。
宇宙でバナナを栽培するために地球から理想的な土を持っていく。
火星や月や衛星のステーションの中で農業をしているかもしれません。
僕の夢ですね。
1万年後の地球をあきらめない」。

今、一番の課題はどういったことでしょうか?
「現場に届く製品化ですね。
我々だけで賄えない領域なんですよ。
今回、大賞をいただいてアピールさせていただいて、我々と一緒に製品を作りたいと思ってくださった方がおられたら是非!」

今後のビジョンを聞かせてください。
「農業以外でも林業、防災。
山崩れもあるところに生態系の機能を使って実例を作ったり。
魚を養殖するところに海の生態系を持ってきたり、環境浄化として微生物で分解したり。
あらゆる環境に我々を取り囲んでいる生態系のものが活用できる。
活用できるから大切にするという意識が芽生える。
そこで環境保全と産業活動の発展の両輪が回り始めます。
これが本当の意味での持続的社会、サステナブルじゃないかなと思います。
未来へのビジョンはSDGsの実現だと思っています。
その中で生態系はひとつのキーワードだと思います。
目に見えない微生物やそれ以外の動植物がいてそれぞれ機能を持っている。
実例を示していってこれが次の社会の在り方だとアピールしたいですね。

会社は1万年後を諦めないですが、個人的なビジョンは"50年後を諦めない"。
僕がおじいちゃんになった時に色んな地域を見て回った時に、"ああ、50年前にこれをやっていたから生態系が守られている"と見たいです」

竹原編集長のひとこと

日本はこれまで工業に技術が使われていて精度の高いものを生み出してきました
これからは生態系の保全に菌の技術力が使われるのではないでしょうか。