2025年

6月15日

光の化学反応で世界を変える

今週のゲストは、光オンデマンドケミカル株式会社の代表取締役 津田明彦さんです。
社名からして光技術の最先端のイメージがあります。
「光を使っていますが、最先端というよりクラシカルな方法です。
神戸大学の研究グループが開発した世界初の光オンデマンド合成法を社会のお役に立てるために創業しました。
天然由来の原料から光で様々な便利な化学品を作って販売しています」。

光でものを作るとは...?
「光で誘導し、光で一時的に活性な物質を生み出します。
それが反応して様々な便利な化学品に変わっていく化学反応です。
通常の化学反応は熱で薬品を混ぜて加熱しますが、我々の化学反応は光です。
光を当てれば新たな物質が生まれてきます。
太陽光でもできますが、安定した光源が必要なのでLEDランプなどを使います。
じわーっと変わるようでしたら時間がかかりますが、我々の化学反応はパッと変わります。
空気の膨張や収縮などが起こる可能性があるのでコントロールが必要なんです」。

光ものづくりでは何を作っておられるのでしょう?
「ホスゲンという化合物を扱っています。
反応性の高い物質でポリカーボネートやポリウレタンなどに使用される原料です。
メタンからホスゲンを生み出す化学反応を発見しました。
メタンは安定性の高い化合物で、化学反応に使うことはほぼ無理だと言われてきました。
燃やして燃料として使われていますが、私達は光を使ってメタンからホスゲンという化合物の合成に世界で初めて成功しました。
ホスゲンは反応性が高くて次の試薬と混ぜるとすぐに反応が起って、綺麗に生成物ができます。
とても便利な一方で、反応性が高いものは毒性があります。
毒性の高い化合物を一時的に生み出し、すぐに次の製品へと変換させます。
次の製品とは医薬品の原薬や中間体、ポリマーです。
メタンから出発して、光でホスゲンを経由して、最終的に医薬品原薬や中間体、ポリマーを作るのが光ものづくりです」。

これまではどのようにしてホスゲンを作っていたのでしょう?
「一酸化炭素と塩素を混合して触媒を通すとできます。
しかし、一酸化炭素も塩素も危険な物質です。
ホスゲンは生物が吸い込むとすぐに死にます。
危険な原料を使って危険な物質を作ってきたわけです。
そんなホスゲンですが大手企業は安全に管理されたシステムの中で作ってきました。
私たちは触媒も要らずに光だけです。
一酸化炭素の代わりにメタンを使い、メタンは一酸化炭素よりも入手しやすく、安価でバイオ由来で出来ます。
そのバイオ由来の原料はどこから来るのかというと、家畜の糞尿や生ゴミ、下水などから出てきます。
石油でやっていた化学品合成が下水から出てくるガスでできるようになるのです」。

手元の資料には"うんちから薬を作る会社"とあります。
「そのままです(笑)。
うんちから出てくるガスを用いて光反応で医薬品やポリマーを作っています。
実際に一部の化学品は作って販売しています。
私どもの事業は本当に公共性が高く、環境面でもインパクトが大きいので、国や自治体の皆様からもご支援いただいて大きな事業が始まっているところです」。

今後この世界に影響を与えていくようなものじゃないですか?
「大きく変わって来ると思います。
ただ取り扱いは注意しないといけないですね。
画期的な化学反応なんですけれども原子力やダイナマイトのような一面があるんです。
便利なものである一方で悪用もできてしまう技術でもある。
社会でしっかりと管理していただかなければいけません。
自分たちの手を離れている部分があると思うんですね。
国、自治体の皆様と連携しながら法的な面からも扱いを協議しているところです」。

池田泉州銀行の2024年度のイノベーション研究開発助成金の大賞を受賞。
「これはメタンと空気と、塩素の3つを混合して光を当てる化学反応なんですね。
一歩間違えるとメタンと空気は下水処理のところで爆発することもあります。
我々は爆発させないためのノウハウとか条件を調べて、この化学反応を作り出したんですね。
この研究自体が始まったのが15年前ぐらいです。
神戸大学で独立した研究室をいただいて、そこで自分のやりたいことをスタートさせたんです」。

会社の歴史は次週に続く...

竹原編集長のひとこと

光を使ってメタンからホスゲンという化合物の合成に世界で初めて成功!
世界を変える素晴らしい技術ですね!