2025年

11月30日

鏡板製造の技術がクラフトビールへつながる

今週のゲストは株式会社北海鉄工所の代表取締役社長 林孝彦さんです。
まずは事業内容から伺っていきましょう。
「鉄を扱う金属加工をやっております。
メインはタンクの部品の蓋の部分・鏡板というものが主力商品です。
その鏡板事業部をはじめ、全部で4つの事業があります。
車両事業部は鉄道車両の台車の部品を製造しています。
これは電車の台車の強度部材として使われているフレームです。
そしてモニュメントなどを作る景観事業部。
鏡板以外でも色んな我々のネットワークを駆使して、お客様のお困りごとに対応する技術部門のエンジニアリング事業部もあります」。

改めて"鏡板"について聞かせてください。
「鏡板の語源はお正月の鏡餅です。
一般的には普通の鉄で作る場合が大半ですが、ステンレスもあります。
大きなタンクの蓋を作る場合が多いですね。
大きさでいうと車両事業部は鉄道車両も大きいです。
皆さんの命を支える鉄道本体の台車の部分ですから非常に神経を使う仕事ですね」。

景観事業部についても教えてください。
「我々が主体的に参入したのではなく、アートを作っているお客様からご要望がありました。
最初はそれにお応えして作っていました。
当初、何に使われているのか分からなかったんですよね。
後でお伺いすると例えば噴水の一部に使われているとか、時計台の構造物に使われているなどありました。
関西ですと神戸の長田にある『鉄人28号』。
直立すると18mという設定で実際の高さは15mぐらい。
ポーズとして少し屈んでますのでね。
神戸・長田は阪神淡路大震災で多大な打撃を受けたところです。
震災復興という観点で長田の皆様方が自分たちでプロジェクトを作られました。
製作は公募があったそうですが、我々の方からアプローチをさせていただいて最終的にご指名いただきました」。

先ほど"金属加工"と仰っていましたが、鉄工とは違うユニークなことをされているとか...。
「クラフトビールを3年前から醸造販売しています。
私がビールを作りたかったという、そういう趣味みたいなことですね(笑)。
実はビールは副産物というか、元々はビールを作るタンクを作りたかったんです。
我々の業務の中に鏡板を作っている部門がありますが、およそ10年前に工場の世代交代がありました。
腕のいい熟練者が多く辞めた時期があったんですね。
技能の伝承がうまくいってないこともあって品質が悪くなったり、不良品が増えたりしたこともありました。
これをなんとか改善しようと考えました。
お客さんからいろんなクレームとか苦情をたくさんいただいたので、お客さんの気持ちになるにはお客さんが求めておられるものを作る。
元々はタンク屋ですからタンクを作ろうということになりました。
そこでタンクを作るコンクールを社内で開催しました。
空いた時間で作るわけですが、やっぱり興味がないと面白くないですよね。
社内で年に何回か懇親会として工場で焼肉をすることがありました。
そこで"自分たちで作ったタンクで作ったビールを飲もう"が発端だったんです。
そこからビールを作るために申請など許可関係を申請しました」。

スタジオには3種類のビールが登場。
「鉄工所が作っているのでネーミングには"鐡"がつきます。
『岸和田ビール』というブランドで『鐵工』『白鐡』『黒鐡』。
エールタイプの非常に飲みやすいものですが、『黒鐡』はホップを焙煎したりしまして、世間でいう黒ビールに近いテイストです。
この『黒鐡』は『インターナショナルビアカップ2024』の中のBritish Heritageのカテゴリーで最優秀賞をいただいた"世界一のビール"です。
これらは年中レギュラーで作っていますけれども、岸和田に工場がありますので地元の農産物などを使ったビールも作っております。」。

他にもビールのバリエーションが。
「地元の岸和田に井坂酒造場という造り酒屋さんがあります。
そちらとのコラボで酒粕をビールの原料に混ぜて、酒粕クラフト『粕舞(はくまい)』を作りました。
岸和田で事業をやって5、60年くらいになりますが、岸和田の皆さんにお世話になった恩返しがしたいということで、ビールを通じて社会貢献ができないかと考えました。
そこでビールの売り上げの一部を寄付する『こどもMIRAI基金きしわだ』を2023年に設立しました。
岸和田市内の色んな児童福祉に携わっておられる市民団体さんに協力金としてお渡ししています。
岸和田の子どもたちがこれから夢を持って育って生活できるように、その一助になればと思っています」。

『岸和田ビール』はECサイトでも購入可能。
岸和田市のふるさと納税返礼品にもなっています。

会社の歴史は次週に続く...。

竹原編集長のひとこと

鏡板を作る技術を使ってビールのタンクを作って、さらにはクラフトビールまで醸造。
アイデアを連結させて動き続けておられます。地元との取り組みもいいですね。