2026年

2月 8日

フッ素コーティングの力でものづくりから地球環境負荷の軽減まで

今週のゲストは日本フッソ工業株式会社の代表取締役 豊岡 敬さんです。
まずは事業内容から伺います。
スタジオには宝石のようなものが...。
「これは『蛍石』というものです。
ただ脆いので細工がしづらくて宝石としてはあまり価値がないんです。
結構安く取引されていましたが、最近はニーズの方がどんどん増えてきまして値段も上がってきました。
事業はフッ素樹脂のコーティングをしていますが、そのフッ素樹脂も含めて、すべてのフッ素科学の原料の元になっているのがこの『蛍石』です」。

具体的にフッ素樹脂のコーティングとはどのようなものなのでしょう?
「この『蛍石』と硫酸を反応させてフッ化水素を取り出します。
フッ化水素がすべてのフッ素科学の元原料になっているということです。
歯のフッ素コーティングやフライパンのフッ素コートと同じものです。
歯に塗るフッ素は無機のフッ素で、我々が使っているのは有機のフッ素なんですね。
有機なので、あくまでプラスチック。
プラスチックですがフッ素原子の入ったプラスチックを『フッ素樹脂』と呼んでいます」。

歯にもフライパンにもフッ素を塗ると汚れがつきにくかったり、焦げ付きにくくなったり。
「それと同じです。
我々はそのフッ素樹脂を色んな工場の設備に加工しています。
ゴムの型や化学会社で使われるタンクの中、最近だと半導体の製造装置にコーティングします。
コーティングすることで、こびりつかなかったり、掃除がしやすいなど。
ほとんどの薬液に侵されないので鉄のタンクを薬品から守ってやるなどの目的もあります」。

日本フッ素工業株式会社が手掛けた製品は工場以外にもあるのだとか。
「お客様で多いのは半導体関係の製造工場ですね。
それ以外は石油化学、医薬など様々な業種で使われています。
変わったところですと東京スカイツリーの心柱の型枠。
ビルの免震装置のスライディングパッドにも使われています。
金属を作る際にフッ素コーティングをしておくと、パカっとスムーズに外れます。
スカイツリーの場合ですと1回使ったらもうそれで終わりです。
他にも様々なものにお使いいただいていまして、16mの長さで直径が6mぐらいのタンクにコーティングしたこともありますし、小さいものですと息で飛ぶような部品にもコーティングしました」。

ノーベル科学賞の北川進さんと繋がりがあるのだとか。
「昨年11月に京都大学の北川先生がノーベル科学賞を受賞されました。
先生が研究開発されました多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer:PCP)、金属―有機骨格体(Metal-Organic Framework:MOF)というものがあります。
これがガスや薬液を吸着する素材なんです。
このPCP、MOFを使ったガスボンベは従来型のボンベよりも、はるかに体積が小さくて同じ量のガスを貯める事ができる。
今は地球温暖化ガスを固着するために使われたり、エアコンの中の冷媒をこのMOFで回収してリサイクルしたり。
環境に優しい素材ということでノーベル賞を受賞されました。
我々もこのMOFのガスの吸着力に以前から着目をしていまして、フッ素のコーティングにMOFを入れることによって、ガスや薬液の浸透を食い止めることができるんじゃないかということで被膜開発を進めてきました。
そもそもはうちの研究員が京都大学で知りまして取り組み始めたことですが、今までのフッ素コーティングは分子間を水蒸気や薬液が浸透してくると、水ぶくれができて割れて剥離につながることもありました。
これまでフッ素を使えなかったようなところでも、このMOFを入れたコーティングだとその浸透が抑えられ長持ちする可能性があります」。

積極的に海外にも進出されているのだとか。
「私はこの会社の2代目。
私の父が創業者でした。
父が全職で潤滑剤の営業をやっていました。
その時から海外でビジネスをやってみたいっていう思いが強かったみたいで、このフッ素との出会いも実はロサンゼルスに出張に行った時だったんです。
ペンキ屋さんのショーウィンドウにコーティングされたフライパンがあったそうです。
"これは自分が探し求めていた、くっつかない素材ではないか"と衝撃を受けて、そこからビジネスが始まりました。
父は還暦を過ぎてからいきなりアメリカに留学すると言い出しまして、"日本の会社はお前らに任せる"といって、アメリカのカリフォルニア州に行ってしまったんです。
それまでうちの会社は半導体の仕事はやらないというのが会社の決まりになっていました。
先代社長曰く"うちみたいな汚い工場で、半導体なんかできるはずない"。
しかし、IT革命と云われていたカリフォルニアに行って、シリコンバレーからスタートアップベンチャーがどんどん生まれてくる現状を目にします。
その影響をまともに受けまして、いきなり"うちも半導体やるぞ"と言い出しました。
そこからシリコンバレーに実際に工場を持つまでになりました。
ただ何の事前調査もなく立ち上げたので色々と問題が...。
後で調べたらカリフォルニア州は環境規制が非常に厳しくて、スタートアップベンチャーはシリコンバレーから生まれるけど、実際にものを作っているのはテキサス州やオレゴン州だったんです。
それでうちの会社には全然注文が来ないということで赤字になりまして、結局10年間やって撤退しました。
ただ、その間に学会発表をさせて頂いたり、展示会に毎年出展したりしてるうちに、シリコンバレーに『日本フッソ工業株式会社』があると業界で知られるようになりました。
そこから大阪の工場に半導体の仕事がどんどん入ってくる流れができました。
アメリカでの事業はうまくいかなかったんですけれども、非常に大きな事業の1つの転換点でしたね」。

竹原編集長のひとこと

様々なものづくりに不可欠なフッ素コーティング。
これにノーベル化学賞の力が加わって、さらに進化しそうですね。
先代のフットワークの軽さと仕事への情熱には驚きました。