2026年

2月22日

根っこを掘って、会社の"らしさ"を見つける

今週のゲストは株式会社SASIの代表取締役 近藤清人さんです。
まずは業務内容から伺っていきます。
「会社自体はデザインの会社なんです。
国の施策で"デザイン経営"という言葉がありまして、中小企業の経営に深く入り込んで会社の中をどうデザインしていくかという事をしています。
皆さんがイメージされているようなロゴマークやホームページや製品、パッケージなどのデザインもしていますが、デザイナーとして会社の中身、いかに会社が進めたいような方向性に進めるのかという事を作っています」。

"デザイン"というとシンプルにファッションやインテリアなどをイメージします。
「一般的にイメージするのは『狭義のデザイン』。
もう少し広い意味でのデザインというのがありまして、これはどういう風なサービス設計をして、どういう事業をどういう人に届けるのかという事を考えてデザインするのが『広義のデザイン』。
もう一つ上には『経営のデザイン』というのがあります。
経営のビジョンをどうするか、どういう方向性に向かっていて戦略を練るのか。
ここまでの範囲を会社の中でやっています。
実はもうひとつ上に『社会のデザイン』というのもあるんですが、私たちは『経営のデザイン』というところまでを事業としてやっています」。

非常に幅の広いお話ですね。
「"カチコチ組織を創造的組織へ"が私たちのミッションです。
子どもから大人になっていく過程で例えるとしたら、子どもの時というのは色んなことにチャレンジして遊んで、失敗して学んでいきますよね。
この正解を作って成功、成長していく中で大人になっていく。
そうすると外からも見られているし、責任も生まれてくるので失敗ができない。
どんどんカチコチになっていくんです。
そのまま進むと硬直化してしまいますので、もう一度、創造的な子どものようにすると言ってもいいかもしれません。
アメリカを代表する組織経営学者チャールズ・A・オライリーさんは、正解を出していくという面もあり、創造的になっていく面を同時に目指す"両利きの経営"を提唱されています」。

実際に企業に対してどのようなアドバイス、お仕事をされているのでしょうか?
「緩み止めナットで世界的にも有名な東大阪市にあるハードロック工業株式会社さんと3年ほどお付き合いさせて頂いています。
竹原さんの『日本一明るい経済新聞』の1月号には新規の製品を今から...というようなお話が掲載されていましたが、我々は見えない部分の組織文化をどう作っていくか、会社がどこへ向かうのかなどを作っています。
もうお亡くなりになりましたが、若林克彦会長の時代から担当しているんです。
そこから今の若林雅彦社長からも改めて仰せつかってお話を進めているところです。
ハードロック工業株式会社はカリスマ的な若林克彦会長がいらっしゃって、色んな発明をされてきました。
元々、会社の中でのイノベーションを会長だけが起こしていたところから、みんなでやろう、という流れを作ります。
会長が仰っていたことってどんなことなんだろう、チームのメンバーの方々とそこから深掘りしていきます。
会長の時代がハードロック工業1. 0だとしたら、ハードロック工業2.0を作るんだと。
我々はこれを"イノベーションの民主化"といっています。
根っこの部分を深掘りしながら、製品を作って、アプローチを考えたり、ロゴマークを考えたりしています。
ハードロック工業株式会社は現在、最高売上を作られています。
チームの活気がすごいんですよ。
会社の中では社長や常務、若手チームも一体となっています」。

ブランディング、コンサルティング、さらに意識の改革まで。
「デザインとはそもそもそういうことなんですよ。
デザインっていつ頃から始まったかご存知ですか。
今、理解できるとこで言うと『モダンデザイン』。
産業革命以降のイギリスで生まれているんです。
近代デザインの父と言われているウィリアム・モリスという人が地域共同化や自然と一体化した生活を大切にする運動『アーツ・アンド・クラフツ運動』を主導していました。
産業革命で色んな製品が生まれましたよね。
職人が手作りをしていたことを機械が作っていくことになります。
機械が作った製品で自分たちの生活を彩るということはどうなのか...こう投げかけたのが『アーツ・アンド・クラフツ運動』です。
今まで職人は自由に美を追求しながら仕事をしていた中、産業革命で機械の奴隷となってしまった人がいる。
現体制では美に対してエネルギーを使わず、利益や効率だけを求めているのが社会になっていないか。
これを言い始めたのがデザインの原点なんです。
いかに生きるか、いかに経営するか。
ここが大切だと思っています」。

他のデザイン経営の例もおしえてください。
「難波の道具屋筋に『堺一文字光秀』という包丁専門店があります。
そこの三代目社長からご依頼を受けました。
最初のステップは、根っこを掘るってことなんです。
アイデンティティを確認する。
どういう価値観でやっているのか、子どもの時に考えていたこと、どんな青春時代をすごしていたのか、どういう形の会社を引き継いだのか...など色々話を聞いて言語化します。
我々が関わり始めた頃の話ですが、当時はまだ社長がやりたいことを社員の方々があまり理解されていませんでした。
現在、お店の2階はキッチンのシステムがありまして、これは社長が包丁の文化を繋げていくことをイメージしたスペースを作りたいと思っておられたことが発端です。
職人さんが集まったり文化人が集まったり、料理人が集まったりする2階の活用法があるのか、というプロジェクトから始めています。
私が元々インテリアデザイナーですので2階自体をデザインしました。
1段階目には根っこの部分を掘って、2段階目ではデザインしてみんなを巻き込んでいくといった流れですね」。

会社の規模は様々です。
社員さんの気持ちをひとつにするのは難しいことなのでは?
「めちゃくちゃ難しいです。
ただ巻き込んでいくことはできるんですね。
皆さんの総意でビジョンを決めて、それを浸透させていくことが難しいんですよ。
やっぱり個人が重要なんです。
とにかく、その人の思いを聞くんです。
そうすると何のために仕事をやっているかというアイデンティティが分かってきます。
そこに合議制を持って「あなたが入ってきてくれたことによって、こんなことができるようになった」「あなたがいてくれるから、こういうことがさらに追加してできるようになってきた」とコミュニケーションが取れると自分が認められている気持ちになります。
それが言葉だけで終わらずに、例えば先ほどの『堺一文字光秀』のように自分が関わることでインテリアまでできたとか、製品ができたとか、ロゴマークになったという成果。
さらに自尊心も生まれてきます」。

方針に対して反対があった場合はどうなるのでしょうか?
「例えばどこかの店舗でお客様もあまり来ないし、楽だと思って勤めている方がおられるとします。
そこに店側がインバウンドに向けての仕事を増やそうとするとお店は忙しくなる。
その時にどうしても優先順位として、楽に仕事したいと思っている方は離れてもらうことも視野に入れないといけません。
お店が打ち出したビジョンに"私も乗りたい"という人を巻き込んでいかねばなりません。
それが会社全体の1つの方向になりますよね。
代謝を繰り返して筋肉質にしていくイメージです」。

竹原編集長のひとこと

会社に寄り添いながら並走し、客観的な目線も持ちつつ提案もしていく。 色んな目のつけどころがまさにデザイン的ですね。