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上野誠の万葉歌ごよみ
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上野誠の万葉歌ごよみ
毎週土曜日 朝 5:30〜5:45

上野誠(國學院大學 教授)
上田悦子(MBSアナウンサー)
★上田悦子アナウンサーブログ
utagoyomi@mbs1179.com
上野先生に聞いてみたい事、番組の感想など何でもお寄せください。
〒530-8304 MBSラジオ
「上野誠の万葉歌ごよみ」

【2023年3月18日 放送分】
【2023年3月11日 放送分】
【2023年3月4日 放送分】
【2023年2月25日 放送分】
【2023年2月18日 放送分】
【2023年2月11日 放送分】
【2023年2月4日 放送分】
【2023年1月28日 放送分】
【2023年1月21日 放送分】
【2023年1月14日 放送分】
上野誠の万葉歌ごよみ-歌ごよみ
【2023年3月18日 放送分】
2023年3月18日
【巻】…4・597

【歌】…うつせみの人目を繁み 石橋(いははし)の間近(まちか)き君に恋ひ渡るかも

【訳】…世間の人目が多いので、飛び石ではないけれど、間近にいるあなたに恋い続けてしまいます

【解】…笠郎女が大伴家持に贈った歌。大伴家持は笠郎女のことを好きになって声をかけ、恋人関係になりますが、笠郎女の気持ちが高まっていくにつれ、家持の方は気持ちが冷めていったようです。そんな状況の中で、笠郎女は家持に24首の歌を贈りました。今回ご紹介するのはそのひとつ。石橋とは、川の浅瀬を渡る時に使う飛び石のことで、岸のすぐ近くにあるもの。そんな石橋ではないけれど間近にいるあなたに、と表現しているのです。家持がそんな近くにいるのに、世間の噂が激しいので会えないようですが、本当に好きならば、噂がどうであれ家持は会いに来ていたでしょう。そうでないということは、やはり気持ちが冷めつつあるということ。笠郎女はきっとそのことに気づいていたでしょうが、それでも歌を贈らずにはいられなかった切ない気持ちが伝わってきます。

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上野誠の万葉歌ごよみ-歌ごよみ
【2023年3月11日 放送分】
2023年3月11日
【巻】…4・570

【歌】…大和へに君が立つ日の近づけば 野に立つ鹿もとよみてぞ鳴く

【訳】…大和へとあなたが立つ日が近づいてゆくと、野に立つ鹿も声を響かせて鳴いています

【解】…先週につづき、九州大宰府から平城京に戻ることになった大伴旅人を送別する宴席で詠まれた歌です。鹿が「とよみてぞ鳴く」とは、声を響かせて鳴いている様。しかも、野に立って鳴くというのは、鹿までもがあなたの旅立ちを悲しんでいるのですよ、と歌っているのです。作者である大典麻田連陽春は、自分の気持ちを表すだけでは足りず、鹿の姿も描くことで、悲しみの強さを表したのでしょう。交通手段が発達していない古代では、いったん遠い所に行ってしまうと、頻繁に帰ってくるという訳にはいきません。再び会える日があるのかどうかさえ分からない時代ですから、別れの悲しみというのは、とても深いものだったのでしょう。

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上野誠の万葉歌ごよみ-歌ごよみ
【2023年3月4日 放送分】
2023年3月4日
【巻】…4・569

【歌】…韓人(からひと)の衣染(ころもし)むとふ紫の こころに染みて思ほゆるかも

【訳】…韓人が衣を染めるという紫のように、心に染みて思われてしまいます

【解】…大宰府の長官だった大伴旅人が、大納言に任ぜられて京に戻ることになった時、大宰府の役人たちが、筑前国(現在の福岡県)にある蘆城の駅家(あしきのうまや)という所で送別の会を開きました。その宴席で大典麻田連陽春という人が詠んだのがこの歌。韓人は、本来は中国や朝鮮半島にいる人のことを指すものですが、いつしか、外国人一般を表す代名詞になりました。この韓人たちが持っていた染色技術は優れていて、日本の技では出せない、鮮やかな紫を染めることができたようです。歌では、その美しい紫のように、時間が長く経っても色鮮やかにあなたのことを思い出すでしょう、と詠んでいるのです。

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上野誠の万葉歌ごよみ-歌ごよみ
【2023年2月25日 放送分】
2023年2月25日
【巻】…4・554

【歌】…古人(ふるひと)の賜(たま)へしめたる吉備の酒 病めばすべなし貫簀(ぬきす)賜(たば)らむ

【訳】…昔なじみの人がくださった吉備の酒、身体がつらくなったらどうしようもありません。貫簀もくださいな。

【解】…「古人」は、昔から付き合っている馴染みの人。そして「貫簀」とは、竹で編んだ簀子(すのこ)で、水が飛び散るのを防ぐために、たらいなどにかけていたものです。この歌は、有名な皇族のもとに古い友人である大伴旅人からお酒が届き、皇族が旅人への返礼として贈ったものです。届いたのは、美味しい酒の里として知られる吉備(現在の岡山県)のお酒ですが、歌の作者は、貫簀もくださいな、と訴えています。少々厚かましい印象を受けますが、実はそうではなく、このお酒は美味しいに違いないので、きっと飲みすぎて気分が悪くなるだろうから、あらかじめ貫簀も送ってくださいと、お酒を間接的に賞賛しているのです。このような歌のやりとりが出来るのは、二人がずいぶん親しい間柄だったからでしょう。ちなみに、貫簀は大伴旅人が赴任していた大宰府の名産品です。

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上野誠の万葉歌ごよみ-歌ごよみ
【2023年2月18日 放送分】
2023年2月18日
【巻】…4・521

【歌】…庭に立つ麻手(あさで)刈り干し 布さらす 東女(あづまをみな)を忘れたまふな

【訳】…庭に育った麻手を刈って干して布にさらす、その東女を忘れないでくださいね

【解】…官僚の人たちの異動事情というのは、古今東西同じようなもので、古代でも、平城京から地方に派遣されたり、反対に地方赴任していた人が都に戻るという異動が繰り返されていました。この歌は、常陸(現在の茨城県)に赴任していた藤原宇合が京に戻る際に、常陸の女性が贈ったものです。当時、衣服を作るには、麻のタネを植えて収穫し、繊維を取り出して糸を作り、その糸を織って衣服にするという、大変な作業でした。作者の女性は、そういった作業をしている田舎女ですが、と自分のことを称しながら、私のことを忘れないで下さいね、と訴えているのです。この女性と藤原宇合がどのような関係だったのか分かりませんが、この歌は宴席で詠まれたものと考えられるので、場を盛り上げるために作られたのかもしれません。

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