第1222回放送 「感染拡大で避難行動は?」 
電話出演:兵庫県立大学減災復興政策研究科教授 室崎益輝さん

千葉)リスナーの方からメールをいただいています。
「毎日、コロナウイルスに振り回され、いま、災害が起こったらなんて考えたくないけど、こればかりは避けられませんよね。」

亘)私は阪神・淡路大震災で避難所生活を経験しているんですが、あのときに、この新型コロナウイルスの感染が拡大していたら・・・と思うと、ぞっとします。
千葉)避難所の環境は、まさに今言われている「三密状態」の環境ですもんね。
亘)十分な距離をとるのが難しい状況でしたので、あのときに感染症がはやったら、壊れかけた家に帰ってしまおうと思うんじゃないでしょうか。

千葉)いま、コロナウイルスの感染者が増えている状態で、近畿でも大阪などで外出自粛要請が出されている状況でもあります。そんなときに、「いま、地震や水害が起きたら」と考えたくはないんですが、考えないといけませんよね。
亘)この番組でも、コロナの問題をどう扱うのか、たいへん悩ましいんですが、きょうはそれについて考えていきたいと思っています。

千葉)きょうは、「感染拡大で災害避難行動は?」というテーマで送りします。
いま、新型コロナウイルスの感染が拡大している中で、災害が起きたときの避難行動はどうすればいいのか。そして、地震や、これからの季節は水害が起こる可能性も大きいですが、そういった災害が起きたら避難所はどうなるのか、兵庫県立大学減災復興政策研究科教授の室崎益輝さんにお聞きします。
出演者の距離をとるため、濃厚接触防止のため、きょうは室崎さんは電話出演になります。

千葉)いま、自然災害が起こったら、避難でどんな問題が起きるでしょうか?
 
室崎)まず、その前に確認しておかないといけないのは、コロナウイルスの今の厳しい状況は、長期化すると思うんですよね。1年ぐらい、こういう状態が続くかもしれない。他方で、この1年以内に、豪雨災害のようなものが必ず起きると考えられるわけです。大きな地震が起こるかもしれません。まさに、コロナウイルスと大規模災害が複合するということを、あらかじめ考えておかないといけないということだと思います。もし、今のコロナウイルスが蔓延している段階で、大きな災害が起きて、避難しなければならないとなったときに、どういう問題が起こるかというお尋ねだと理解しています。
それで基本的には、コロナウイルス対策は三つの密(密集、密閉、密接)を避けないといけない。ところが災害時の避難所を見ると、雑魚寝状態でぎゅうぎゅう詰め。ひとりあたり1平米もないような超過密状態におかれるわけですよね。他方で、家族も、家族以外の人たちも、体をすり寄せるように話をしなければならないということで、密接の状況が生まれてくる。結論からいうと、最も感染が広がりやすい状況になってしまうということです。

 
千葉)そうですよね。最悪の状態といえるんじゃないでしょうか。

室崎)25年前の阪神・淡路大震災のときに、震災関連死といって、避難所などで生活していて命を落とした人が900人も出た。そのうちの300人はインフルエンザなんですよ。
 
千葉)あのとき、300人もインフルエンザで亡くなったんですか?
 
室崎)そのときのインフルエンザは、今のコロナほどそんなに強烈なものではなかったけど、それでも300人の命が奪われているんですよ。そういうことを考えると、今回もみんなが避難所に逃げてきて超過密状態になると、みんながコロナに感染してしまうので、過去の教訓からも要注意というか、みんなが避難所に殺到する状況を避けなければいけないと思います。
 
亘)阪神・淡路大震災のとき、私も避難所をいろいろ取材したんですが、インフルエンザにかかった人に出会った記憶がなくて、その当時は、インフルエンザにかかった方を隔離するようなことはあったんでしょうか。
 
室崎)そういうことはしていないです。どうしても悪くなれば病院に運ばれた人はたくさんいたんですが。

千葉)避難所での感染拡大、クラスター発生を避けるためには何ができるんでしょう?
 
室崎)基本的には避難所に殺到しない、避難所に行かないようにしないといけない。論理的に矛盾するんですけどね。避難勧告や避難指示が出たら避難するということになっているので、避難所に行かないといけないんですが、行くとコロナウイルスに感染して命を失うかもしれないという、そういう状況におかれてしまうわけですよね。少なくとも今の状況で体育館にたくさんの人が入ってしまうとコロナが広がってしまうので、それはやめないといけないと思います。そうすると、考えられることは2つしかないんです。避難所をたくさんつくって、広くして、子どもの教育には差し支えるんですが、各教室を隔離病棟みたいな感じで、個室型に使えるようにするという、避難所の側を改善するのがひとつですよね。
もうひとつは、体育館に入らなくてもいい避難形態というか、別のかたちの避難を考えるということになってくると思うんです。

 
千葉)別の形の避難ですか?
 
室崎)そうですね。まず考えられるのは、避難所に行かないようにする、在宅避難。東日本大震災のときも、西日本豪雨のときも、避難所に行かずに自宅にいた人がたくさんいるんですよね。2階だと暮らせる。1階は泥まみれだけど2階では暮らせるので、やはり自宅のほうがいいという人もいるし、避難所に行くとプライバシーもないし、ゴミゴミしているので自宅にいようということで、自宅に避難した人がいるんですよね。在宅避難者というんですが。
 
亘)それは、一旦は命を守るために避難場所に行くけれども、その後、家に戻るという理解でいいですか?
 
室崎)そうです。一旦は避難所に行くけれど、ゴミゴミして超過密でプライバシーもないので、自宅のほうがいいと。ところが、自宅にいると、必要な水や食料が届かないとか、情報が届かないとかいう状況に置かれてしまうので、孤独死などにつながるおそれがあるんですよね。
 
千葉)孤立してしまうんですね。
 
室崎)そうですね。だけど、コロナウイルスの面からみると、避難所にたくさん来てもらっては困る。なるべく家にいてほしい。逆に、家にいても安心できる環境をつくるということだと思うんですよね。食料や水は届けるようにするし、いろんな情報はちゃんと届くようにするというか。また、在宅被災者のいるところには、仮設のトイレを近くの公民館にきちんと置くとか、仮設の風呂のような車を持って行ってお風呂にも入れるとか、そういう環境をつくって、在宅でも助かるようにする。今のコロナでいうと、病院に行けない人が在宅療養にするようなもの。自宅にいても健康でいられる環境づくりを考えておかないといけないというのが、一番目の対策だと思うんです。

亘)行政が、だれが在宅避難しているか、ちゃんと把握しないといけないですね。

室崎)もちろん、そうです。そういうことも含めて、だれが在宅かもつかみながら、でないと物も届けられない。コミュニティ単位でしっかり全体像を把握すると言いうことですね。
 
千葉)でも、阪神・淡路大震災のときのように、家が崩れてしまって、どうしても家で生活できない方は、どうすればいいんでしょう?
 
室崎)そういう人たちをどうするか。アメリカとかヨーロッパは、あまり建物の中に避難しないんですよ。大きなテント村をつくるんです。イタリアでは6人用のテントを何千も並べて生活する。プライバシーが確保できるんですよ、テントごとに生活するということなので。屋外なので密閉というのも避けられるわけですよね。屋外避難という仕組みを取り入れないといけないと思うんです。
 
亘)イタリアのテントは誰が持っているんですか?
 
室崎)行政とボランティア、両方なんです。イタリアのボランティアは、行政にかわって避難所の運営をしたりするので、ボランティアごとにちゃんとテントを備蓄している。それとは別に、行政、国とか県が大量のテントを用意していて、48時間以内に一斉にテントが建ち並び、全員が入ることができるという仕組みに、イタリアではなっているんですよ。
 
亘)48時間って、2日間ですよね。
 
室崎)はい、2日以内です。この前のイタリアの地震だと、1日24時間でそれができあがっているので。日本では避難所開設に2日とか3日とか、かかっているところがありますよね。2日以内にキャンプ場みたいなものができるわけです。それが世界の潮流なので、日本も世界のそういう優れた経験に学んで、屋外避難のシステムを取り入れたほうがいいと思うんですよね。
 
亘)日本では、あまりテントを建てる土地がないとか、よく言われますよね。
 
室崎)そうです。それは土地探しをしないといけなくて、野球場や陸上競技場、公園なども使わないといけない。そういうことも含めて考えないといけない。
 
千葉)テントだと、今は暖くなってきたからいいですが、寒さも心配ですね。
 
室崎)そのへんも対策が必要で、イタリアなんかは、暖房器具もセットになっているんですよ。
もうひとつ、テントじゃなく、日本の人たちになじみがあるのが車中泊なんですよ。自分のマイカーの中で過ごす。これは3番目の方式なんです。ただ、車中泊もエコノミークラス症候群、狭い車の中でじっとしていると体調を崩すことがおきてしまう。それで車中泊で亡くなる方も多いので、小さな車ではダメで、できるだけ広い車。そういうと、「我が家には小さな車しかない」と言われるかもしれないけど、少し大きな車を持っている方は大きな車で避難生活をしてもらう。お持ちでない方は、行政がモービルハウスやキャンピングカー、トレーラーハウスなどを持ち込んできて、そこで生活できるようにすることが必要なんですね。

 
亘)千葉さんは、トレーラーハウスの取材をしていましたね。
千葉)非常に家族の空間や、距離がとれて、私はとても有効だと思ったんですよ。ただ、短期間でトレーラーハウスを集めて準備することができないので、普段から準備しておかないといけないですね。
 
室崎)だから、そういうことで言うと、まず車を持っている人はご自分の車で、エコノミークラス症候群がおきないような対策を考えながらというのが、とりあえずできる方法ですね。

千葉)テント避難も、キャンピングカーも、準備するまでに時間がかかると思うんですが、今ある避難所を改善するとか、避難所生活が必要なときに感染予防のために何ができるかというところは、何かありますか。
 
室崎)避難所を広げたり増やしたりするのは、なかなか至難のわざ。ただ、避難所の中でも、隔離できるような、感染した人だけが暮らす部屋をつくるとか、医療スペースをつくるとかは考えなければならないと思うんです。そういうことであれば、もうひとつ、ぼくが4つ目の方法と思っているのは、疎開避難。遠くの友達のところや親せきのところ、あるいはホテル、有馬温泉とか、いわゆる自分のコミュニティや小学校区の中でなく、離れたところに少し避難できる場所を確保するというのは、頭に入れておかないといけないと思うんです。ホテル避難なんかいいなあと思うんですけど、そんなに部屋数もない。そう考えると、結局、遠くの親戚や知人を頼って、しばらくは九州に行くとか、そういうことが必要。まあ、九州に行っても、コロナウイルスのリスクはあるかもしれませんけど、とりあえずの避難生活はできますよね。
 
亘)東日本大震災のときは宿泊施設の利用が結構ありましたよね。
 
室崎)そうです。だから私は、ホテルをもっと活用するほうがいいと思う。というのはホテルはコロナウイルスの問題でお客さんが減っていますよね。空き部屋がたくさんあるはずだし、民泊の施設も空いていると思うんです。そういう空いている施設をうまく利用することも必要だと思います。
 
亘)行政がその部分の費用をきちんと負担できたらいいですね。

室崎)当然そうです。本来は行政がしっかり安心できてゆったり過ごせる避難所を整備しないといけないんですけど、行政にかわってホテルや宿泊施設の協力を得るなら、当然、その費用は行政がみないといけないと思います。あるいは車中泊した人に、1日いくらという生活費を出すなら、みんながんばって快適な車中泊を考えてくれるかもしれないと思います。
いずれにしても、どのやり方も、いま、私の思いつきで話しているので、もう少し科学的に検討して、リアリティのある方針をつくらないといけない。それは行政が専門家の協力も得て、至急に検討して方針を出さないといけないと思うんですよ。あす大きな地震がくるかもしれないという状況なので、急いで方針をつくらないといけないし、できることを始めないといけないと思うんですよね。

 
亘)その場合に、どの役所が音頭をとるかというようなことで、時間がかかってしまうような気がします。
 
室崎)もう、それぞれの自治体が自治体をあげて、取り組まないといけない。行政が外出禁止とかいうのもいいけど、同時に地震のときの避難対策を、知事とか市長を先頭にがんばってもらわないといけないと思いますよね。
 
亘)あと、なるべく早く避難所を解消できるようにしないといけませんね。みなし仮設とか、一般の仮設住宅の建設もそうですが。
 
室崎)そうですね、避難所生活を短くして、より快適な生活ができるように、プレハブ仮設をつくるとか、みなし仮設を確保する取り組みのスピードを上げることも必要だと思います。
 
亘)そのスピードを上げるためには、行政が主体的に動くということになりますね。
 
室崎)そうです。まず、提供いただける空き家のリストをつくっておくことも必要でしょうし、仮設住宅の建設資材もなかなか難しくて、プレハブ仮設のような建材は、いま、生産もストップしているんですよ、みんな家の中にいなければならないので。だから資材がすぐ集まるかどうか怪しい。だけど、日本の伝統的な木材みたいなものをうまくストックしておいて、そういう木材でも何を使ってでもいいから、もっと簡便な仮設住宅のつくり方も頭に入れておかないといけないと思います。
 
亘)なるほど。私が思うのは、今回、コロナウイルスが都市部で広がっているので、一極集中の弊害というか、日本の都市政策も問われているという気がします。
 
室崎)まさに都市政策のあり方が問われているということと、避難所がただでさえ過密だという意味でいうと、災害時の避難対策とか、住宅の再建政策も問われていて、コロナ感染拡大だから検討するというのではなく、長期的に、日本の避難所のあり方や仮設住宅のあり方も同時に考え直さないといけないので、今回だけの問題でなく、もっと大きな視点からも考え直す必要があると思いますよね。
 
千葉)今回のコロナウイルス感染拡大で気づかされる防災上の教訓って、たくさんあるんですね。
 
室崎)たくさんありますね。メカニズムがちがうので、地震や豪雨とコロナウイルスのちがいはあるんですけど、共通する部分がたくさんあるんですよね。たとえば、人々の生活や地域の経済に間接的な問題を引き起こすという意味では、最近の地震・豪雨災害とまったく一緒なんですよね。最終的には経済にダメージがいくし、人々の生活が苦しくなるということは地震とコロナ、全く一緒なので、そういうところに目を向けて対策を考えなければならないというと、今までの防災対策と全く一緒だと思うんですよね。
 
亘)防災の専門家の間でも、コロナウイルスの感染拡大は、話題になっているんでしょうか。
 
室崎)話題になりますし、ぼくはもっと防災の専門家が発言しないといけないと思っていますよ。危機管理という面で。コロナの感染のところは医療関係者の世界ですけど、都市を閉鎖するだとか、学校を休みにするというのは危機管理の問題なんですよね。そういうことに対し、危機管理の専門家が、こうあるべきだと言わないといけない。安全性というのは必要条件なので、安全はしっかり考えないといけないですけど、安全だけで我々は生きているわけではなくて、日々の暮らし、経済、文化、たとえば音楽に触れるということで生きているので、むしろ芸術・文化という視点からもしっかり考えないといけなくて、コンサートホールをストップすればいいというものではないと思うんです。そういうところに防災の専門家がもっと発言して、どうすればコンサートができるかという提案をしっかり示さないといけないと思うんですよね。
 
千葉)「ネットワーク1・17」は防災番組なんですが、コロナの感染症問題をどう扱うべきか、すごく悩んでいたんです。
 
室崎)コロナも防災ですよ。ぼくは以前から「5つのリスク」を提示してきたんですけど、自然災害とともに、感染症(インフルエンザなど)のリスクもあると、かなり早くから提起しているんですよ。それ以外に、「犯罪」というのもあるし、大きな気象変動、地球温暖化みたいな、いくつかパターンがあって、人類の生命に危害を及ぼすという意味では全く同じだと思うんですよ。人類が滅びるならどういうことがあるかといろいろ考えているんですけど、地球温暖化、地球の温度がどんどん上がってしまうということがひとつと、もうひとつは核戦争みたいな放射能汚染が進むということと、3番目がウイルスだと思っているんです。ウイルスを軽視してはいけない。まさにそれは危機管理なり防災のテーマだと思うんです。
ただ、ウイルスに関しては、防災の学者だけでは答えが出せないので、医療や福祉の人たちと協力し合って答えを見つけていく必要があるので、今回ももっと分野を越えた連携というか、協力が必要だと思いますよね。

 
千葉)では、私たちも積極的にこの問題を考えないといけないですね。
 
室崎)ぜひ取り上げて、いろいろな人にアドバイスをしていただければありがたいと思います。
 
亘)考えていきたいと思います。
千葉)これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。

千葉)防災というのは、人類の生命に危機を及ぼすことに対処することなんだという室崎さんの言葉は、心に刺さりました。
亘)私もこの番組でどういうふうに新型コロナウイルスの問題を扱えばいいのか迷ってきましたけれども、それが吹っ切れたというか、並行して考えていかなければいけないんだと気づきました。もちろん、共通する部分、そうでない部分、ありますけれども、本当に私たちがいま、考えるべき問題だなあと思いました。
千葉)コロナウイルスに加えて大きな災害も起きる可能性がありますので、対処法を考えていきたいと思っております。
亘)そうですね、「複合災害」ということばがありますけれども、まさにその危機が今年は迫っていると思うんです。

千葉)番組ではメール、お便りを募集しています。みなさんにお寄せいただきたいテーマがあるんです。
「感染拡大の今、災害が起きたら、あなたは指定避難所に行きますか?
避難生活でどんなことが心配ですか?」
ちょうど、きょうの放送のテーマになったことですが、これについて考えていることを、私たちに教えていただきたいんです。よろしくお願いします。
亘)みなさんご自身の家から、普段避難しようと決めているところに、躊躇なく避難できるか、そして、こういうことが心配だということがあれば、教えていただきたいです。そして、一緒に考えたいですね。
千葉)きっとみなさん考えておられることがあると思うので、メール、おはがきでお寄せください。
メールの宛先は
117@mbs1179.com
みなさんと一緒にこの番組をつくっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。