第1287回「大阪北部地震3年【2】~ブロック塀対策は進んだのか」
取材報告:新川和賀子ディレクター

西村)今月18日で大阪北部地震の発生から3年を迎えました。この地震による死者6人のうち2人は、倒れたブロック塀の下敷きとなって亡くなりました。地震のあと、各地の小中学校などを中心にブロック塀の点検や撤去が行われましたが、対策は進んでいるのでしょうか。
取材した新川和賀子ディレクターが報告します。よろしくお願いします。

新川)よろしくお願いします。
大阪北部地震のときに大きく取り上げられたのが、ブロック塀の倒壊でした。小学4年生の女の子が亡くなった高槻市立寿栄小学校のブロック塀の倒壊は、テレビや新聞でもさかんに報じられました。

 
西村)あと少しで門に入るというときに起きた悲しい事故でしたね。
 
新川)寿栄小学校のプールの目隠しとして設置されていたブロック塀が、約40mにわたって倒壊しました。
  
西村)献花に行ったときに現場を見て、40mはとても長い距離に感じました。本当に恐ろしいと思いました。
 
新川)このブロック塀は、現在の建築基準法に照らしてみると問題だらけでした。法律ではブロック塀の高さは2.2m以下でなければなりません。プールの躯体部分の基礎が1.9mあり、その上に目隠しとなるブロック塀が1.6m積まれていました。その部分が道路に全部倒れてきたんです。地面からの高さは3.5mにも達していて、大人の背の倍ほどの高さがありました。重さは10t以上あったとみられています。さらにブロック塀の内部に設置すべき鉄筋が必要な高さまで入っていない、塀を支えるために背面につける控え壁もないなど、さまざまな問題点がわかりました。
 
今回は、この事故が起きた高槻市を中心に、ブロック塀対策の取材をしてきました。まず、高槻市が着手したのが、公共施設のブロック塀の撤去。危険度の高いものから優先順位をつけて、撤去を進めていきました。高さが80cm以上のブロック塀は、高槻市内のほとんどの小中学校で撤去が終わりました。ほかの公共施設は、今年度中に95%が撤去を終える見込み。高さ80cm未満のものは、今後7年以内に高槻市内全ての公共施設でブロック塀の撤去を終える予定です。
 
西村)高さ80cmというのは、大人の腰くらいの高さですね。
 
新川)ブロック塀の1段の高さが約20cmなので、ブロック塀でいうと4段ぐらい。撤去した後は、軽いフェンスなどに取り換えています。今後は市内の公共施設にはブロック塀を設置しない方針だそう。
 
西村)公共施設の対策が進むのはありがたいのですが、住宅街にもブロック塀がありますよね。先日防災散歩したときに思いました。
 
新川)大阪北部地震では、大阪市東淀川区で民家のブロック塀が倒壊して下敷きになり、80歳の男性が亡くなっています。個人の家や民間の会社にもブロック塀はたくさんあって、それが道路に面していることも多い。所有者が個人や法人なので、基本的には持ち主が対策をしてくれるしか方法がないのです。
 
西村)行政は対策を促してくれないのでしょうか。
 
新川)もちろん進めています。多くの自治体が大阪北部地震のあとに、ブロック塀の撤去にかかる費用の補助制度を設けて撤去の後押しをしています。高槻市にも補助制度があります。その上で、高槻市では、住民に危険があるブロック塀の存在を認識してもらうための取り組みを始めました。高槻市からの呼びかけで、寿栄学校のある地区の自治会や防災会が中心となり、地域のブロック塀の調査を行いました。
寿栄川添自治協議会議長の豊山清視さんのお話です。

 
音声・豊山さん)子どもが亡くなったことがこの取り組みをはじめた一番の理由です。まず通学路を調査し、ブロックが7~9段積み上がっている危険な場所をすべて拾い出しました。住人にチラシを渡して、「市から補助出るので、ブロック塀をかえませんか」と案内してまわったんです。そのうちの何軒かは制度を利用して撤去したところもあります。
  
新川)地道な活動ですよね。寿栄川添地区には6000軒の住宅があります。戦後開発された古い住宅地で、一戸建てがたくさん立ち並んでいます。自治会と防災会のメンバーが協力して、地域をまわってブロック塀をチェックしました。手元にチェック項目の表があります。
 
西村)たくさん項目がありますね。
 
新川)高さ・ひび割れ・傾きなど専門的なもの以外にも、通学路・細い道など、自治会や防災会が話し合いで加えた項目もあります。このような地域の人がわかるチェックポイントを加えて、半年間かけてブロック塀の点検を行いました。危険と判断されたブロック塀の所有者を個別訪問して、補助制度のチラシを渡して撤去を呼びかけました。「来てくれてよかった」「後押しになった」という声も。
実際に制度を使ってブロック塀を撤去した家を見てきました。昔ながらの日本家屋で、約10mにわたり庭を囲うようにあった古い塀がすべて軽いフェンスに付け替えられていました。目隠しができるフェンスでプライバシーも守られていました。向かいの家もそれを見て、同じようにブロック塀を撤去してフェンスに付け替えていました。ご近所で対策が進んでいます。
ブロック塀を撤去した別の家の住民にお話を聞くことができました。寿栄川添地区にお住まいの70代の女性です。

 
音声・女性)我が家にはブロック塀が7段ありました。通学路ではないのですが、子どもが前を通るので、何かがあってからでは遅いと思って。市からのチラシがポストに入っていて、娘にもすすめられたので思い切って撤去しました。
 
西村)みなさんが配ったチラシがきっかけになったのですね。家族の後押しも大きいですね。
 
新川)この女性の家のブロック塀が作られたのは1981年。フェンスに付け替えてよかったと話していました。補助制度があることを知らない住民も多く、自治会・防災会の地道な活動がブロック塀の撤去に結びついています。でも、地域を歩いてみると、道路沿いに古くて背の高いブロック塀が残っているところもあります。明らかに亀裂が入っているものや斜めに傾いているようなものも。調査では、高さ120cm以上の危険なブロック塀が116件あったとのこと。2年前に調査をして、現在までに撤去に至ったのは19件のみです。
 
西村)まだまだ少ないのですね。なぜ撤去が進まないのでしょうか。
 
新川)撤去が進まない理由について、寿栄川添地区防災会会長の山田武志さんは次のように話しています。
 
音声・山田さん)一番の問題はお金。タダならやりますよ。一人暮らしの高齢者も多くなっていて、みんな年金金活。何かあったら危ないとわかってはいるけど、お金がないんです。
 
新川)古いブロック塀がある家は、家も古いことが多く、住民が高齢者であることも多い。戸別訪問の際に、「ほっといてくれ!」と怒られるようなこともあったそうです。ひとり暮らしの高齢者の場合は、近隣の親戚を探して説得に行くことも。
大阪北部地震では被害を受けた住宅の99%が一部損壊でしたが、補修費用は莫大で、地震から1年以上経っても屋根にブルーシートがかかったままの家が多く、問題となっていました。家もなかなか直せない状況なのに、今すぐ住む環境に影響しないブロック塀の政策が後回しになるのは当然かもしれません。

 
西村)制度では、工事のお金をどれぐらい補助してもらえるのでしょうか。
  
新川)ブロック塀撤去の補助制度は自治体によってさまざま。高槻市は、大阪府内随一の補助率だそう。撤去するブロック塀の面積1㎡あたり1万3千円(上限100万円)の補助が出ます。
先ほどのブロック塀を撤去した女性の場合は、ブロック塀の基礎2段を残してきれいに補修して、その上に軽量フェンスを設置。撤去+新しいフェンスに付け替える工事で合計40万円以上かかったそうですが、そのうちの補助は6万円だったということです。

 
西村)そんなに少ないのですね。自己負担が大きいですね。
 
新川)それでも、この補助制度がなかったら工事は決断していないと話していました。さらに、高槻市の場合は、ブロック塀の撤去工事にしか補助金が出ないんです。新たにフェンスを設置する工事費用やブロック塀の補修には補助金は出ません。ただ、ブロック塀を撤去して生け垣に作り替えた場合は、少し補助が出るのですが、基礎から壊さなければならないので莫大なお金がかかります。これは、市役所の別の部署が担当していて、ブロック塀撤去の補助制度のチラシには案内がないのです。
 
西村)ちょっと分かりにくいですね。
 
新川)大阪市の場合は、高槻市より補助額は低いのですが、撤去工事に加え、新設するフェンスの工事にも補助金が出ます。神戸市の場合は、ブロック塀を基礎から撤去しない限り補助金がでません。
たしかにリスクは全て取り払われますが、基礎から撤去すると重機を用いる必要があって費用がかさみます。
さまざまな自治体の補助制度を説明しましたが、全国の半数の自治体では、ブロック塀撤去の補助制度自体がありません。

  
西村)次の大地震もいつ来るかわからないので、全国的にもっと対策が進めばいいですね。
 
新川)大阪北部地震から時間が経って関心が薄れていることもあって、高槻市では、昨年度から補助額を増やしました。そうすると制度の申請件数が前年よりも増加したそうです。逆に地震のあとに急遽制度をつくった大阪市は、補助金制度を今年度で終了する予定。来年度以降、同じような制度ができるかは、全く未定とのこと。
 
西村)時間がある時に申請しよう思っていた人は、急いだ方が良さそうですね。
 
新川)南海トラフ巨大地震で被害が予想されている和歌山県の串本町では、撤去費用の9割を町が補助してくれます。串本町も含め、和歌山県の由良町や印南町などでは、補助制度が使える対象者をブロック塀の持ち主だけではなく、その地区の自治会や自主防災組織にも広げています。つまり、個人でお金が出せなくても所有者の許可を得たうえで、地域のお金で危険なブロック塀を撤去することができるのです。自治体によって財政状況はさまざま。国は地域の防災対策を進めるために、「防災・安全交付金」というお金を地方自治体に出していて、幅広く防災対策に使えるようにしています。もちろんブロック塀対策にも使えます。建物の耐震性、構造物の安全性というのは、地震が起きると命に直結すること。私は優先順位が高いものだと思います。交付金を活用して、対策を進めてほしいですね。

 
西村)何かあったら持ち主の責任が問われることもありますよね。
 
新川)熊本地震では、ブロック塀の下敷きになって死亡した人の遺族らが、持ち主を相手に損害賠償を請求する訴訟も起きています。
今回取材した高槻市・寿栄川添地区の調査時に、「今回の地震で倒れなかったから大丈夫」という声もあったそうですが、古いブロック塀は、阪神・淡路大震災や大阪北部地震でダメージを受けています。今回大丈夫だったから次回も大丈夫という保証はありませんよね。大阪北部地震であらためて注目されたブロック塀ですが、元々は1978年に起きた宮城県沖地震でブロック塀が倒壊して、14人もの人が亡くなったことで法律が改正されました。阪神・淡路大震災でも、公共施設だけで2500ヶ所近くのブロック塀が倒壊したことがわかっています。民間のブロック塀を合わせるともっとたくさんの倒れていたと思います。国交省のホームページには、「ブロック塀点検のチェックポイント」も載っています。

 
西村)先日、防災散歩しているときに気づいたのですが、じっくり歩いてチェックしてみると気づくことがたくさんあります。自治会で、地域のみなさんと一緒に防災散歩をしてチェックするというのも良いと思います。
 
新川)地域で意識を共有するということは大事だと取材して思いました。大地震に備えて、国や自治体、地域のあと押しで対策が進められることを願います。
 
西村)きょう、番組聞いてくださったみなさん、周りでブロック塀のあるお家がありましたらぜひ一言、補助金についてお話していただけたらと思います。新川和賀子ディレクターの報告でした。ありがとうございました。