第1295回「大雨被害~佐賀県武雄市からの報告」
オンライン:おもやいボランティアセンター代表 鈴木隆太さん

西村)今月11日から続く雨で被害を受けている佐賀県・武雄市からの報告です。おもやいボランティアセンター代表 鈴木隆太さんにお話を伺います。

鈴木)よろしくお願いいたします。

西村)おもやいボランティアセンターの事務所は、佐賀県の中でも特に大きな被害があった武雄市にあります。付近ではいつ頃からどれぐらいの雨が降って、どのような状況になったのでしょうか。

鈴木)11日から断続的に雨が降り始めて、13日の夕方の時点では、事務所の前の道路は通れる状態だったのですが、13日夜から14日未明にかけて大雨が降り、いたるところで冠水。14日朝8時には、事務所にたどり着けないくらいの水深になっていました。

西村)どれぐらいまで水に浸かったのですか。

鈴木)地面から約1m60cmまで浸かりました。ひどいところは2mのところも。事務所は約1mかさ上げしてつくられた建物だったのですが、それでも床上40cmの浸水でした。

西村)家財道具など濡れて困ったものはありましたか。

鈴木)パソコンは駄目になりました。領収書や会計の書類もすべて浸かってしまいました...。

西村)事務所に行けない間は、鈴木さんはどんなことをしていたのですか。
 
鈴木)14日はずっと雨が降っていたので、外に出るのも危ない状況でした。わたしはお寺の住職もしているのですが、お盆のお参りにも行けなくて。お寺のまわりも冠水してしまいました。
 
西村)雨が降り続く中、鈴木さんはみなさんに声をかけていたのですか。
 
鈴木)わたしたちは令和元年8月の豪雨から活動をはじめたのですが、そのときからつながりのある被災者がたくさんいます。スタッフと手分けをして、「今はとにかく動かないで」「建物大丈夫?」というように電話でやりとりしていました。スタッフも自宅待機して、つながる人には電話をして。安否確認をひたすらやっていました。
 
西村)みなさんどんな様子でしたか。
 
鈴木)「玄関のところまで水がきた」「膝上まで水が入ってきた」という状況だったので、2階がある人は2階に居るように伝えました。電気も止まって携帯の充電もできない状態だったので、「大丈夫?」と確認だけしてすぐ電話を切って...という繰り返しでした。
 
西村)2年前の豪雨と比べて違いはありますか。
 
鈴木)2年前に被災した地域が今回も被災をしています。みなさん前回より水の量が20~30cm多いと言っています。前回の水害で被災して1m嵩上げして修復したのに、床上1mの被害を受けてしまった家もあります。
 
西村)浸水地域は2年前よりも広がっているのでしょうか。
 
鈴木)前回、床下浸水だった家が床上浸水になったケースも。前回それほど大きな被害を受けてない地域も被災しているので、浸水地域が広がっている印象はあります。
 
西村)困っている人が増えているのですね。佐賀県では今回の豪雨で亡くなった人はいないとのことですが、住民のみなさんがそれぞれきちんと避難行動をとっていたということでしょうか。
 
鈴木)わたしたちは、雨が降っていない日もずっと「早めの避難を!」と呼びかけていました。11日からずっと雨が降り続いていて、雨の中、避難所に行くことが危険な人もいたので、自宅の2階に上がる垂直避難が多かったです。各地域の消防団のボートで救出されて避難所に行く人もいました。
 
西村)避難所の今の様子は?
 
鈴木)今は避難する人も少なくなって、避難所は徐々に閉鎖をしています。自宅に戻りたい人も多く、親戚の家などに行く選択をする人も多いです。長期的にオープンなスペースで共同生活するのはやはりハードルが高いみたいで。家が残っているということもあり、とりあえず2階にいるという人も。平屋に住んでいるおばあちゃんがいるのですが、水に浸かって寝る場所もないはずなのに、帰ると言って。今日もスタッフに訪問してもらっているのですが、どのように過ごしているのか不安です。近くにお孫さんがいるとのことなのですが。
 
西村)お家が心配なのはわかりますが、お孫さんのお家が無事ならお孫さんといっしょに過ごしていただけたらと思いますね...。
 
鈴木)コロナの感染の心配もあって、大人数でいっしょにいることをなるべく避けたいという気持ちもあると思います。
 
西村)やはり2年前とはまた違った状況になっているのですね。武雄市だけでも床下浸水以上の被害を受けた家は約1650軒とのこと。みなさん、泥かきや片付けは進んでいるのでしょうか。
 
鈴木)とりあえず、水に浸かってしまった家財道具を外に出す作業をしています。
 
西村)この1週間、雨が上がっている日は何日かあったのですか。
 
鈴木)木曜の午後に少し太陽が出て、金曜の昼ごろからも太陽が出ていました。
 
西村)みなさん、その間に片付けをしたのですか。
 
鈴木)それ以前に、水が引いた段階で雨の降りしきる中、みなさん家財道具を外に出していました。
 
西村)おもやいボランティアセンターのTwitterを見たのですが、ボランティアに入っている人に、片付ける前に写真を撮っているかを必ず確認してくださいとありましたね。
 
鈴木)これからさまざまな手続きが必要になってきます。自宅の被災の状況や、どれぐらいまで水に浸かったかがわかる写真を撮っておくと、その写真を基に役場で手続きができます。半壊・大規模半壊などを証明する「罹災証明」に基づいて、今後配分される支援金の手続きができるので、とても重要になります。片づける前にまずは、室内、屋外から4方向の写真を撮っておいてくださいとみなさんにお願いしています。
 
西村)まだ被災をしていない人にとっても、これからの備えとしてすごく大切なことですね。
 
鈴木)みなさんも覚えておいてください。臭いも気になるので、とにかく早く水に浸かった家財道具を外に出したいということで、焦って出す人もいます。「写真撮った?」と聞くと、「撮ってなかった!どうしたらいい?」と言う人も多いので、スケールを使って水に浸かった位置を示して写真を撮るお手伝いをしたり。やり方がわからないと電話をもらったら、スタッフが駆け付けています。
 
西村)どうしたらといいのかわからないときに相談できる人がいるのは、本当に心強いと思います。泥かきや片付けを進めていく中で、ゴミもたくさん出ているのでは?
 
鈴木)みなさん、どんどん家財道具を集積場に持って行っています。家財道具を家の前に置いたままにしておくと、また長雨で冠水して流れ出していく可能性があり危険なので、わたしたちも集積所に運ぶ手伝いをしています。一昨年も水害にあって、今回捨てる家財道具はほぼ新品。ここ1年で買いなおしたものがまた今回の水害で駄目になって...。集積場に行くのがちょっと辛いですね。
 
西村)数十年にいちどと言われている大雨がまた2年後に来るなんて思わないですもんね...。
8月20日から公営住宅の一時的な仮入居の受付が始まったということですが、公営住宅に入ろうと考えている人もいるのですか。
 
鈴木)先ほどお話した平屋に住んでいるおばあちゃんのような人は、一時的にでも公営住宅等を利用して、避難生活をしてほしいと思うのですが、佐賀県は車がないとなかなか身動きが取りづらい。買い物に行くのも不便です。そんな人たちの買い物のサポートなどもできればと思っています。
 
西村)現在のライフラインの復旧状況は?
  
鈴木)水道・電気・ガスともに復旧しています。ガスはプロパンなので、ボンベを入れ替えることで使えるようになります。
 
西村)いつごろ復旧したのでしょうか。
 
鈴木)事務所は漏電の確認をしてから、15日には電気が復旧しました。
 
西村)事務所は今どんな状態ですか。
 
鈴木)泥は入ってなかったので、拭き掃除をしました。折りたたみ式の長テーブルが徐々に割れてきて、足の部分から水が出てきたので、見えない部分に水が残っているのかもしれません。
 
西村)それだけ水を含んでいるということですね。おもやいボランティアセンターのメンバーは何人くらいいるのですか。
 
鈴木)有給のスタッフが5名、いっしょに活動している仲間は約15人です。あとは連携している県外の団体。PCR検査やワクチン2回接種が終わっている人に、大分と熊本から来てもらっています。
 
西村)20名ほどのメンバーで事務所も大変な中で、サポートをするのは疲れもたまっているのでは。
 
鈴木)本当はもっと県外のボランティアさんにも来てもらって、お手伝いをお願いしたいところなのですが、コロナ感染拡大の中で、リスクを減らしていかなければならないので、今いるメンバーで対応していこうと活動しています。
 
西村)2年前より被害が大きいのに、遠方からの支援がないとうことで、これからの復旧作業は大変ですね。
 
鈴木)一昨年は、一般のボランティアさんにたくさん来てもらったのですが、7割が県外の人でした。残り2割が県内で、1割が地元・武雄の人でした。短期間に5000人受け入れたのですが、そのうち7割がいないとなると単純計算で延べ1500人ということになります。人手不足が予想されます。
 
西村)今回は新型コロナの影響もあって、おもやいボランティアセンター単独ではボランティアの受付をしていないのですね。
 
鈴木)一般のボランティアさんについては、武雄市社会福祉協議会が立ち上げる災害ボランティアセンターが受け入れ窓口になっています。わたしたちは、専門性を持つNPO団体の受け入れ窓口として機能しています。必要に応じて相談や作業にお手伝いに行く形で役割分担をしながら活動しています。
 
西村)これから心配なことはどんなことですか。
 
鈴木)一番心配なのは、短期間に2回も被災した被災者の精神的な影響を心配しています。家をどうにか直して前に進める状態になったのに、2回目の被災でお金の目途が立たない人もいます。こんなに短期間で2回も被災するなら、もうここには住みたくないという声も既に聞いています。そんな人たちに対して、住宅再建のための支援金がどれだけ出てくるのかが大きな鍵になると思っています。
 
西村)やはり安心して暮らせる場所っていちばん大事ですもんね。
 
鈴木)わたしたちは水害の後、それでも「安心して住み続けられる街にしていこう」と活動をしてきました。今回また被災して、安心して住めるようにしようと今なかなか言えない。なんと声をかけたらいいのか正直わからなくて。お話を聞きながら、お手伝いできることをやっているのですが。とにかく悩ましいです。
 
西村)今、関西に住んでいる私たちに何かお手伝いできることはありますか。
 
鈴木)来てもらうことがかなわない状況の中、いろいろな形で被災地の情報を見聞きしてもらいながら、被災地の人を支えるための募金をどうかお願いできればと思っています。
 
西村)私たちにもできる支援があるということで、何か少しでも助けになればと思います。きょうは、佐賀県武雄市 おもやいボランティアセンター代表 鈴木隆太さんにお話を伺いました。