第1303回「水道施設の耐震化」
オンライン:神戸大学大学院工学研究科 准教授 鍬田泰子さん

西村)今月3日、和歌山市の紀の川にかかる水管橋が崩落して、6万世帯で断水が1週間近く続きました。今月7日に首都圏を襲った地震では、東京都内23ヶ所で水道管から漏水し、道路が冠水しました。「地震が起こったとき、水道は大丈夫なのか」と不安を感じた人も多かったのではないでしょうか。
きょうは、地震工学が専門で、ライフラインの被害に詳しい、神戸大学大学院工学研究科 准教授 鍬田泰子さんにオンラインで話を聞きます。

鍬田)よろしくお願いします。

西村)和歌山市の水管橋の落下について伺います。水道管は地中に埋まっているイメージです。水管橋とはどんなものなのでしょうか。全国にあるのでしょうか。

鍬田)水管橋は一般の道路橋とは異なり、「水だけを流す橋」です。形式は異なりますが全国に数多くあります。

西村)調べてみたら、水の都なだけあって、大阪にも結構ありました。全国各地にあるのですね。

鍬田)管路を地中に埋められないところや、管路を道路の横につけて川を渡すことができない場合、水道管専用の橋を作ることになります。今回の和歌山のように水を送る量が多い場合は、道路の横に管路をつけることができないので、水道管専用の橋が作られたのだと思います。

西村)和歌山で崩れ落ちた水管橋はどこに問題があったのでしょうか。

鍬田)崩落した映像を見ると、アーチの下にある管路がまっすぐ下に落ちていました。これはアーチと管路を繋ぐ「つり材」の破断によって落ちたと考えられます。

西村)水道管が断ち切られたのではなく、つり材が破断したのですね。

鍬田)今後、崩落した橋を引き上げていろいろな調査がされると思います。今回崩落しなかった横の水管橋もつり材が破断していたと報告されています。

西村)つり材はなぜ破断したのか、原因はわかっているのですか。

鍬田)部材の形状が変わるところでサビが発生し、劣化して破断したのだと思います。

西村)なぜ錆びたのでしょう。

鍬田)サビによって劣化する理由はいろいろあります。雨・風や鳥の糞などさまざまな要因が重なって腐食・劣化がおこったのだと思います。

西村)1ヶ所でも断ち切れてしまうと崩落してしまうのですか。

鍬田)1ヶ所破断してしまうと、隣の部材が破断したところの荷重を支えることになります。バランスが崩れて一気に破綻につながったのだと思います。
 
西村)ほかの水管橋でも同様の崩落が起こる可能性はありますか。
 
鍬田)同じような構造の水管橋は全国にあります。劣化の環境は地域によって異なりますが、崩落する可能性はあるといえます。
 
西村)和歌山の水管橋は1975年に完成して、2023年で耐用年数の48年となります。老朽化も崩落の原因でしょうか。
 
鍬田)耐用年数も原因の一つですが、日頃の点検、維持管理がされていれば、長寿命化することも可能だと思います。
 
西村)和歌山市は毎月点検をしていたそうですが、どうして異常を発見できなかったのだと思いますか。
 
鍬田)水管橋の点検は、管路の漏水や錆をチェックすることが多いです。今回、つり材が破断したところは、人が通る点検路よりもさらに高い場所でした。点検路からつり材を見上げて確認することが難しい。点検の限界があったのではないかと思います。
 
西村)それなら点検の方法を変えなければいけないですね。
 
鍬田)水管橋で点検をする足場も十分確保されていません。今回の崩落で、ドローンでつり材の破断箇所を確認していますが、そのような新技術を日頃の点検の中でうまく使っていくことが、今後求められると思います。
 
西村)10月13日の神戸新聞に、姫路市が今回の和歌山の件を受けて、ドローンを活用して点検を始めたという記事が載っていました。ドローンはいろんなところに活用できるのだなと思いました。このような技術を使って、しっかりと点検を進めてほしいと思います。
しかし地震などの自然災害が起こった場合、崩落が心配。耐震性が気になります。
 
鍬田)今回崩落した和歌山の水管橋は、実は数年前に耐震補強がされていました。つり材の補強ではなく、管路の継ぎ手部分が橋脚から落ちないようにする対策がされていました。水管橋の中にある管路は温度等によって収縮します。その変異を吸収する継ぎ手部分は弱いので、その部分が橋脚から落ちないようにする対策が耐震補強の一つになっています。実際に崩落した水管橋も耐震補強がされた跡が見られます。
 
西村)このような崩落を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
 
鍬田)やはり日頃の点検の徹底。つり材が腐食しないように塗装をするメンテナンスも必要だったと思います。塗装が剥げてしまって腐食が進んだということもあると思います。
 
西村)塗装も大きなポイントですね。
首都圏では今月7日夜に最大震度5強の地震が起こって東京都内23ヶ所で、地中の水道管から水があふれて道路が水浸しになりました。この水道管自体は破損がなく断水は起きなかった。水道管の空気弁が振動したことによる故障が原因と言われていますが、これはどういうことですか。
 
鍬田)管路の中には装置類がたくさんついています。その一つに管路の中にある空気を外に逃がす空気弁というものがあります。空気弁の中には小さなボールが入っていて、それが振動するのですが、そのボールがうまく動かなかったために空気弁のところから漏水しました。
 
西村)このような空気弁の故障はよく起こるのでしょうか。
 
鍬田)東日本大震災では仙台で多く見られました。関西でも2004年9月5日に紀伊半島沖を震源とする地震で、大阪市内で漏水が多く発生しました。このときの漏水も空気弁による誤作動が原因でした。

 
西村)今後はどのような対策が必要でしょうか。
 
鍬田)耐震性のある空気弁も開発されていますが、空気弁はすぐに修理することが可能。漏水が発生しても断水が広域に広がることはないと思います。
 
西村)地中に埋まっている水道管の耐震性についても気になってきました。
 
鍬田)全国的には耐震化も古い管路の交換も進んでないというのが現状。年間で全延長の管路で更新ができたのは約1%以下です。100年以上かかってようやく全ての管路を更新できるようなスピードです。
 
西村)なぜ更新が進まないのでしょうか。
 
鍬田)更新するためのお金がないというのも一つの要因だと思います。水道事業や下水道事業は基本的に独立採算。みなさんからいただいた水道料金で経営を賄うことになります。水道システムができた1960年頃と比べると水の需要が落ちています。人口の減少、節水機器の普及もあります。1人当たりが使う水の量も減ってきています。そうなると、おのずと水道料金の収入が減るので、現在の施設の維持管理、管路の更新が難しくなります。
 
西村)マンパワーの不足という問題もあるのでしょうか。
 
鍬田)今後人口が減少していく中で、担い手がいないことも土木の分野で大きな課題になっています。
 
西村)技術者が減っていくと今後、水道管の交換をする人も減るし、遅れも出るし、私たちの生活にも影響が出てきますよね。
 
鍬田)全く工事ができないというわけではないのですが、昔と比べると工事を担ってくれる人たちが減少しているのは確かです。
 
西村)大きな地震が起きると長期の断水が起こるということを覚悟して、私たちは備えた方が良いのでしょうか。
 
鍬田)関西地域には、南海トラフ地震がいつかは来るといわれています。小さな口径の管路であれば、それほど断水の期間は長くならないと思いますが、今回の和歌山のように口径が大きい管路になると、復旧するのが難しいので長期の断水は起こり得ます。管路の工事や復旧工事も口径が大きくなればなるほど作業が難しくなります。
 
西村)水道施設の耐震化、老朽化対策のために必要なことは何だと思いますか。
 
鍬田)一つは水道の供給になっている事業体がコツコツと耐震化や老朽化のための維持管理を行っていくこと。もう一つは、耐震化や老朽化対策は、みなさんの水道料金に関わっているということを認識していただくこと。全国的に水道料金の値上げは、市民の理解が得られにくいです。今回の被害の事例を受け、今後の地震対策を考える上で、対策を進めていく必要があります。そのためには、やはりみなさんの水道料金が若干上がらないと対策が進まないと思います。
 
西村)水道料金が値上がりすると、その分対策に使われるのだと思うと考えも変わってきますね。私たちも水道についてもっと関心を持って、自分たちの暮らしを見直さなければいけないなと思いました。
きょうは、水道施設の耐震化について、神戸大学大学院工学研究科 准教授 鍬田泰子さんにお話を伺いました。