第1384回「『地震保険』の落とし穴」
オンライン:地震保険調査事務所 主席相談員 阿藤博祐さん

西村)みなさんは、地震保険に加入していますか。地震保険は、建物や家財の損害補償など災害時の備えになりますが、場合によっては正しく鑑定されず、本来受け取れるはずの保険金が受け取れないなど落とし穴もあるそうです。
地震保険の再鑑定などを行っている地震保険調査事務所 主席相談員 阿藤博祐さんにお話を伺います。
 
阿藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)阿藤さんはどのような活動をしているのですか。
 
阿藤)「地震保険を申請したけど保険会社から支払いをしてもらえなかった」「金額に満足がいかない」等の相談があったときに、建築士や損害登録鑑定人の資格を持った団体職員が再鑑定を行い、保険金が上方修正して支払われるようにお手伝いをしています。東日本大震災翌年の2012年から全国で調査をしています。
 
西村)鑑定のセカンドオピニオン的存在なのですね。再鑑定ができるということに驚きました。
 
阿藤)再鑑定は保険契約者の権利として認められています。特に費用はかかりません。
 
西村)地震保険に入っている人は全国でどれぐらいいるのでしょうか。
 
阿藤)世帯加入率は約70%と言われています。
 
西村)その数字について、どう思いますか。
 
阿藤)少ないと思います。
 
西村)地域によっても差があるのでしょうか。
 
阿藤)宮城県・福島県・岩手県など大きい地震が起きた地域は加入率が上がります。
 
西村)東日本大震災の前は、地震保険に加入してなかった人も多かったのですね。地震保険は地震保険のみで契約することができるのでしょうか。
 
阿藤)単独で加入することはできません。火災保険にオプションで地震保険を付けることが多いです。
 
西村)地震保険に加入すると、地震で被災して損害を受けた場合、何が補償されるのですか。
 
阿藤)建物の構造や損傷の規模によります。木造住宅と鉄骨の住宅ではポイントが異なります。建物に生じたヒビを数えるなどの鑑定をして、一定の損傷の割合を超えた場合、見舞金を受け取ることができます。
 
西村)家財も対象になりますか。
 
阿藤)建物と家財は別々に保険に加入する必要があります。建物の保険のみだと地震で家財が壊れても補償されないケースがあります。建物の保険に加入せずに家財の保険だけ加入することもできますが、建物、家財どちらも加入する人が多く、その方が補償も手厚くなります。
 
西村)保険料はどれくらいですか。地域や家の構造によっても異なるのでしょうか。
 
阿藤)地域、建物の構造、延床面積の3つの要素を鑑みて計算されるので一概には言えません。
 
西村)どのような地域なら高くなるのでしょうか。
 
阿藤)今後5~10年で地震のリスクが高い地域。木造住宅より鉄筋コンクリートの住宅の方が高くなります。建物の値段が高い場合は、保険料も高くなります。一番安いのは、地震のリスクがない地域の小さい木造の家です。
 
西村)賃貸か持ち家かによっても変わりますか。
 
阿藤)賃貸は、家財の保険のみ加入できます。建物の保険は大家さんが加入しなければなりません。
 
西村)その場合、保険料は少し安くなるのでしょうか。
 
阿藤)家財の保険だけなので、建物と家財両方に加入している人と比較すると多少安くなります。
 
西村)家財の保険だけならいくらくらいですか。
 
阿藤)賃貸で火災・地震保険に加入すると2年間で約2万円。2年間の地震保険(家財)だけなら約4000~5000円です。
 
西村)持ち家の場合は、例えば、大阪府の木造一戸建てなら、建物と家財の両方の保険に加入するといくらくらいですか。
 
阿藤)木造住宅でも地震保険に何年加入するかでも異なります。1年だけなら約4~5万円です。
 
西村)この保険料をかけたとして、受け取れる額の上限はいくらぐらいですか。
 
阿藤)火災保険が上限2000万円で、地震保険が1000万円ぐらい。査定によって全損になった場合、1000万円を受け取ることができます。2018年の大阪北部地震のときの保険料を受け取った人の平均は40~50万円。一部損壊で50万円を受け取った人が一番多かったです。
 
西村)鑑定は、どんなところをチェックするのですか。
 
阿藤)建物の構造によって異なりますが、一般的に多い木造住宅でお話すると、基礎、外壁のヒビが大きい要素になります。建物全体を100%としたときに、3%以上損傷していたら一部損壊で、掛け金の約5%である40~50万円が受け取れます。
 
西村)鑑定をお願いする前に何か準備しておくことはありますか。
 
阿藤)自分で家の周りをきちんと確認して、ヒビがある場所などを伝えることが大事です。
 
西村)写真を撮っておくのも良いですね。
 
阿藤)思い出しにくい場合は、写真を撮っても良いと思いますが、写真の提出を求められることはありません。きちんと伝えられるようにしておくことが大事です。一番良くないのは、家の中で待っているなど、鑑定人にまかせきりになること。手間ですが、自分も一緒に確認して、「ここもヒビがありますね」などと伝えることが非常に重要です。
 
西村)大阪北部地震、東日本大震災など大きな地震の直後は依頼が殺到して、鑑定人が来るタイミングが遅くなることもありますか。
 
阿藤)すぐに来てくれますが1軒につき、3~5分で帰ってしまう場合が多いです。
 
西村)たくさん依頼が来るからですね。30分ぐらいかけて道具を使って調べるのかと思っていました。
 
阿藤)本来は1時間ぐらいかけてきちんと見なければなりませんが、直後は依頼数が多く、どうしても簡易的になります。そんなときにこそ見落としや漏れが起きやすいのです。
 
西村)でも再鑑定はなかなか言いにくいですよね。
 
阿藤)ある鑑定会社の鑑定人に支払いできないと言われ、別の鑑定人に再鑑定してもらったら支払いますと言われたケースも。1回目の鑑定結果は何だったのだろう思いますが、こういうことが平気で起きてしまうので、再鑑定はお願いした方が良いです。
 
西村)資格をとるなど鑑定人になるのは、大変なイメージがあります。
 
阿藤)損害登録鑑定人という資格には実技試験がありません。ペーパーテストだけです。
 
西村)鑑定人によって差も生まれそうですね。
 
阿藤)鑑定人の経験値によって異なります。ペーパーテストは、工業高校の電気や機械のテキストを丸暗記して100点中60点取れれば合格。専門的な実技はありません。
 
西村)今までの大きな災害で再鑑定によって鑑定結果が変わった例はありますか。
 
阿藤)東日本大震災のときは、70万から700万円になった例もあります。これは4回の再鑑定で認められました。
 
西村)同じ会社に再鑑定をお願いしたのですか。
 
阿藤)毎回異なる会社にお願いしています。
 
西村)再鑑定をお願いするときのポイントを教えてください。
 
阿藤)保険会社に再鑑定をお願いした場合、1回目の鑑定人が来ます。その場合、1回目の判断が間違っていることは認めづらいので、同じ判定をされることになってしまうのです。
 
西村)それはなんだかモヤモヤしますね。
 
阿藤)必ず、「別の鑑定会社の別の担当者でお願いします」と伝えてください。
 
西村)再鑑定のときも自分も一緒に確認して、納得がいかない点はアピールした方が良いですか。
 
阿藤)はい。契約者の声をしっかり伝えることは重要です。
 
西村)納得がいかなかったら更にお願いしても良いのでしょうか。
 
阿藤)無制限にお願いする人はあまりいませんが、納得いくまでお願いしてください。再鑑定の件数の制限はありません。
 
西村)地震保険に加入しておいたら安心ですよね。いろいろな備えを平時から心がけていきましょう。
きょうは、地震保険の落とし穴について、地震保険調査事務所 主席相談員 阿藤博祐さんにお話を伺いました。