第1230回「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」
電話:認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
避難生活改善に関する専門委員会 浦野愛さん

千葉)新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、避難所を開設することになったらどんなことに注意すればいいのかということを、この番組でずっと伝えてきましたけれども、その参考になる冊子が作られました。
亘)「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」といって、カラーのかわいいイラストがたくさん書かれているような、とても見やすい冊子です。
インターネット上にアップされていますので、みなさん自由にダウンロードできます。
 
「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」
http://jvoad.jp/wp-content/uploads/2020/05/acaeac91791746611926b34af7d61c4d.pdf
 
千葉)この冊子を編集したのは、「認定 NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」の「避難生活改善に関する専門委員会」です。
メンバーの浦野愛さんにお話を聞きます。よろしくお願いします。
 
浦野)よろしくお願いします
 
千葉)この冊子は、どんな思いから生まれたものなんですか。
 
浦野)私たちの専門委員会は、これまで過去の災害で、いろんな被災地の避難所の運営やサポートに関わってきたメンバーなんですね。
ただでさえ災害起こった避難所って大変な状況になるのに、ここで新型コロナウイルスの影響が重なった時に、本当に一人一人の大事な命が守れるのかどうかというのが不安になりました。少しでも対策のポイントを知っておくことで予防できる部分がいくつかあるので、それを確実に知っていれば誰でもできるっていうような視点に立って、そういった情報を多くのみなさんと共有したいと思って、このサポートブックを作りました。

 
千葉)外からボランティアの方がすぐ駆けつけるっていうようなことは、出来にくい状況ですもんね。
 
浦野)そうですね。
いつもだったら全国からすごいたくさんのボランティアさんも来てくれますし、お医者さんや、保健師さん、看護師さんとか、そういった人たちも、派遣チームっていうのを特別にしつらえて、避難所に支援に入るっていうようなことが当たり前なんですが、今、病院もてんやわんやで、そういう専門職の人たちの確保というのも相当難しくなると思います。
今までの災害のように多くの支援者が被災地に行くっていうことが難しくなるので、より一層そこの地域の住民の方や行政の方や、ボランティアの方々が、協力しないと乗り切れないという状況になるかと思います。


亘)地元で頑張るしかないということですね。
 
浦野)そうですね。
本当に、ひとりひとりができることを積極的にやっていただかないと、避難所の運営というのも立ち行かなくなるということです。

 
千葉)特にどんな方々に読んでもらいたいと思って編集されたんですか。
 
浦野)避難所を設置するのは市町村になるので、その職員の方にはまず見ていただきたい。
とはいえ、たくさんの場所に避難所ができてしまった場合、職員も足りなくなると思います。
そうなると、そこの地域の中心人物となり得る自治会の役員の方だとか民生委員の方だとか、あと日頃から地域でよく活動されている、そういった方々にも読んでいただきたい。さらに避難する可能性のある人たち、一般市民の皆さんにも見ていただきたいです。ひとつでもできることを探していただいてやってもらえれば、クリアできる部分っていうのもあると思いますので、そういう人たちに手にとっていただきたいなと思います。

 
千葉)読ませていただくと、いろんなことが具体的に書いてあって、非常に参考になります。
最初の方で、「1人1人がどこにいても必ず守ること」ということで、3つ箇条書きされています。
1つ目が「3密=密閉・密集・密接を避けましょう」
2つ目が「汚れた手で無意識に目・鼻・口を触らないようにしましょう」
そして3つ目が、「こまめに手洗い、アルコール消毒をしましょう」
3つ目のところには、「断水または石鹸やアルコール消毒液がない場合は、その時あるものでできるだけのことを行う」と書かれているんですが、これは具体的にどうすればいいのでしょう。
 
浦野)感染を防ぐには、やはり手洗いはすごく重要な作業です。
基本は流水で、石鹸で手を洗って、ちゃんとペーパータオルとかで乾燥させて、アルコール消毒をするのが完璧な手洗いのやり方なんですね。
とはいえ、大きな災害が起こると、水が止まってしまう可能性がとても高いですよね。
しかも、いろいろな物が不足してくるということを考えた時に、その中でどうやって手の衛生を保てばいいのかということなんですが、この全てが揃ってなかったとしても、どれか一個でも二個でもいいから、ある物でとにかくこの作業を継続していくという考え方なんです。
それでも、石鹸もない、水も出ない、手を拭くものもない、アルコール消毒も確保できないっていうことがあるかもしれないですよね。
例えば、飲料水なんかは結構、備蓄品としてよくあると思うので、そのペットボトルの水をティッシュか何かに含ませて、それで手を拭く。汚れをこそぎ落とすような気持ちで拭くっていう、これだけでも、やらないよりは効果があるということなんですね。
あるいは、そういった物もない場合は、口の中に入れるもの、食べ物とかは手で触らないで済むように、例えば包装袋がかかっていたら、その包装袋の上から手で持って、口に入れる部分は手で絶対に触れない。
あとは、ラップなどに包んで食べるとか、そういうような工夫をしていただければ、感染リスクは少しでも抑えることができると言われています。

 
千葉)石鹸とか水が足りないとき、「何もできないからやらなくていいや」じゃなくて、少しでもできることを工夫してやらないといけないということですね。

浦野)そうです。
でも、手洗いってやっぱりすごく感染予防には重要なんだっていうところだけは、頭に入れておいていただけたら、あるものでなんとか工夫してやっていただける方が増えるんじゃないかなと思うので。


千葉)それから、サポートブックをめくっていきますと、「食器や洗面用具、タオルを他の人と共有しないようにしましょう」というポイントも書かれています。
避難所の状態では物が十分じゃないので、避難者がお互いに助け合って、物の貸し借りをすることも多いんじゃないかなと思いますが、どんな場面で特に注意すればいいですか。
 
浦野)やはり、食事の場面かなと思います。よく被災地で炊き出しってされますよね。
炊き出しの場合は、大鍋からよそってみなさんに提供するっていう形になると思うんですけれども、お皿が足りないとかいろんな状況があると、大きなお皿に入れて、「そこの5人ぐらいで食べてね」とかいうこともあると思うんですね。
だけど、それをやってしまうと、自分の口に入れた箸でまた料理をつまむような状態になって、そこから感染してしまうので、できれば一人一人、器を変えてよそって、それを提供するというような形でやっていただきたいなと思います。
あとは、くしや髭剃り、タオル。
結局は、ウイルスってどこから入ってくるかというと、粘膜からなんですよね。
目とか鼻とか口とかそういったところにあるものなので、人が使ったものがそこに触れてしまうとウイルスが体の中に入りやすい環境を作ってしまうということになるので、個人で使うものはその人だけが使うということで、多少不便かもしれないですけれども、基本的に使い回しはしないということが原則になります。

 
亘)あとは携帯電話、スマホですよね。
やはり「電源が少ないからちょっと貸して」とか、そういうことはあるかなと思うんですが。
 
浦野)そこらへんはやむを得ないと思うので、その場合は例えばですが、チャックがついている密閉式の袋ありますよね、ジップロックみたいな。
そういった袋に携帯電話を入れて、その上から操作できます。
操作した後に、次亜塩素酸等で拭き取って消毒をするというやり方もあります。
「なんで直接、携帯電話を拭いちゃダメなの」っていう疑問も湧くと思うんですけど、消毒液によってはサビの原因になったり、差し込み口とかちょっと開いている隙間から液体が入ってしまって、故障の原因になったりということが心配されるので、なるべく直接拭くというのは避けた方がいいと言われています。

 
千葉)スマホは今、必需品ですから、こういうことも考えなきゃいけないんですね。
 
浦野)多少不便なんですけど、慣れてくると...みなさんもそうだと思います、手洗いとかマスクつけるっていうのも最初は煩わしかったと思うのですが、今、当たり前になってなんとかやれていると思うので、ちょっと気持ちをそこは切り替えていただきたいなと思います。
 
千葉)さらにこの冊子をめくっていくと、避難所を設置するにあたって、感染防止のためのゾーン分けが必要と書かれています。
いろんな人が来る避難所で、どのようにゾーンを分けるんですか。
 
浦野)何よりも一番重要なのは、少人数、個別空間をいかに確保するかっていう考え方です。
これができることによって、感染の拡大を防止することができるようになるんですね。
なので、少人数、個別空間を避難所として開設された避難施設の中で、どうやって作っていくのかというのが基本の考え方になります。

 
亘)部屋を分けるということですか。
 
浦野)そうです。
ではどのように部屋を分けるかということですが、専門家の先生からもアドバイスをいただいた結果、まず「感染者」の人、あとは感染しているという診断は受けていないけど「症状のある人」、例えば熱があるとかだるいとか、あとは感染者とか症状のある人の「濃厚接触者」、おもに家族になると思うんですけどもそういった人。そして、あとは「症状のない人」。
大体これぐらいの区分けが最低限必要かなと考えています。
そして、症状のない人の中で、例えば介護が必要だとか、妊娠をしているとか、乳幼児がいるとか、そういった人たちは、より周囲からのサポートが必要なので、専用の部屋を用意する必要があるかなと思います。

 
亘)避難所というと、体育館などの大きなスペースというイメージがありますが、部屋を作っていくことができるんでしょうか。
 
浦野)そうですね。
小中学校が、だいたい、みなさんおなじみの避難所だと思います。
小中学校のエリア内に建物が複数あれば、もう建物ごと、この建物は感染者用、この建物は症状のある人用というふうに分けるという方法もあります。
だけど、施設によっては、ひとつの建物に全部の機能が入っているところもあると思うので、その場合はフロア、階段で分けていくという考え方もあります。
与えられた避難施設の中で、いくつかのタイプの人たちを、いかに交わらないように生活してもらえるような環境を作っていくかというのが、大きなポイントになるかなと思います。

 
千葉)熱があるなどの症状がある人は、避難所にも入ってもらわないで別のところに移動してもらう方が安全なような気もするんですが...。
 
浦野)基本の考え方はそうなんです。
熱があったり、「感染していると言われているんだけれども、軽症者ということで自宅待機している」という人は、今もいると思うんですよね。
そういう人も、家が安全だったらそのまま家に留まることができると思うんですが、例えば津波が来るとか、近くに火災が迫ってきているとか、浸水して住めないとか、家が倒壊して住めないとか、いろいろな事情が出てくると思うので、そうなると、避難所に行きたくなくても行かざるを得なくなると思います。
通常だったら、行政の人や医療チームが来て、病院まで搬送するということもやってくれると思うのですが、大規模災害になったら道路は壊れて、緊急車両も出払って、専門職の人も足りないという状況で、速やかに医療機関にというのはかなり難しいと思うんですね。
となると、避難施設で一時的にでも受け入れる必要がきっと出てくると思うので、その時に困らないようにするためのものとして、このレイアウト図を掲載した経緯があります。

 
亘)受け入れを拒否するっていうのではなくて、一旦は受け入れるという考え方ですか。
 
浦野)はい。
「感染者なんてうちはとても無理だよ、向こうに行ってくれ」ではなくて、仮に準備が整わなくって受け入れが無理だったとしても、その人が次に行ける場所を一緒に探すとか、最終的にその人がつながる先っていうのをきちんと確認した上で、対処を考えていただきたいということです。
ある地域では、実際に「もう、うちは入れません」ってシャットアウトしてしまって、された側の人が非常に傷ついたと。
差別とか、排除の対象になったという感覚を受けたという話も聞いているので。
なるべく、そういうことが起こらないようにしておきたいです。

 
千葉)最初から拒否するっていうのは、絶対ダメということですね。
 
浦野)そうですね。
今、自治体によっては、ホテルとか旅館を借りて、そこに症状のある人や感染者たちを早く搬送できるように準備をすでに進めているところもあるので、そこは、行政にきちんと確認をしておくと、次のつなぎ先も見つけやすくなるのではないかなと思います。

 
亘)ゾーンに分けて、それぞれのゾーンごとに、あまり人が行き来しないようにするというか、感染の恐れのある人、あるいは症状のある人と一般の避難者が接触しないようにする必要はあるんでしょうね。
 
浦野)そうですね
ポイントとしては、その人たちがお互いに、階段とか廊下ですれ違わないようにすることですね。
感染者用の階段、症状のある人用の階段という風に、明確に分けておくというのがひとつ。
あとは、トイレや手洗い場も、別々で使えるように準備をしないといけないということになります。

 
千葉)避難所のレイアウトも、そういった形で考えないといけないということですね。

浦野)そうですね。
動線と言うんですけれども、それもポイントを押さえれば、ある程度そのような作りを考えていくことができるので、最初のヒントになるようにと思って、サポートブックにもレイアウトの事例を掲載しました。

 
千葉)あともうひとつ、すごく気になるのが食事なんですが、食事を配るときに注意することはどんなことがあるのですか。
 
浦野)だいたい食事を配る時って、一か所に人がバーッと集まってきて、長蛇の列ができて、みなさんが入れ替わり立ち代わりで必要な食事を持っていくっていうのが一般的な風景なんですけれども、そうすると密になっていますよね。
感染のリスクが高くなってしまうので、できれば部屋ごととか、あるいは体育館みたいなスペースだったら大広間をブロック分けして、そのブロックごとにできた食事を決められた人が届けるみたいな形で料理を運ぶというようにできると、密は回避できるかなと思います。
それが難しければ、一か所に配布場所を作って、そこに時間差で来てもらって密を防ぐ。
今、スーパーとかがやっていますよね、そういう対処を。
それと同じような考えで、配布するというやり方はどうかなというふうに思います。

 
亘)なるほど。
食器なんかはどうですかね、あまり一緒に使ったりはしない方がいいと言いますが。
 
浦野)そうですね。
基本は、共用はダメという考え方なので、できるだけ使い捨ての器で対処すると。
ただ、それも災害時なので、そんなに頻繁に手に入らないかもしれない。
お皿にラップを敷くと、ラップだけ替えれば、またそのお皿が使えるよ、とかありますよね。
あれを実践していただくと良いかなと思います。
だから、ご自分で自分の非常袋に、容器やラップ、あとはポリ袋ありますよね。
ポリ袋なんかも、お皿にかぶせて使えば、使い捨ての器の代わりにできるので、自分で用意できる分は持っていった方がいいと思いますね。

 
千葉)あらかじめ準備しておいて、避難所に自分で持っていくんですね。
 
浦野)はい。
向こうに行ったら誰かが何かしてくれるだろうっていう考え方はちょっと捨てていただいて、その時に自分が困らないようにするために、今の話を聞いて、あるいはサポートブック見て、必要だなと思うものは、やはり持っていた方がいいと思います。

 
千葉)このサポートブックには、他にも洗濯物の扱いやゴミの処理など、いろんなことが書かれています。このサポートブックを読む人に、どんなことを伝えたいですか。
 
浦野)初めてのことなので、とても不安に感じていらっしゃる方も多いと思います。
サポートブックを読むと、感染の専門家じゃない医療従事者ではないけれど、ポイントを知っていればできることというのも意外と多いことがわかっていただけると思います。
必要以上に怖がらずに、このサポートブックを見ながら、「やっぱりこのやり方が効果があるんだな」とか「これを避難所でスムーズにやるためには、この道具はやっぱり自分で用意しておいた方がいいな」っていうことを考えるための判断材料にしていただけるといいなと思っているんですね。
そして、それを理解したら、今度は周囲の人にそれを伝えてあげたり、実際に避難所が開設されてみなさんが避難された時には、知らない人たちにそれを教えてあげたり。
みなさんが率先してそういう対処をしていただくことで、なんとかコロナ禍においても、避難所で命を守るっていうことを進めていけるんじゃないかなと思います。

 
千葉)「何も知らない」「何もできない」っていうふうに思うんではなくて、このサポートブックを読めば、こうした方がいいよってことがしっかりわかるので...
 
浦野)そうですね。豆知識、アイデアの引き出しが増えるという感覚かなと思います。
 
亘)できることをやるっていう感じですよね、ある物で。
 
浦野)そうです。みんながそうなので。
国だって、「100%これで大丈夫です」なんて情報は、今、出せない状態ですしね。
ですから、ちょっとでも「これ役に立ちそうだな」っていうものがあれば、みなさんが覚えていただいて、アイデアの引き出しをいっぱい増やして、いざという時に応用して使えるような力をつけていただけるといいなと思います。