第1307回「赤ちゃんと子どもの防災・避難」
オンライン:日本ファーストエイドソサェティ代表 岡野谷純さん

西村)災害が起こったとき、特に配慮が必要なのが、赤ちゃんや小さい子どもです。自分で自分の身を守ることが難しく、抵抗力も弱いため、避難先での病気なども心配です。ケガをした場合の対応や、避難所ではどんな支援が必要なのでしょうか。
きょうは、子どもの防災・救急に詳しい、日本ファーストエイドソサェティ代表 岡野谷 純さんにお話を伺います。

岡野谷)よろしくお願いします。

西村)日本ファーストエイドソサェティとして、子どもの救急を始めたきっかけについておしえてください。

岡野谷)私は、1990年頃に結婚をして、その頃、周りの友達も結婚・出産をしました。大人の救急法は仲間と一緒に勉強していたのですが、赤ちゃんや子どもの救急法も学びたいという話になって、消防署に行ったんです。そうしたら、大人の大きな人形が出てきて、隊員の人が「これを赤ちゃんだと思ってやってください」と...。

西村)赤ちゃんじゃないですよね(笑)。

岡野谷)そうなんです。1990年代は、まだまだ子どもの救急法という概念が日本にはなかったんです。心肺蘇生法は成人が突然倒れたらするものという感覚でした。

西村)そうだったのですね。

岡野谷)でも私たちは、子どもの救急法があることを知っていたんです。なぜかというと、私たちが住んでいた東京都・国立市の近くには米軍基地があって、そこのラジオで「子どもの救急や心肺蘇生法を教えます」という内容が放送されていました。でも日本には、子どもの救急法の概念すらない。そこで、日本に一番近いアメリカであるグアムに遊びに行くついでに、講習を受けに行ったんです。英語でしたが、大人の救急法は知っていたので、子どもとの違いをおしえてもらいました。帰国後、周りの母親や保育の先生にその話をすると、やりたい!と言われて。人形を2体買ってきたので、みんなでやろうと勉強会を始めたのが最初です。応急手当を学び広める市民の会としてスタートしました。

西村)子どもや赤ちゃんへの防災・救急対応は、大人とは違うと思います。例えば、今地震が起こって目の前に赤ちゃんがいるとしたら、どのように守ったら良いのでしょうか。

岡野谷)身を守るものがある場合は、赤ちゃんを普段のように抱いて机の下などに入ってください。身を守るものがない場所では、正座のように座って、少し足を広げて、赤ちゃんの顔を抱きしめて自分が覆いかぶさってください。

西村)ということは、赤ちゃんの顔は下に向いているのですね。ダンゴムシのポーズですね。

岡野谷)そうです。ダンゴムシのポーズで、少し足を広げてあげると呼吸がしやすいです。自分の身も守らなければならないので、身を守るものがなにもないところは危ないのですが、公園など倒れてくるものがあまりない場所ならとりあえずは安全。何か硬いものの下に入ることが一番良いのですが。

西村)とっさのときにどうしたら良いかわからないので、身を守るポーズを日頃から練習しておこうと思いました。地震が収まって避難するとき、ケガをして手当てが必要なときに、子どもに対して注意するポイントはありますか。

岡野谷)避難と救急は別なのですが、まずはケガをさせない予防を心がけてほしいです。子どもは大人のミニチュア版ではありません。行動も体格も違う。子どものケアについてきちんと知っておいてほしいのです。

西村)どういうところが違うのでしょう。

岡野谷)赤ちゃんは3頭身くらいしかありません。5才の子どもになると4~5頭身くらいあるのですが、保育園や幼稚園に通うような子どもや2~3歳児は大人とはバランスが違います。頭は大きいけど体は発達していないからです。歩いていて頭が重たいとどうなりますか。

西村)下の子は、日頃からよくこけています!

岡野谷)頭が大きいから、不安定ですぐこけてしまうんです。地震のときは瓦礫もいっぱい。こけたりつまずいたりしないように、1人で歩かせないのはもちろんですが、なぜ倒れやすいのかを知っておいてほしいです。大きくなったら、手を繋いで早く移動したいと思うと思いますが、子どもはいきなり変なとこにぶつかります。ママが見えている視野に比べて、子どもが見えている視野はすごく狭いからです。皮膚が薄くて火傷もしやすいし、寒い暑いも極端に感じやすい。そんなことも知っておいてあげましょう。

西村)だからプールに入ったときにすぐに唇が紫色になるのですね。可能なら抱っこで移動するのが一番良いと思うのですが、我が家のように子どもが2人いる場合はどうしたら良いのでしょうか。下の子は抱っこ紐で抱っこをして、上の子は手を繋いで移動するのが良いのでしょうか。ベビーカーは使用しない方が良いのかな...。

岡野谷)道が平坦ならベビーカーでも良いと思います。瓦礫があったり、物が倒れていたりしたら動かせないので、状況にもよりますね。ベビーカーで避難すれば良いかと思うのではなく、抱っこ紐が必要だと思うなら事前に用意しておくことが大切。

西村)普段使っていなくても、カバンの中にたたむタイプのコンパクトな抱っこ紐を入れておいても良いかもしれませんね。
子どもというのは、だいたい何歳ぐらいまでと考えておいたら良いですか。

岡野谷)子どもは、乳児と幼児と表現します。乳児は1歳まで。小学校1~2年生ぐらいまで発達したら、救急法の概念としては大人と考えて良いです。心肺蘇生法をするとき、小学校の高学年ぐらいなら普通に大人と同じような力を加えてあげても構いません。私たちが災害時にケアする子どもたちは、小学校の中学年ぐらいまでを目安にしています。

西村)自分の状況をうまく言葉にできる子なら良いのですが、できない子どもたちもいるのでしっかりと親や周りの大人が見守ってあげることが大事だと思いました。岡野谷さんは、被災した乳幼児とお母さんを避難所ではなく一時的に安全な場所へ移す「赤ちゃん一時避難プロジェクト」の共同代表も務めていらっしゃいます。具体的にどのような活動をしているのでしょうか。

岡野谷)東日本大震災の際に、避難所自体が津波にやられて。濡れたまま一生懸命逃げてきた人がたくさんいいました。そこに私たちは支援に行ったのですが、子どもたちも大変な状況にありました。毎日沐浴が必要な赤ちゃんが、津波で濡れたままの服をずっと着ていたり。

西村)濡れて、泥もついたままですよね。

岡野谷)乾いてガビガビのまま、着替えの服もないから体中に蕁麻疹ができて。手足もすごく冷たくなっていました。人間の体は、心臓と脳に少しでも温かい血液を送ろうとするので、手足が冷たくなるのです。

西村)それは結構、危険な状況なのですか。

岡野谷)もしかしたら明日死ぬかもしれない、という子どもたちがたくさんいたんです。この状態で避難所にいたら危険だということで、もっと暖かくて、安心できる場所に一時避難して、ライフラインが落ち着いたら戻ってもらおうと支援活動をスタートしました。

西村)一時避難所はどこへ行ったのですか。

岡野谷)たくさんの自治体が手を挙げてくれたのですが、私たちが選んだのは新潟県・湯沢町でした。

西村)温泉が有名ですよね。

岡野谷)温泉のあるホテルを借り上げてくれました。

西村)温泉につかるだけでもほっとしますよね。

岡野谷)お母さんお父さんもほっとするし、赤ちゃんの蕁麻疹も治ってツルツルに。回復力がすごいと思いました。

西村)ホテル避難を段取りしてくれるのですね。宿泊代はどうなるのでしょうか。

岡野谷)町が国に要請して、災害救助法が適用されると1人につき5000円の宿泊代が出ます。湯沢町は被災したことがあって、そのときの支援に感謝の気持ちがあったそう。湯沢町の町長さんがすぐにみなさんを受け入れますと言ってくれて。80%ぐらいのホテルや旅館が受け入れてくれました。湯沢町は独自に約2億の予算を立てて、約1000部屋用意したうちの100室ほどを使わせてくれました。

西村)ありがたいですね。助け合いの気持ちがうれしいですね。そこで一時避難をして、また避難所に戻ったのでしょうか。

岡野谷)安全な場所で子どもたちが安心できて、お父さんお母さんも今後のことをしっかり考えられる時間を取れることはすごく大切なこと。三陸地方の人たちは、ライフラインが復旧したら帰ろう、避難所でもいいから帰りたいという気持ちになってきます。その後入ってきた福島の方たちは、今でも家に帰れない人がたくさんいます。そのまま新潟県に移住した人も。「赤ちゃん一時避難プロジェクト」は、今もずっと続いているのです。

西村)10年経った今も続いているのですね。

岡野谷)西日本については10年ですが、その後、熊本地震やたくさんの水害もありましたよね。災害があれば、すぐにお手伝いできる体制を整えています。

西村)ずっとサポートし続けているのですね、いち母親としても本当に心強いなと思います。

岡野谷)きょう、この放送を聞いてくれた自治体や子どもを守る団体の人たちがいたら、ノウハウは全部おしえるので、ぜひ体制をつくっていただければうれしいです。そのような自治体や団体が出てきてくれたら、私たちもずっと続けられるわけではないので、本当にありがたいです。

西村)そのような支援の輪が広がっていくと良いですね。避難所は、乳幼児をもつ保護者から見たら課題がたくさんあります。岡野谷さんは、避難所の課題について今後どうしていくべきだと思いますか。

岡野谷)課題は今後も残り続けると思います。阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などたくさんの地震を経て、自治体も避難所運営をする市民も変わってきていると思いますが限界はあります。自助といって、自分たちでどこまでできるかを広げる必要がある。必要なものを自分たちで準備することが大切です。自分の子どもが食べられるものや好きなものは、親が一番よくわかっていますよね。それを3日分ではなく、5日分ぐらい少し余裕持って用意をしておいて、それをいつも持ち出せるようにする。寝室の耐震補強などもすべて事前にできること。防災と大きくとらえずに備災。災害に備えるのは自分たちです。備災をしっかりやって、家族が1週間生活できるように守って、長く続くのなら何が必要なのかを考える。「避難所に行ったらご飯をもらえる」と考えるのではなく、避難所に行っても、まずは自分たちの用意したものをちゃんと使っていく。そんなふうに考えると良いと思います。

西村)私たちも、周りのママたちと一緒に何が必要なのかを一緒に考えて、「備災」をしっかりしていきたいと思いました。
きょうは、子どもの防災・救急に詳しい、日本ファーストエイドソサェティ代表 岡野谷 純さんにお話を伺いました。