第1252回「和食はなぜ美味しい?
       ~地震と深い関係にある食材のひみつ」
ゲスト:神戸大学教授 高等研究院海共生(うみともいき)研究アライアンス長
    巽 好幸さん

西村)世界で起きる地震のうち、およそ1割が日本周辺で起きています。また日本は世界有数の火山国としても知られていますよね。災害と隣り合わせの日本列島ですが、同時にその恩恵も受けているんです。そのひとつが四季折々の食材です。
今日はそんな日本の美味しいものと地質との関係を解く「美食地質学」の提唱者でマグマ学者の、
神戸大学教授 高等研究院海共生(うみともいき)研究アライアンス長・巽好幸さんにお越しいただきました。

巽)よろしくお願いします。

西村)「美食地質学」というのは、どんなものなんでしょうか。

巽)日本は世界でも美味しいものが多い国だと思うのですが、食材がなぜ美味しいのかということに興味あるわけです。料理の仕方も大事なんですけど、そのような素材は自然の恵みの中で生まれたはずですよね。それが私の専門分野である地質や日本列島の成り立ちと、どう結びつくのかを考えるのがこの「美食地質学」です。

西村)マグマ学者の巽さんならではの観点ですよね。関西で和食といえば、瀬戸内海を思い浮かべます。瀬戸内海でとれる海の幸も、もしかして地震と関係しているんでしょうか。

巽)非常に関係しています。例えばもうすぐ紅葉のシーズンがくると、紅葉鯛が非常に美味しい時期になります。鯛は、冬にかけて脂肪をためるので、春の桜鯛よりは脂身があり、甘みが強くてしゃぶしゃぶにして食べると美味しいんです。

西村・新川ディレクター)美味しそう!

巽)鯛は、明石海峡の西側の「鹿の瀬」というところで非常に良いものがとれるんです。明石海峡は、川のように潮の流れが速い場所で、大阪湾から播磨灘へと海流がおきる時に砂を巻き上げるんです。その砂が溜まって、少し浅瀬になっているところが「鹿の瀬」と呼ばれているところです。砂地なので、酸素が中まで入って少し浅くなっているので日光がよく届く。海藻類がよく育つんです。そのような環境ですとプランクトンがいっぱいいて、それを食べるイカや蟹など甲殻類がいて、またそれを食べるいかなごがいて、いかなごを食べる鯛や大型の魚が育つわけです。「海の穀倉地帯」と言われるくらいの世界でも指折りの、非常に豊かな漁場なんですよ。そこで明石鯛は育っています。

新川)餌がすごく豊富なんですね。

巽)明石海峡は海流が速いので、明石鯛は筋肉質なんです。筋肉を作っている 「ATP」 という成分があるんですが、それが鯛が死んだ後で旨味成分に変わっていく。活け締めや神経締めで、悶絶死しないよう命を絶つことで「ATP」 が全てイノシン酸という旨味成分に変わっていきます。よい餌で育った筋肉質な鯛は美味しいはずですよね。

新川)なんだか料理の話がメインになりそうですね(笑)。

巽)海流が速いのはなぜかというと、明石海峡は海の幅が狭いからなんです。

西村)淡路島と明石の間のところですよね。

巽)広いとこから細いところへ水が流れると、流れが早くなります。明石海峡のところは狭くなって、大阪湾は広くなっていますよね。西の播磨灘は広くなっていて、その先の備後瀬戸という岡山の瀬戸大橋のあたりや、しまなみ海道はまた狭くなっています。そんな風に、瀬戸内海は陸が迫っている海峡や瀬戸と呼ばれるところと広くなっている播磨灘など灘と呼ばれるところが繰り返しているんです。

新川)リスナーの皆さん地図を思い浮かべてみてください。

巽)狭くなっているということは、どういうことかというと、淡路島あたりがよく分かると思うんですけど、陸が高くなっているからです。

新川)島があるということは陸が盛り上がっているということなんですね。

西村)凸凹(デコボコ)の凸(デコ)ということですね。

巽)隆起しているところが海峡、瀬戸になっているわけです。反対に播磨灘などの広いところは逆に沈んでいるかから、海が広くなっているわけです。そのように瀬戸内海は凸と凹が繰り返しているというところが特徴なんです。

新川)実は規則的になっているんですね。

巽)海の中だけではないんです。大阪から少し東の方の地形を思い出してみてください。
大阪湾、大阪平野、上町台地とありますよね。もう少し東へ行くと河内平野があり、その向こうに生駒山地、超えると奈良盆地、大和山地、上野盆地、鈴鹿山脈があって...という風に、やっぱり陸の上でも凸凹を繰り返しているんです。

西村)本当ですね。規則的になっているんですね!考えたこともなかったです。沈降と隆起、凸凹が繰り返して起きているのはなぜなんでしょうか。

巽)凸凹もなんですが方向も大事な要素です。淡路島って北東南西方向に伸びていますよね。これはなぜかということですが、ここからが地震に関係してくるんです。みなさんフィリピン海プレートってご存知ですよね?

西村)よく聞きますね。フィリピン海プレート。

巽)南海トラフ巨大地震を起こす元凶になっているプレートですね。南海トラフから北西方向に年間数センチぐらい沈んでいるプレートです。

新川)西日本の南側にあるプレートですね。

巽)そのフィリピン海プレートが北西方向に、北から見ると左に振っているように沈み込んでいるんですね。この方向に沈み込み出したのが今から300万年前のことなんです。

西村)300万年前...、結構昔なんですね。

巽)皆さんそう思われるんですけど、地球の歴史は46億年ですから300万年というとつい最近。フィリピン海プレートは、それまで西日本に対してまっすぐ真北に沈み込んでいたんです。それが300万年前に斜めに沈み込みだした。原因は、もう一つ日本に沈み込んいでる太平洋プレートというのがありまして。

新川)日本列島の東側にあるプレートですね。

巽)そうです。東日本大震災を起こしたプレートです。その太平洋プレートにフィリピン海プレートが押し負けてしまったんです。フィリピン海プレートは小さいので押し負けて西の方へ振ったんです。それが300万年前。それまでまっすぐ沈み込んでいたのが少し左へふり出した。そうするとそのフィリピン海プレートの前にある四国などの左側を引きずるようになったんです。
そこで、中央構造線ってご存知ですかね。

新川)中央構造線は、日本で一番大きな断層帯といわれていますね。

巽)この辺でしたら紀伊半島の紀の川が流れているところや、四国の吉野川が流れているところ。そこから九州まで断層があるんです。

新川)九州と紀伊半島、東西に結んでいるような格好ですね。

巽)中央構造線は、航空写真や衛星写真でも綺麗に見えるぐらいの大きな断層帯です。これは古傷のようなものだったんですけど、300万年前に沈み込む方向が変わると、そこより南の土地が西向きに引きずられてしまったんですよね。そうすると何が起きるかというと、下は動くわけですから、その北側にある瀬戸内海の大きなユーラシアプレートは、アジア大陸を作っていますから動かないので、引っ張られた近いところだけシワが寄るんです。
ちょっと頭の中で考えてみてください。例えば布を左の方へ引っ張ったら斜めにシワが寄りますね?高いところと低いところができます。

西村)今、袖でやってみています。

巽)まさにそれが瀬戸内海の凸凹なんです。地面は布のようにたわみませんから、上がるところと下がるところがある。その境界は必ず断層になるんです。

西村)境界が断層だったんですね。わかりやすい。

巽)阪神淡路大震災を起こした断層系は、淡路島の東側ですよね。これも大阪湾と淡路島、もしくは淡路島と播磨灘の境界に走っている断層なんです。これで地震の話に結びつくんですが、鯛を育んでいる潮流というのは、そのようなプレートの運動でできた断層系が動いてできた地形によるもので、当然断層が動く時は、地震が発生するということになります。

新川)凸と凹の境目が断層っていうことは、あちこちに断層があるということですよね。

巽)近くにある上町台地の両側も綺麗に断層が走っていますし、生駒山地と河内平野の間にも生駒断層が走っています。それも同じように凸凹のシワのように作られている断層系なんです。

西村)まだまだまだ知られていない断層帯もあるということですね。

巽)よく予測地図なんかで、活断層の位置が書いてありますよね。あれは過去1万年ぐらいの間に動いたことが分かっているものを書いてあるだけ。わかっていない断層もいっぱいあるんです。

西村)わかっている断層だけでも、近畿地方は結構多いですよね。

巽)近畿地方の方って大阪とか奈良とか京都とか古い町があるので、地震はあんまりないと思っておられますが、日本でいちばん断層が多いところと言っても過言ではないですね。

西村)近畿地方は地震が起きるリスクが非常に高いということなんですね。私たちは地震に対してどんな対応をしていったらいいのでしょう。

巽)地震がおきる事を完全に予測することはできないんです。今後30年間に何%ぐらいで起こるといういい方はある程度はできますが。地震がおこった時に1週間生き延びることができのるか?ということを常に考えておく。いつでも行動できるようにしておかないといけないと思います。

西村)常日頃からの備えが大事ということですね。巽さんは予測の研究もされているのですか。

巽)地震の予測っていうのはなかなか難しいのですが。大阪湾にも何本も断層が走っているはずで、これまでの調査では大阪湾断層というのは見つかっているんです。ほかにもあるに違いないということで調査をしています。
ですが、陸上の断層を調べるのはちょっと大変なんですよ。病院で言うとCTスキャンのような原理で調べるんですが、CTスキャン はX線や放射線を使いますが、我々の場合は地震波を使うことが多いんです。振動や音波などですね。でも陸上で発破をかけるわけにいきませんよね。ですので、これ以上、陸上の活断層が明らかになっていくことはなかなかないと思うんですけど、海の中なら音波を出すようなものを船で引っ張って行って、調べることができるんです。

新川)人工的に地震波をつくるということですね。

巽)人工的な振動を与えることで、 CTスキャンを今、大阪湾でまさにかけているところなんです。

西村)去年番組に出演して頂いた時に、お話しいただいたクラウドファンディングで、大阪湾の活断層の調査を行うという話が進んでいるんですね!

巽)おかげさまで皆さんからの温かいご支援をいただき、クラウドファンディングが成功しました。今年、産業総合研究所というところと一緒に2回実施しました。来年もやると思います。今後2年間ぐらいで大阪湾の下にある活断層を調べていきます。いつどれぐらい動いたかということが分かれば、どれぐらいの津波が起きたかということも分かります。
そういうことを皆さんにお知らせしていこうと。何月何日に地震がおこるという事は分かりませんけど、こういう危険性がありますという予測を出すことはできるので、すごく大事なことだと思います。

西村)私たちの今後の防災に繋がってくるということですね。

新川)クラウドファンディングなら、協力した人たちが関心を持って研究を見てくださいますね。

巽)皆さんに関心を持っていただくことが一番大事です。その関心から始まって、どういうふうに備えようと考えていただければ。

西村)皆さんの思いが繋がっているというのが、うれしいですね。


<エンディング>
西村)今日は神戸大学教授の巽好幸さんをお迎えして、「和食はなぜ美味しい?~地震と深い関係にある食材のひみつ」というテーマで、お届けしてきましたが皆さんいかがでしたでしょうか。まさか和食からこういった地震の話に繋がるとは。

新川)瀬戸内海がどうやってできたかなんて、あまり考えたことなかったことなかったですよね。

西村)もっとこの話が聞きたいと思った皆さん。巽さんは、「和食はなぜ美味しい 日本列島の贈り物」という本を出版されているんです。こちらに深く書かれております。

新川)今日お伝えした明石鯛の話も載っています。私がびっくりしたのは京都の筍が、瀬戸内海に関係しているというお話。鱧とか出汁も関係しているとか。こんなにも地質と食材が深い関わりがあるんだと驚きました。

巽)日本列島ってすごく食材が多様ですよね。景色も地形も多様ですし。まさにそれが関係しているということですね。

西村)マグマ学者の巽さんと姪御さんが12ヵ月食べ歩きをされて、その会話のようすから地震の話に繋がっていきます。私は、○○プレートとか難しそうやなーって思ったりするんですけど、和食という切り口なので、美味しそう!食べたいな!と思いながら勉強できるのが楽しいなと思いました。

新川)食べる時にもう一度思い出して、楽しめそうですしね。

巽)美味しいものをいただいている時は、幸せな気分になりますよね。そんな時に今日の話をちょっと思い出していただけたら。

西村)是非、皆さんにも読んでいただきたいなと思います。来週も巽さんにゲストでお越しいただきます。
今日の放送は、神戸大学教授の巽好幸さんと一緒にお送りしました。どうもありがとうございました。