第1357回「ペット防災」
オンライン:大下動物病院 院長 大下勲さん

西村)今回のテーマはペット防災です。頻繁に発生する台風や豪雨による水害。音や匂いに敏感なペットには、人間とは異なる対策が必要です。事前の防災対策や在宅避難の方法について、獣医師で防災士の資格も持つ大下動物病院 院長 大下勲さんにお話を伺います。
 
大下)よろしくお願いいたします。
 
西村)大下さんは大阪府獣医師会の大阪VMAT(ブイマット)の副隊長でもあります。VMATというのはどんな組織ですか。
 
大下)VMAT(獣医療支援チーム)は、2013年に福岡で最初に発足しました。次に2016年に群馬県で、2017年に大阪府でVMATが発足。トレーニングを受けた獣医師や動物病院に勤める動物看護師で結成されたチームです。災害時の避難所での巡回、怪我をしたペットの手当、緊急時には、近隣の動物病院への紹介、搬送の手助けなど、主に後方支援をする組織です。動物救護が目的と思われがちですが、一番の目的は飼い主さんの命を守ること。避難行動が遅れたり、避難を諦めたりする飼い主さんが多いので、飼い主さんを守るためにペットと一緒に避難できるように支援をしています。
 
西村)台風や豪雨が近づくとペットにはどのような影響が出るのですか。
 
大下)雨が降ってきたり、雷が鳴ったりするだけで影響を受ける犬や猫もいます。音恐怖症の犬もいます。犬や猫は全身が毛で覆われているので、人間以上に雷(静電気)に恐怖を覚えます。暗くなってきたり、音が変わったり、独特のオゾン臭がしたりすることで、災害に繋がる豪雨でなくてもパニックになります。飼っている犬や猫が環境の変化に対してどのような行動をとるのかをあらかじめ把握しておく必要があります。災害時は、飼い主さんもパニックになっているので、普段はおとなしい子でも変化が現れることがあります。避難所で「この子は普段は人に構わないから大丈夫」と他の人に接してしまうと、犬も普段と環境が違うので、噛みついてしまう事故が起こることも。
 
西村)ペットが雨などの変化に過剰に反応するようなら、どのように対策をしたら良いのでしょうか。
 
大下)慣らすことは難しいです。豪雨災害や台風はある程度予測できる災害。住んでいる場所が台風のルートに入るかは、天気予報であらかじめ知ることができるので、事前にキャリーの中や安心できる場所に入れて準備をしておくのも良いでしょう。
 
西村)犬小屋で暮らしている犬は、台風や豪雨のときにどのようことに気をつけたら良いですか。
 
大下)ある地域では外に繋がれた犬が水害で流された例もあります。東日本大震災のとき、避難所に入れなかった大きな犬は校庭で一時的に係留していたのですが、津波が来てしまって。飼い主さんが2階から自分の犬が流されるのを見たという悲惨な状況もあったんです。台風情報があれば、家の中に入れるなどの準備をしておく。普段は外に繋いでいる犬も家の中である程度暮らせるように練習をしておくことは大事ですね。
 
西村)災害時を考えて日頃から練習しておくことが大切ですね。ペットが災害時にパニックになって、脱走した場合はどうしたら良いのでしょう。
 
大下)猫はパニックになると網戸を破ったり、開いている窓から出て行ってしまったりすることがあります。でも猫は、完全室内飼育されている場合は、行動範囲は広くないので遠くに行ってしまうことはありません。台風の最中に飼い主さんが外に探しに行くのは危険なので避けましょう。近くにいると思うので、台風が落ち着いたあとに根気よく探しましょう。飼い主さん同士のコミュニティを作っておくと良いですね。飼い主の知り合いと協力して探した方が猫も出てきやすいかもしれません。また、台風や地震で電源が確保できないときは、迷子チラシも作ることができません。日ごろの防災対策の一つとして、チラシを作っておきましょう。1年間使わなかったら、今年は無事だったと捨てて、新しいチラシを作れば良いのです。
 
西村)特徴を書いた写真付きのチラシを事前に用意しておくと災害時はもちろん、迷子になってしまったときもすぐ使えますね。
 
大下)ペットの身元確認には、背中の皮膚にID番号が入ったガラス製の小さな札を埋め込むマイクロチップという方法もあります。犬の場合首輪のところに鑑札をつけていても、放浪しているときに取れてしまったり、首輪が痛んでしまったりすることがあります。首輪に飼い主さんの携帯番号を書いておくなど最終的に繋がる方法をいくつか用意しておきましょう。さまざまな想定や準備をして、空振りに終わってもそれはそれで良い。最終的に自分のペットを見つけるのは飼い主さん。行政からの保護の情報を待つだけでは難しいです。災害の混乱期は人の行方不明者もいる中、犬や猫の捜索まではしてくれません。飼い主さん自身が情報を集める必要があるので、日頃から想定をしておくことが必要です。
 
西村)食べ物や水など、ペットと一緒に暮らすために必要なものの備えについて教えてください。
 
大下)多頭飼育の場合は、全部連れて避難所に行くことは難しいので、在宅避難や車中避難をすることになるでしょう。その場合、支援物資も届きにくいので、自分でローリングストックをしておきましょう。普段食べているレトルト食品などを普段よりも多めに用意をしておいて、使いながら新しいものを足していく方法です。犬や猫のフードも同じ。アレルギーや疾患を持つペットの特殊なフードを動物病院で購入している人もいると思います。支援物資にはそのような特殊なフードは入っていないので、多めにストックして、順繰りに使いましょう。慢性の心臓疾患で、毎日薬を飲ませる必要のある犬や猫の場合、かかりつけの動物病院が被災すると大変です。当院では、ひと月ごとではなく2週間分がなくなれば、薬を取りに来るように案内しています。
 
西村)ストックしておく場所のポイントはありますか。
 
大下)豪雨災害で1階が浸水する危険性があるなら2階が良いです。車の中にも少しストックしておきましょう。猫砂が変わっただけでおしっこできなくなる猫もいて、膀胱炎を起こすことも。自分の猫のお気に入りの猫砂を準備しておくのもひとつ。逆の発想で、いろいろな猫砂でトイレができるようにしておくのも良いですね。最終的には、新聞紙の上でもオシッコができるように、日ごろからトレーニングしておくのも良いです。
 
西村)人間の食の好みがあるようにペットも好みがあるのですね。いつも通りの暮らしができるように備えておかないといけませんね。在宅避難の場合、ペットフードも浸水を避けて2階や3階に置いておいた方が良いでしょうか。
 
大下)犬や猫を飼っている一人暮しの高齢者は、2階に避難するときにペットとともにフード全部持って上がるのは結構大変です。
 
西村)自分が2階に上がることも大変な人もいますよね。
 
大下)ペットを飼っている高齢者は普段からペットと一緒に2階に上がる練習をすると良いですね。飼い主さんについて上がってきてくれたら、2階で自動的に避難ができます。
 
西村)たまにはおやつを2階で食べようとか、楽しみながら犬や猫と一緒に在宅避難の避難訓練をするも良いですね。最後にペットと暮らすみなさんに、伝えておきたいことはありますか。
 
大下)災害は起きたときにはベストな方法はなく、どれだけベターな方法を選べるか。飼い主さんが主となって、犬や猫を助けなければなりません。自分の犬や猫を家族の一員と思っている人は多いですが、それだけでは避難所では受け入れてもらえません。地域の一員として、社会で認めてもらうことが大事。公園での散歩のときの糞の始末、しつけなど避難所などの公的な場所で受け入れてもらうためには平時の適正飼育が一番のポイントです。
 
西村)日ごろの暮らしから見直して、しっかりとしつけをして、社会の一員としてペットと暮らすことを大切にしていきたいですね。
きょうは、ペット防災をテーマに大下動物病院 院長 大下勲さんにお話を伺いました。