第1260回「コロナの2020年をふり返る【1】
                ~変わる支援のかたち」
ゲスト:被災地NGO恊働センター 代表 頼政良太さん

西村)災害の多い日本で、今年はさらに新型コロナウイルスという、新たなリスクが私たちを襲いました。
今週と来週の番組は、「コロナの2020年をふり返る」という2回のシリーズでお送りします。
第1回のきょうは、被災地支援のあり方についてです。
今年7月新型コロナウイルスの感染が広がる中で、九州南部で大きな水害がありました。令和2年7月豪雨です。
被災地の外からの支援の手がなかなか入らないという問題が起きましたね。
ボランティア団体の方々もさまざまな支援の方法を模索されました。
きょうは、今も支援活動を続けている神戸のボランティア団体の方にお越しいただいています。
被災地 NGO 協働センター代表 頼政良太さんです。

頼政)よろしくお願いします。

西村)頼政さんがいらっしゃる被災地 NGO 協働センターのみなさんは、九州の被災地の支援活動を現在も続けているということですが、どんな活動をされているのですか。

頼政)今は熊本県や大分県の被災地で活動しています。熊本ではまだ泥が残っている家があるので支援をしています。大分では泥出しの活動は収束していて、みなし仮設住宅で借り暮らしを始めた人の見守りや物資の支援のサポートをしています。
熊本の方が被災件数が多く、片付けがまだ終わってないところが多いですね。

西村)熊本のみなさんは、現在はどのようなところにお住まいなのですか。

頼政)民間のアパートや仮設住宅です。

西村)町はどのような様子でしょうか。

頼政)駅前などは片付けが進んでいるのですが、山間部などの泥の多い地域は、全く手が付いてない状態の家もちらほらあります。

西村)それは熊本のどの辺ですか。

頼政)八代市や球磨村、人吉市のあたりは非常に大きな被害がありました。球磨村は山が多いので土砂も多く、まだ片付いてないところが多いですね。

西村)大分県・日田市はどんな様子でしょうか。

頼政)日田市は、天ヶ瀬温泉が大きな被害を受けて、旅館やお土産屋さんが被災をして営業ができない状態です。1階の商品を陳列していたところがガランとしていたり、壁に穴が開いたままの建物もあったり。

西村)天ヶ瀬温泉はもう再開しているのですか。

頼政)旅館によっては再開しているところもあるのですが、川沿いに建っていた旅館は被害が大きく、まだお客さんを入れられる状態ではないので、復旧に向けて少しずつ作業しています。

西村)災害が起きた7月はまさに、新型コロナウイルスの第二波による感染者が増加し始めた時期でもありました。これまでの災害のように直後に支援活動に動くことは出来たのでしょうか。

頼政)たまたま私が大分県・日田市にある NPO 法人の理事をしていて。応援が欲しいという話があり、感染対策をした上ですぐ被災地に行きました。普段ならたくさんのボランティアさんや支援団体の人が来てくださるのですが、新型コロナの感染拡大を考えて、被災地に来られない人は多かったですね。

西村)これまでの災害ではどんな活動をしてきたのですか。

頼政)ボランティアセンターの運営のお手伝いや、直接被災者とお茶を飲みながら話を聞くようなサロン活動もやっていました。被災した県内に限定してボランティア募集していたので、普段よりボランティアの人数は少なかったです。

西村)そんな中で、頼政さんたちの活動の内容も変わっていったのでしょうか。

頼政)今までと同じ活動はできませんでした。今までは被災者の家に行くと、「ちょっとお茶でも飲んで行き」ということもあったのですが。
避難所では人が集まると感染リスクが高まるので、どのような形でサポートするのがいいのか避難所の運営と協議を重ねました。
専門家による悩み相談もやっていたのですが、外から人を呼ぶことが難しいので、オンラインを使うなどの工夫をしながら活動していました。


西村)コロナ禍の中でこれまでになかった方法を始められているのですね。被災者が参加するオンライン相談会とはどういいものなのでしょうか。

頼政)オンラインで画面を繋いで、遠方の弁護士の先生や、過去に災害を経験した人に出演していただき、これまでの経験をお話しいただきました。画面越しにはなるのですが、直接被災者の悩みや話を聞いたり、さまざまな支援制度の説明をしたりしました。

西村)専門家はどの地域から参加されたんですか。

頼政)神戸や仙台、昨年豪雨災害があった宮城県・丸森町の弁護士さんなどです。新潟や昨年水害があった佐賀の人にも参加いただき、一年前の災害の経験をお話しいただきました。

西村)初めてのことだと、先が見通せないのでより不安になると思うんですが、経験談を話していただけるというのはとても心強いですね。

頼政)災害にあったみなさんは、支援者が少ないということで焦りを感じていたんですが、焦って物事を決めていくと、支援制度が後からできたりすることもあるので、スピードが速ければいいいというわけでもないんです。
焦らずに自分にとって良い再建の仕方を選んでいきましょうと伝えることで、安心した人も多かったです。


西村)実際にオンライン相談会の様子を少しお聞きいただきます。被災者から出た質問を支援メンバーがまとめて聞いているところです。

音声・質問者)電柱に当たって車が全損、電柱が倒れて家屋が破損した方がいらっしゃいます。
電柱の倒壊で被害を受けた場合、何か支援や保証があるのかという質問がありました。


音声・弁護士 津久井進さん)電柱や土砂など何が原因でも、家が壊れた場合には、罹災証明で全壊の認定が得られれば、最大300万の支援金がもらえる等お金の補償があります。
さらに、保険金が出るケースなのかというところもポイントになると思います。


西村)お聞きいただいたのは、7月19日に大分県・日田市で行ったオンライン相談会の様子です。アドバイスしていたのはこの番組でもおなじみの弁護士の津久井進さんです。

頼政)相談会に直接来られない人のお悩みは、スタッフが事前に聞いておいて専門家のみなさんにお聞きしました。
 
西村)各地にいるスペシャリストが質問に答えてくれるというのは、とても心強いと思います。相談会にはどんな人が参加していたんでしょうか。
 
頼政)自分ひとりでは解決できない悩みがある被災者に参加していただきました。1回目は少なかったんですけど、2回目は10数名参加していただいて、みなさんの個別のお悩みをお聞きしました。
 
西村)どんなジャンルの専門家が参加されたのですか。
 
頼政)弁護士の先生や新潟で中越地震の復興に携わってこられた支援者など、災害にあった経験や、災害支援の経験のある人に来ていただいて、ご相談に乗っていただきました。
 
西村)参加した被災者からはほかにどんな相談がありましたか。
 
頼政)家に被害があった場合に出る「罹災証明」は、何に使うのかという質問や、長屋の真ん中に住んでいて、解体したい場合どのように手続きをしたら良いのか、借地に建てている家が被災した場合、地主さんとのやり取りはどのようにしたら良いのか、などの質問がありました。
 
西村)誰でも参加できるオープンな相談会なのですね。
 
頼政)地域の人であれば誰でも参加できます。
 
西村)周りに聞かれたくないプライベートな内容の質問を専門家に相談したい場合は、個人的に相談できるのでしょうか。
 
頼政)その場でみなさんの質問を聞いていくので、自分と同じ質問に気づけることもあります。
どうしても人に聞かれたくない質問がある場合は、後日、支援の拠点で個別に相談に乗ることができます。
そこで解決できなければ、専門家のみなさんに相談できる仕組みを作っています。
相談会ならダイレクトに答えが返ってくるのですが、個別の相談になると少し時間をいただくことになりますが。

 
西村)真ん中に立って繋いでくださるのは、とても心強いですね。新型コロナウイルスの感染が広がっていく中で、新たな支援の試みを行ってみて感じたことはありますか。
 
頼政)普段なら専門家に遠方から来ていただいて、宿をとったりもするんですけど、オンライン相談会なら画面で繋ぐだけなので、たくさんの専門家にさまざまな地方から参加していただけるので、普段よりも充実していました。
一方で、被災者には相談会の会場に集まっていただいたので、感染対策の準備等が必要でした。ボランティアが少なくマンパワーが不足している状況だったので、人手が足りず調整や準備が大変でしたね。

 
西村)人が少なければ準備も大変ですし、参加者もコロナのことを考えると同じ場所にたくさん人が集まるのはどうかと思ってしまいますよね。
 
頼政)不安がある方は個別に対応して、感染が広がらないように対策をとっていました
 
西村)相談者は終わったあと、どんな反応でしたか。
 
頼政)すごく好評で、次の日に友達を連れてきてくれた人もいました。問題がすぐ解決したわけではないんですけど、一人で考えなくて良かったと安心していただけました。
 
西村)一人で考え込むというのは、つらいですもんね。
 
頼政)補償の制度や仕組みはすごく難しいので、一人で考えるといいやり方が思い浮かばないと思います。経験値がある人や専門の知識を持った人が相談に乗れるとやりやすくなると思います。
 
西村)今後の開催予定はあるのですか。
 
頼政)好評だったので、会場の調整ができ次第、年明けにでもまたやりたいと思っています。
 
西村)今年、感染症の中で起きる災害という新たな事態に直面しました。支援者の立場として思うこれからの課題とは何でしょう。
 
頼政)被災地に応援に行く人が少なくなると、地域の助け合いの力が重要になってきます。
平時から備えてお互いに関係を持ち、防災の取り組みをしている地域は災害に強いと思います。
感染症流行下で災害に対応するためには、支援者と地域の関係性をきちんと作っていくことが重要だと思います。

 
西村)日頃からのつながりは大事ですね。たくさんの人と話をすることで元気が出たり、次に進める力が湧くということもあるんですか。
 
頼政)ボランティアの人が来てくれるだけで、応援されていることが目に見える形でわかるので、被災者の再建に向けたエネルギーになります。
ボランティアが来れば、片付けも進んでいくので、家がきれいになって未来に希望が持てる。再建してこの家に住もうという選択肢が広がっていくと思います。

 
西村)ありがとうございました。きょうは被災地 NGO 協働センター代表 頼政良太さんにお話を伺いました。