第1344回「温暖化と豪雨災害」
オンライン:京都大学防災研究所 教授 中北英一さん

西村)今月18日深夜から19日未明にかけて、山口、福岡、佐賀、大分の4つの県で線状降水帯が発生しました。19日昼ごろには、近畿地方でも、京都府と滋賀県で記録的短時間大雨情報が発表されました。1時間当たりの降水量は京都市中京区で88mmと観測史上1位タイを記録しています。線状降水帯や台風の発生について、地球温暖化の影響を指摘する意見もあります。
雨の降り方や降る場所の変化、地球温暖化との関係について、きょうは、京都大学防災研究所教授 中北英一さんにお話を伺います。
 
中北)よろしくお願いいたします。
 
西村)地球温暖化で雨の量は増えているのでしょうか。
 
中北)この10年間で温暖化が進み、雨の量が増えてきています。温暖化がなかったときと比べて、総雨量が7~10%増えていることが科学的に明らかになっています。
 
西村)気温が1度上がると水蒸気の量も増えるのですね。
 
中北)産業革命以降、地球の平均気温は1.1~1.2度上がっています。気温が1度上がると空気中に含まれる水蒸気量が7%を超えます。世界の雨量も平均的に1度上がると約7%増えることが研究でわかっています。水蒸気量が多くなると、水蒸気が雲になるので大雨が降りやすくなります。梅雨の豪雨はさらに周りの空気を集めて、たくさんの水蒸気が上空へ上げられ雲になります。南から熱を運んでくるイメージ。気球は下からバーナーで火を焚いて上昇しますよね。同じように、水蒸気が雲になるときもバーナーのように熱を出すので雲が湧き上がって、大雨になりやすくなります。水蒸気量が最大10%増えるところもあります。
 
西村)これから温度が上昇すると、ますます雨の量も増えて豪雨の可能性も高くなるのですか。
 
中北)世界では、温室効果ガスを減らして地球平均気温上昇を2~1.5度以内に抑える取り組みが進んでいます。日本では、気温上昇2度の世界でも対応できる治水に取り組んでいます。気温が2度上がると総雨量は約1.1倍に、川に流れる水の量は約1.2倍に、洪水の発生リスクは約2倍になります。既に1度の上昇でこれだけの雨が降って、洪水も起こっているので、2度上昇というのは非常に怖いということが想像できますよね。今のまま温室効果ガスを排出し続けていると世紀末には気温が4度上昇し、総雨量は約1.3倍に。洪水から身を守る術と、温室効果ガス削減の両構えが必要です。
 
西村)個人レベルでも国としても、地球温暖化対策が必要だということを改めて感じます。地球温暖化で雨の量が増えるということは、線状降水帯にも影響があるのですか。
 
中北)線状降水帯が起こる回数が増え、総雨量も多くなります。線状降水帯が起こりやすい九州などはもっと増えて、関東、東北地方でも線状降水帯が起こりやすくなります。
 
西村)7月15日~16日にかけては、宮城県でも記録的な豪雨となりました。石巻市在住のネットワーク1・17リポーター 武山友幸さんにお話を伺いました。7月22日金曜日に収録した音声をお聞きください。
 
音声・西村)武山さん、おはようございます。よろしくお願いいたします
 
音声・武山)よろしくお願いします。
 
音声・西村)7月15日~16日にかけて、宮城県でもかなりの雨が降っていましたね。
 
音声・武山)わたしは51歳なのですが、今まで体験したことのないような雨でした。
 
音声・西村)7月15日の金曜日の何時頃から降っていたのでしょうか。
 
音声・武山)早朝から降り出して、昼以降に滝のような雨に。石巻には警報や氾濫情報が出ていましたが、東松島や大崎の方がひどかったみたいです。
 
音声・西村)雨が降り始めたときは、武山さんはどちらに。
 
音声・武山)前日から仙台の秋保温泉にいました。金曜日の朝、雨が強くなるという知らせを受けて、8時頃に出発したのですが、その頃はまだ雨は強くありませんでした。ところが石巻の方に向かって高速道路を走っていたら雨がかなり強くなってきて。高速道路は50km規制が出ていました。50kmで走っても周りが全然見えなくてこわかったです。隣の追い越し車線も見えにくくて、ライトをつけても視界が悪かったです。フロントガラスも滝のようで。石巻に近づくにつれて雨は強くなり、着いてからも全然止みませんでした。自宅の北側に流れている旧北上川は、氾濫まではいかなかったのですが、注意報は出ていました。
 
音声・西村)自宅の浸水被害などはありましたか。
 
音声・武山)わが家は大丈夫でした。
 
音声・西村)石巻より松島や他の地域の被害が大きかったのですね。
 
音声・武山)石巻は、東からも南からも影響を受ける場所にあるので、石巻を入口に雲がどんどん流れ込んでいったようです。東松島は石巻の隣。松島は東松島のすぐ隣にあります。
 
音声・西村)松島は観光地としても有名ですよね。
 
音声・武山)日本三景で観光客も多いです。JR松島駅から国道45号線が冠水してしまいました。タクシーが途中まで突っ込んだ映像があったと思います。松島と東松島に見に行きましたが、松島の冠水した場所にある化粧品店が営業できていない状況でした。水が入ってきて、後片付けが大変なのかもしれません。
 
音声・西村)冠水した場所は観光地エリアから離れたところなのですか。
 
音声・武山)観光地から約1km離れている住宅街です。
 
音声・西村)化粧品店の他にも浸水した家はありましたか。
 
音声・武山)沿道にあるタクシー会社は被害があったようです。この辺りは地震は多いのですが、大雨の経験が少ないので日頃の備えが足りないと感じています。実は今日も大雨警報が出ているんですよ。
 
音声・西村)今(7月22日)も降っているんですね。
 
音声・武山)朝の6時くらいから雨が強くなって、10時ぐらいまで滝のような雨が降っていました。大雨警報と洪水注意報が出ている状況です。今は危険度3に下がったのですが、数時間前までは危険度4でした。
 
音声・西村)雨に備えてお気をつけください。お忙しい中ありがとうございました。石巻市在住のネットワーク1・17リポーターの武山友幸さんにお話を伺いました。
 
西村)中北さん、宮城は線状降水帯がもたらす豪雨ではなかったのですが、51年間生きてきて一番の雨だったとのいうことです。西日本だけではなく、宮城でも大雨が降ったことにびっくりしました。
 
中北)将来2~4度気温が上昇するという気候変動の予測によると、"豪雨の餌"となる水蒸気が東、北、日本海の方向に流れていくようになります。よって、関東・東北地方でも梅雨タイプの豪雨が発生しやすくなります。気温が4度上昇した場合、2090年以降には、北海道でも梅雨タイプの豪雨が起こると予測されています。
 
西村)北海道は、梅雨がない地域と言われてきましたよね。
 
中北)今後、温室効果ガスの排出が減らない場合は、21世紀末ぐらいから北海道でも梅雨が起こりうるとされています。一番怖いのは、今レポートでもあったように「今まで経験したことがない」という言葉がこれから日本のあちこちで聞こえるようになるということです。「今まであまり雨が降らなかった場所に大雨が降った」「頻繁に雨が降るようになった」「すごい量の雨が降った」というような3つの未経験がこれから起こります。備えの経験がないので怖い状況になると思います。
 
西村)東北や北海道は、農作物への影響も心配ですよね。
 
中北)洪水発生時に堤防から水を溢れさせないことが難しくなってきます。田んぼに水を入れて一旦溜める治水に次第に変わっていくと思います。いかに水害とともに生きるかが大事です
 
西村)今まで豪雨災害対策を考えていなかった場所でもしっかりと防災に取り組んでいかなければなりませんね。九州北部豪雨や西日本豪雨もありましたし、豪雨は西日本のイメージが強かったのですが、今は地球温暖化の影響で、どの地域でも大雨が降ったり、線状降水帯による豪雨が発生したりします。本当に雨への備えが必要だと実感します。
 
中北)洪水だけではなく、土砂災害も怖いです。東北など大雨が降らない地域は、山にたくさんの土が溜まっています。今まで経験のないような土砂災害が起こる可能性もあります。
 
西村)地球温暖化が台風に与える影響はありますか。
 
中北)温暖化で台風が強くなることも予想されています。中心気圧920hPa以下のスーパー台風の危険性が高まります。中心気圧が低いと、ストローで吸い上げる力が強くなるということ。海面が吸い上げられて、大阪湾、伊勢湾、東京湾の高潮のリスクが高くなることが予想されています。大阪湾の三大水門の更新事業は、温暖化の高潮への影響も加味した設計で進められています。現実に温暖化を考慮して、私たちの町を守る対策が始まっているのです。
 
西村)田んぼの他に、雨を受け止める場所はどこに作っていくと良いのでしょうか。
 
中北)上流のダムを高くして、たくさん水を蓄えられるようにする、下流では、企業がビルを作るときに地下に貯水施設をつくるということも大事です。避難のシミュレーションなど普段の努力がますます大事になってくると思います。
 
西村)想定を超える雨にしっかりと備えないといけないと実感しました。
 
中北)「川から水が溢れることもある」という治水に発想を変えていかなければなりません。堤防があるから川のそばでも安全と思わないように。山の裾野は土砂災害の危険性があるので、家を建てるときは注意が必要です。安全な場所に住むことができる町作りをしていく必要があると思います。
 
西村)ありがとうございました。きょうは、温暖化と豪雨災害と題して、京都大学防災研究所教授 中北英一さんにお話を伺いました。