第1338回「線状降水帯の予測」
ゲスト:MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さん

西村)きょうのテーマは、今月から始まった線状降水帯の予測についてです。
線状降水帯による代表的な災害といえば、おととし7月の九州豪雨。熊本県・球磨村の球磨川が氾濫するなどして、多くの人が犠牲になりました。もし線状降水帯が早い段階で予測できていれば、被害は抑えられたのではないかという声も。
きょうは、線状降水帯とは、どのような現象なのか、私たちはどう備えたら良いのかなどをMBSお天気部 気象予報士の前田智宏さんに教えてもらいます。
 
前田)よろしくお願いいたします。
 
西村)線状降水帯とはどのような現象ですか。
 
前田)線状降水帯とは発達した積乱雲(入道雲)の列です。ひとつの積乱雲の寿命は、30分~1時間程度です。
 
西村)結構短いのですね。
 
前田)そうなんです。夕立は少し雨宿りをしたらしのげるもの。しかし線状降水帯は発達した積乱雲が列になって同じ場所にかかり続けるという現象です。
 
西村)だから雨の時間も長くなるし、降水量も増えるのですね。
 
前田)雨雲レーダーで見ると、発達した雨雲が真っ赤な線状になって現れます。これが線状降水帯です。
 
西村)線状降水帯は世界的に存在していて、情報が発表されているのでしょうか。
 
前田)線状降水帯という言葉は新しいもの。2000年頃に日本で作られた言葉です。
 
西村)知らなかったです。
 
前田)日本で発生事例が多い現象です。特に梅雨時は日本のあちらこちらで発生します。線状降水帯は、国際的な定義、気象学的な定義がまだはっきりしていません。
 
西村)それは日本の地形が関係しているのでしょうか。
 
前田)海に囲まれているというのは大きな要因です。海の湿った空気が流れ込んできたときに雨が降るのですが、日本の梅雨時は、停滞している梅雨前線に向かって南や西からどんどん湿った空気が流れ込みます。この湿った空気同士がぶつかり合うと、雨雲が発生して線状降水帯が起こりやすい状態になります。日本には湿った空気が南からも西からもやってくる。これが線状降水帯発生しやすい要因と言えます。
 
西村)線状降水帯による代表的な災害である九州豪雨以外にも、今までに線状降水帯による災害はありましたか。
 
前田)梅雨時に発生した豪雨災害は、線状降水帯が原因となっているものがほとんど。九州は地形的にも線状降水帯が発生しやすい場所です。2012年7月に九州北部豪雨がありました。そして広島県で大きな土砂災害が発生して74人が犠牲になった2014年8月の豪雨で、線状降水帯という言葉が浸透しました。関東では台風と兼ね合いで9月に線状降水帯が発生しやすいです。2015年9月の関東・東北豪雨は、栃木県の鬼怒川が氾濫した事例です。2018年7月には近畿でも西日本豪雨がありました。その時は線状降水帯があちらこちらで発生していました。
 
西村)今までは、中国地方や九州地方など山がある自然豊かな場所で豪雨災害が起きているイメージが強かったのですが、2018年の西日本豪雨で近畿北部や大阪湾でも雨がよく降ったということは、大阪でも線状降水帯による災害が発生する可能性があるということですか。
 
前田)大阪湾周辺は線状降水帯が発生しやすい環境なんです。
 
西村)それはなぜですか。
 
前田)積乱雲は上昇気流によって作り出されるもの。この上昇気流が起こりやすい場所には、3つポイントがあります。
一つ目は、風と風のぶつかり合いが起こりやすい場所ということです。
上昇気流は、ぶつかり合って行き場をなくした風同士が上に上がって起こるもの。大阪湾周辺は、紀伊水道を上がってくる南風と瀬戸内を抜けてくる西風がちょうど合流する場所です。
二つ目は、六甲山が上昇気流を発生させやすい環境を作っているということ。
風は山にぶつかると逃げ場がなくなり上に上がります。大阪湾周辺には六甲山がありますよね。
三つ目は、冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合う場所ということ。
冷たい空気は重たく、温かい空気は軽いという性質を持っていて、冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合うと温かい空気が持ち上げられます。大阪湾に注ぎ込む淀川沿いには、冷たい空気が川面に溜まっています。そこに海から温かい空気がやってくると、淀川沿いの冷たい空気に持ち上げられて上昇気流が発生します。このように大阪湾周辺には、上昇気流が起こりやすい条件が揃っているんです。線状降水帯は大阪湾から淀川沿いに発生しやすいです。それが伸びて京都方面や滋賀方面、奈良方面に連なることもあります。

 
西村)大きな川なので、被害が広がる可能性が高いのですね。都心部だから大丈夫ではないのですね。今月から始まった線状降水帯の予測では、具体的にどのような予測が出るのでしょうか。
 
前田)線状降水帯発生の可能性がある場所に、12時間前~6時間前に地域を指定して発表されます。
 
西村)どのように地域を分けているのでしょうか。
 
前田)国内を11の地区に区分しています。近畿、四国、九州北部というふうに。
 
西村)近畿といわれても和歌山県と兵庫県北部では距離があります。発表する意味はあるのでしょうか。
 
前田)心構えを高めてもらうために発表されるものととらえてほしいです。地域を限定して、もっと前から予測ができるといいのですが。
 
西村)大阪市北区といわれたら自分のエリアだからきちんと備えようと思うけど、近畿と言われたら「別にいいか」と思ってしまいそう。
 
前田)気象庁は、もっと精度を高めて、府県単位や市町村単位の予測の実現を目指している段階。今は線状降水帯という言葉が人々に浸透し始めているので「線状降水帯が発生する恐れがある」ということを伝えることで、みなさんの避難の心構えを高めることができます。そのファーストステップとして今回、発表が始まったという段階です。
 
西村)どこで知ることができますか。
 
前田)気象庁から「気象情報」という形で「明け方から〇時ごろにかけて、近畿地方で線状降水帯が起こりやすい状況になります」というように文章で発表されます。ホームページで見ることもできますし、テレビやラジオの気象情報でも伝えられます。そのような情報にアンテナを張っておいてもらえたら。
 
西村)ここ数年で雨雲レーダーの精度も高まってきているので、線状降水帯の予測も精度が高まってくることを期待して、情報を役立てていきたいと思います。そうなると局地的な大雨に備えた避難準備が必要ですよね。
 
前田)これから大雨シーズンを迎えるにあたって、まずはみなさんが住んでいる自宅や学校、職場など身の回りにどのような危険があるのかを確認しておいてください。
 
西村)どのように確認したら良いのでしょうか。
 
前田)自治体のハザードマップを見ることが第一段階の備えになります。
 
西村)ハザードマップが家に配布されている地域もありますし、インターネットや役所に行って見ることもできますね。子どもたちと一緒に家族でハザードマップを見るきっかけがあればいいなと思います。
 
前田)ひとつおすすめしたいものがあります。MBS気象予報士の広瀬駿さんと一緒に監修した「Mラジ防災リュック」です。きょうはひとつ持ってきました。
 
西村)防水仕様のナップサックの中にいろいろ入っていますね。
 
前田)子どもたちに準備しておいてもらいたいものをギュッとまとめた防災リュックです。その中に、もしものときに役立つ「Mラジこどもスマイル防災カード」を入れています。これには、台風や豪雨災害に備えて、ハザードマップを見るポイントがわかるチャートが書かれています。
 
西村)「はい」「いいえ」で答えるのですね。
 
前田)まずは自分の家がどこにあるか丸印をして確認してください。
 
西村)ハザードマップを広げてやってみましょう。
 
前田)次に「あなたの家は色が塗られていますか」とあります。土砂災害や洪水による浸水の恐れがある地域か否かということです。
 
西村)「はい」の場合、次は?
 
前田)「はい」の場合、次に「水に浸かる深さよりも高い頑丈な建物の上層階に住んでいますか」となります。これが「はい」であれば、水に浸かる心配はない。そのような場合は「安全な場所である自宅にとどまろう」というところにたどり着くようになっています。
 
西村)それが一番良いですよね。
 
前田)「いいえ」であれば、避難が必要。警戒レベル3の場合、家に高齢者がいるか。いなければ警戒レベル4で避難する。そのような場合分けをするチャートになっています。
 
西村)どのタイミングで避難すべきかがわかるのですね。
 
前田)それを子どもと一緒に確認できるように作った防災カードです。
 
西村)わかりやすいですね。
 
前田)さらに避難のときに気をつけるポイントもまとめています。
  
西村)かわいらしいイラストと写真が載っていて、楽しく進めていくことができます。大人にもわかりやすいので、家族で話し合うきっかけになりそう。
 
前田)ぜひ参考にしてください。
 
西村)ほかにはどんなものが入っているのでしょうか。
 
前田)避難の際に必ず備えておいてほしいもの。「ラジオ付きのランタンライト」です。
 
西村)おしゃれなランタンですね。
 
前田)LEDのランタンで、すごく明るいのに軽いんです。
 
西村)ラジオも聞けて、ソーラーで蓄電することもできるのですね。
 
前田)電池がいりません。手回しで充電したり、晴れている日に太陽光で蓄電したりできます。他にも携帯トイレなどいろいろ入っているのですが、特にお子さんの避難時にこだわって選んだのがトランプ。何日も避難が続くと、子どもたちは暇を持て余してしまうので、気晴らしになるようなトランプを準備しました。
 
西村)トランプで遊びながら防災の知識を得ることができるのですね。
 
前田)応急処置の方法などが書かれているので、避難時だけではなく、避難する前にも確認しつつ遊ぶことができます。
 
西村)車に積んでいても良いですね。渋滞したときの暇つぶしにも役立ちそう。我が家だったら塗り絵とクレヨンと、あと折り紙もいるかなぁ。
 
前田)非常食もただ命を繋ぐためだけの食品ではなくて、安心できて、うれしくなるようなお菓子を準備しておくのはすごく良いことだと思います。ほかに必要だと思うものをこの防災リュックにプラスして、自分だけの防災リュックを作ってもらえたら。
 
西村)前田さんだったらどんなものを入れますか?
 
前田)子どもはミニカーが大好きなので、しばらく遊んでいないミニカーを入れておこうと思います。小さな絵本もいいですね。子どもは大きくなっていくので、必要なものが変わっていきます。
 
西村)さらに大人の気分転換ができるものや美味しいお菓子を入れておくと良いと思いました。この防災リュックはどこで購入できるのでしょうか。
 
前田)MBSラジオのショッピングサイト「Mラジストア」で購入することができます。
https://mbsradio.stores.jp/
 
西村)みなさん、ぜひチェックしてみてください。
きょうは、今月から始まった線状降水帯の予測と備えについて、MBSお天気部 気象予報士の前田智宏さんにお話を伺いました。