第1258回「レスキューナースが教える新型コロナ防災」
電話:国際災害レスキューナース 辻直美さん

西村)みなさんは新型コロナウイルスの感染防止のために、どんな工夫をしていらっしゃいますか。
きょうは、さまざまな被災地で活動してきた百戦錬磨のナースに、災害時の感染防止対策を教えていただきます。
国際災害レスキューナースの辻直美さんに電話がつながっています。

辻)よろしくお願いいたします。

西村)レスキューナースというのは、どんなナースなんでしょうか。

辻)災害専門のナースで、災害時に72時間以内に現地に入って救命活動をします。

西村)今までどんなところで活動してこられましたか。

辻)阪神・淡路大震災では私も被災しました。地下鉄サリン事件、新潟中越地震、東日本大震災、西日本豪雨などです。
ほかにも水害、台風、地震のさまざまな被災地で救援活動をしてきました。


西村)救援活動の経験を活かした、辻さんの最新の著書が出版されています。
「レスキューナースが教える新型コロナ✕防災マニュアル」というタイトルで、前半は日常の新型コロナ感染防止策、後半は災害時の感染防止策に特化した内容になっています。写真が多くてとても読みやすですね。

辻)文章で書くよりも写真を見るほうが早いと思いまして。自分もモデルになってたくさん出ています。

西村)きょうは、コロナ禍での災害発生時の感染防止対策ということで、衛生用品を中心に辻さんに教えていただきたいと思います。
私はなるべく避難所に行かずに在宅避難をしたいと思っているんですけど、感染防止のための衛生用品は、何をどれぐらい備蓄しておいたらよいでしょうか。

辻)災害が大きくなればなるほど、インフラの復旧が難しくなるので、通常は3日と言われていますが、3週間は備蓄したほうがいいと思います。

西村)なぜ3週間なんでしょう。

辻)広域に被災があると、被害が大きくなるので、電気・ガス・水道が復旧するのに時間がかかります。
コロナ禍で県外からボランティアを入れることも難しくなり、自分たちの自治体も被災すればてんてこまいになってしまいます。


西村)今年の熊本の水害の際も、ボランティアに行きたいけど行くことができなかったり、助けてもらいたいけど助けてもらうことができないという声をよく聞きました。

辻)救援物資が届いても仕分けがされず、自分の元に届かないことがあります。余裕をもって3週間は自分たちで生きていけるように備蓄をすることをおすすめしています。

西村)3週間分の備蓄とは、どんなものをどれぐらい用意したら良いのでしょうか。

辻)基本はマスク・手洗い・消毒です。消毒液は、作ってあるものよりも原液をおすすめします。

西村)どんな原液ですか。

辻)逆性石けんというものがあります。名前を聞くと「石けんの逆!?」と思ってしまいますが、そうではなくて、高級アミンの塩からなる界面活性剤の消毒液です。

西村)石けんとはまた違うんですね。

辻)石けんは油を溶かしたり、菌を殺すという作用で清潔にします。逆性石けんは、界面活性剤の力を使って、肌についているものを剥がし落とします。逆性石けんの原液は引火性がないので、備蓄しておいても火事になる心配がありません。
一度開けてしまうと、アルコールは揮発して減ってしまいますが、逆性石けんは揮発しないので使った分しか減りません。


西村)逆性石けんの原液は水で薄めたらいいですか?

辻)水道水で薄めて使えます。割合は、水1Lにキャップ1杯ぐらいです。原液は500ml~1L サイズで売っているので、かなりの量の消毒液を作ることができます。肌にも優しく、物にも使えて、ふき取りがいらないので、素材を気にせず使えます。
在宅でも避難所でも汎用性が広いので、私はアルコールよりも逆性石けんをおすすめしています。


西村)おもちゃの消毒にも使えますか?

辻)もちろん使えますよ。

西村)それはありがたいですね!我が家には赤ちゃんがいるので助かります。

辻)逆性石けんは、病院の手術室の物品や皮膚の消毒にも使いますので、非常に安全性が高いです。
 
西村)備蓄は一家に1本ぐらいでいいですか?

辻)3週間分ということであれば、1本で十分だと思います。

西村)3週間すごすために、ほかにどんなものをどのぐらい用意したらいいでしょうか。

辻)消毒液は、原液に加えて、ジェルタイプやスプレータイプのものも一緒に用意した方がいいと思います。
ジェルタイプ1本、スプレータイプは2本ほどあった方がいいと思います。


西村)そんなに必要なんですか!

辻)トイレの回数は、成人で1日5回~6回といわれています。
スプレー6回✕3週間なら、間違いなく1本はなくなるはずです。


西村)ジェルタイプとスプレータイプの違いはありますか?

辻)ジェルは取りこぼしなく手に擦り込めます。
スプレーは、実はボトボトになるまで手につけないと意味がないんです。
滴り落ちるぐらい手に付けて、こすり合わせて、揮発して、やっと手についた新型コロナウイルスが死滅します。
アルコールをつけて、ハンカチで拭いてしまったら意味がないんです。
アルコールは30秒~1分ぐらい置かないと、新型コロナウイルスの膜を溶かすことができません。
アルコールは揮発するので、自然にきれいに乾きます。そうすることで手についたウイルスにアルコールが浸透して、新型コロナウイルスの油の膜を溶かしてウイルスが死ぬという仕組みなので、ちょっと付けてすぐ拭いてしまうと全く意味がないんですよ。


西村)そうなんですね!逆性石けん、消毒液はジェルタイプ1本、スプレータイプ2本が必要ということですが、ほかには何がいりますか。

辻)手を洗うのに石けんが必要ですね。

西村)ハンドソープでいいですか?

辻)ハンドソープって場所を取るし、すぐ減りますよね。
結構な量が必要になるので、固形石けん2個をおすすめします。
固形石けんは、手以外に体も髪も洗えます。仕上げにクエン酸を溶かしたお湯で、髪を湿らせるとツルツルになりますよ。
ほかにも下着ぐらいなら洗えるので、汎用性が広いです。


西村)マスクも必要という話でしたが、3週間過ごすとしたら、1人何枚ぐらい必要でしょうか。
不織布がなければ、布製でもいいですか?

辻)布は干して乾かす場所がないかもしれませんし、水も使いますので、不織布で使い捨てのマスクが良いと思います。
少し多めに3週間で50枚ほどあればいいと思います。


西村)ほかはどうでしょう。洗面所でやることといえば歯磨きがありますね。

辻)歯磨きは水がなかなか使えないので、マウスウォッシュを用意すると良いと思います。

西村)やはり感染症の対策として、重要なのでしょうか。

辻)口の中から新型コロナウイルスが感染するというデータもあります。
口が乾いたり、歯茎が傷ついていたり、虫歯になっていたりすると、そこからウイルスが侵入して感染するという例がありますので、口の中を清潔にしてください。


西村)大事なポイントですね。ほかにはありますか。

辻)いろんなものを触って片付けたり、汚染されているものを触る可能性もありますので、使い捨てのビニール手袋50~100枚で1パックになっているものを用意してください。

西村)おさらいすると、
●逆性石けん(引火性がなく安心)
●消毒液ジェルタイプ1本、スプレータイプ2本
●固形石けん2個
●不織布のマスク50枚
●マウスウォッシュ
●使い捨てのビニール手袋1パック(50~100枚)

ですね。しっかり用意しておきたいと思います!
これは、在宅避難する場合ということすが、避難所に行く場合でも同じようなものを用意すれば良いですか。

辻)同じものを非常用持ち出し袋にプラスすれば大丈夫です。
あと、45 Lぐらいのゴミ袋も入れておいてください。
物をまとめたり、着替え用の服を入れる以外にも何にでも使えます。
災害用トイレにも使えるんです。
ライフラインが寸断されると、水が流せないので、このゴミ袋を使ってトイレを作ります。


西村)どのようにして作るのですか。

辻)便器が壊れていなければ、便器にゴミ袋を2枚重ねて入れます。そこに便座を下ろし、中に破った新聞紙や雑誌を入れます。おすすめはペットシーツ。ほかに赤ちゃんのオムツも使えますので、ぜひ利用してみてください。

西村)ペットシーツやオムツがない場合は、どうしたら良いですか。

辻)新聞や雑誌でもいいのですが、吸収力の面ではかなり落ちますし、におい対策も難しいです。
ペットシーツは、100均ショップでも2~4枚1パックで売っているので、お試しで買って使ってみてください。
使えると思ったら大きいサイズを買ってみてください。


西村)先ほど固形石けんの話がありましたが、避難所に固形石けんを持って行く場合、使った後、ぬるぬるになった石けんを箱に戻してもいいのでしょうか。

辻)水を含んだ石けんの雑菌などが気になる場合は、ティッシュなどで表面を軽く削って、乾燥させてから固形石けんをプラスチックのケースなどに入れるといいです。

西村)さすが!辻さんならではのテクニックを教えていただきました。
紙石けんでも良いですか。

辻)紙石けんはきれいに泡立ちますし、スペースも少量で済みます。
普段持ち歩くにも固形石けんではなく、紙石けんは良いと思いますね。


西村)女性は、メイクポーチに忍ばせておくと良いですね。男性の方もぜひ持ち歩いていただけたらと思います。
辻さんの著書「レスキューナースが教える新型コロナ✕防災マニュアル」には、「コロナ対策ポーチ」という辻さんが普段持ち歩いているポーチの中身についても書かれています。
消毒アイテムのほかに、ハンドクリームやリップクリームなどの保湿アイテムもあります。
なぜ保湿が大切なんでしょうか。

辻)口の中と同じなんですが、傷が付いているところからウイルスが侵入するんです。

西村)私の手は今、ピンチですね。カサカサです...(笑)。

辻)一般的にアルコールが消毒液として使われていると思うのですが、アルコールは使えば使うほど皮膚の脂が溶けて、乾燥してカサカサになります。爪の横とか割れてきますよね。

西村)今年、爪のささくれがひどくて。爪もちょっと破れたりしているんです。やはりアルコールの影響なんですね。

辻)手洗いとアルコールの使用で手を酷使していることが影響しています。
そして、マスクをつけていると、口の中や体がカサカサになっていることに気付かずに生活をしていることが多いです。
マスクの中は蒸れていますので、喉の渇きに気づかない、面倒くさくて水を飲まないなどが原因で、きちんと水分を取っている人は少ないと思います。
11~12月は空気が冷えて、乾燥してきます。
これからの季節はもっと乾燥し、唇も割れてくる。そこからウイルスが入る可能性があります。


西村)そうなんですね。乾燥対策もしっかりとしなければなりませんね。ほかにも何かありますか。

辻)感染防止対策というと、方法論ばかり目に付くと思うんです。
しかし、根本的に一番大事なのは体力と免疫力です。


西村)体力と免疫力を上げるにはどうしたら良いでしょうか。

辻)よく食べ、よく遊び、よく寝ることです。しっかり寝ることは、抵抗力を上げるポイントになります。
自分の心をリラックスさせる、落ちた時に気持ちを切り替えるというテクニックも必要です。
そんな時「3秒・3分・30分」この3つで気持ちを上げられるものを用意しておいてください。


西村)「3秒・3分・30分」で気持ちを上げられるもの。
辻さんはどんなものを用意しているのですか。

辻)3秒は嗅覚=「香り」です。
一番好きな匂いを用意してください。
私は、オレンジのアロマオイルを持っています。
ほかは、香水や柔軟剤など何でもいいので匂いで気持ちが上がるものをひとつ持っていてください。
3分は触覚=「触る」です。触った時に落ち着くもの。好きな質感などあると思います。


西村)例えば猫を撫でるとか?

辻)いいと思います!お子さんのほっぺをプニプニするとか、奥さまの二の腕をブニブニ触るとか(笑)。触ることで心が落ち着くものがあれば良いと思います。
30分は視覚=「観る」。視覚から来るリラックスです。私たちはスマホやテレビなどの電気機器の情報ツールに慣れてしまっていますが、電気を使わないものがいいです。例えば、好きなアイドルの写真集やイラストや漫画、本など。


西村)目が不自由な方は、耳(聴覚)でもいいですか?

辻)はい。好きな人の声、好きなアナウンサーさんの声を聴いたり。映画の音声を聴くのも良いですね。
見ることができなくても、聴くことも大事なポイントになるので、お気に入りを自分の周りに置いておいてください。


西村)私も自分と向き合いながら、自分の気持ちを高めるものを探していきたいと思います。
リスナーのみなさんのお気に入りもぜひ教えてください。
辻さん、きょうはお忙しい中、たくさん教えていただき、ありがとうございました。

辻)こちらこそありがとうございました。