第1309回「無電柱化と防災」
オンライン:「電線のない街づくり支援ネットワーク」副理事長
       放送大学教授 松原隆一郎さん

西村)今回のテーマは、電線を地中に埋めて電柱をなくす「無電柱化」です。先日の「無電柱化の日」11月10日には、京都・先斗町で無電柱化の完成式典が行われました。無電柱化は、京都・先斗町など観光地の景観対策で進められることはあるものの、大きな目的は防災対策です。地震や台風のたび、何千本・何万本と倒れ、損傷してしまう電柱にはどういう対応が必要なのでしょうか。
きょうは、電線のない街づくり支援ネットワーク副理事長で放送大学教授の松原隆一郎さんにお話を伺います。

松原)よろしくお願いします。

西村)松原さんは経済が専門ですが、なぜこの無電柱化について取り組んでいるのでしょうか。

松原)阪神・淡路大震災で、神戸市東灘区・魚崎の実家が被災したことがきっかけです

西村)そのときは、松原さんはどこにいたのですか。

松原)東京にいました。翌日の新聞に近所のお嬢様が亡くなったという記事が出ていて。あわてて実家に電話をしたのですが通じず、情報を調べていたら、実家も全壊していて。近くに住んでいた妹が亡くなったと知りました。私は2日後に自転車で現地に入りました。

西村)妹さんが亡くなったということを知って、現地に向かったのですね。

松原)大阪は普段と変わらない明るい雰囲気でしたが、神戸に近づくにつれて風景が変わっていって。西宮北口に着くと完全に別世界でした。道路脇の家がほとんど横倒しになっている状態。実家のあたりは、自転車が入れないぐらい電柱が倒れていて、電線も道路上に散乱していました。東京都の小池都知事は芦屋出身なので、次の日には現地に来ていたらしいです。無電柱化をすすめるきっかけは、当時のようすを見たからだと思います。東京に住んでいると、もし今、直下型地震がきたら、神戸と同じ光景が広がるだろうと想像します。

西村)無電柱化というのは、どのようなことをするのでしょうか。

松原)電柱は、一時的に立てて電線を引っ張る柱なので、とっぱらうのが前提なんです。電線は、絶対に埋めなければならないわけではなくて、電線の数や通電量が少ない場合は、軒下配線という方法もあります。とにかく邪魔にならなければ良いのです。
 
西村)電柱は残っていても、電線は地中に埋まっているという場合もあるのですか。
 
松原)電線を地中に埋める場合は、電柱はとっぱらいます。しかし、道が暗くなるので電灯は必要。電灯と電柱が両方立っている場合や電柱に電灯がつけられたりすることもあります。高圧電線はそれぞれの家に分けなければならないので変圧器が必要。変圧器は地面に置くのが一般的ですが、邪魔なときは、ヨーロッパなどでは、生垣の中に隠すなど民間が協力することも。日本は共有の路上に置いてあります。
 
西村)いろんな方法があるのですね。
 
松原)国道では地中に横幅1m以上の大きな箱を埋め込んで、その中にさまざまな線を入れます。
 
西村)大きな箱というのは、トンネルみたいな管というイメージですか。
 
松原)長方形の箱です。その中に管を入れて、管の中に各社が線をいれることが多いです。しかし箱を埋めるのは、お金も時間もかかります。住宅の近くは道が狭くなるので、管を直接うめたり、通電量が少ない場合は、電線自体を直接埋めたり。トラックなどの大型車がたくさ通ることを想定して強力な箱にしています。歩道ではそこまでする必要ありません。
 
西村)場所によってやり方が異なるのですね。
 
松原)金沢市は早くから無電柱化に取り組んでいて、場所によって分類して方法を選ぶシステムをとっています。地元の協議会などで話し合って、どのやり方がベストかを決めます。さらに電力会社や通信会社との話し合いも必要。かなり面倒なプロセスなんです。
 
西村)無電柱化をすると災害時はどうなるんでしょうか。まず台風についてはいかがでしょうか。
 
松原)台風が来ると電柱がよく倒れます。風で倒れることもありますが、昔以上にインターネットなどの強力な通信線が多いので、1本倒れると何本もの電線が引っ張られて倒れてしまうことがあります。数年前に強い台風が千葉に来たとき、約1900本の電柱が倒れたのですが、無電柱化していたエリアでは、一時的に停電はあったのですがすぐに復旧しました。台風に関しては、無電柱化していた方が災害に強いです。
 
西村)2019年に千葉県を襲った台風15号ですよね。無電柱化していた区間は数時間後には復旧したということですが、無電柱化していなかった地域はどれぐらい停電が続いていたんですか。
 
松原)一番長いところだと2週間は超えていたそうです。

 
西村)かなり差が出ていますね。
 
松原)これでも早かった方だと思います。倒れた電柱の数が多く、複雑な倒れ方をしたり、木がまきついて倒れたりして、復旧に時間がかかったのだと思います。
 
西村)変圧器は地上に置いていますよね。台風や豪雨のときに水に浸かってしまうこともあるのでは。
 
松原)去年、熊本県では3~4m浸水して、地上機器も壊れたところがありました。
 
西村)今後、南海トラフなどの大きな地震で、津波被害も心配されていますが津波被害への対策は。
 
松原)街灯を建てるときに上の方に変圧器を置く。地上機器を嵩上げする。今のところ考えられている方法がこの2つです。
 
西村)地震についての対策についてですが、地面の中に電線を埋めている方が揺れの影響を受けやすいのではないでしょうか。
 
松原)直下型か津波型という地震のタイプによります。阪神・淡路大震災は電柱が倒れる直下型で、東日本大震災は、津波が来て全部持っていってしまう津波型。倒れたものを全部破壊して散乱させてしまいます。南海トラフは津波型。どちらのタイプかによって、無電柱化の方針を変えた方が良いと思います。
 
西村)ガス管や水道管が地面に通っているのは、地面の中の方が災害に強いということなのでしょうか。
 
松原)地上にあると邪魔というのが大きな理由だと思います。19世紀にロンドンで、ガス管を埋めるなら電線も埋めてほしいという訴訟が起きて。不平等にならないように電線も埋めようと無電柱化が始まったんです。ヨーロッパでは、全部埋めるというのが最初から決まっていてそれに従っています。防災よりも経済競争の平等が理由です。阪神・淡路大震災くらいの大きな地震になると、埋めていた方が被害は少なかったというふうに言われています。
 
西村)電線が断線したとしても地中に埋めていたらどこが切れているのか損傷しているのか、わからないのでは。
 
松原)埋めていないので、わかるかわからないかもわからないのです。台湾では、道路の中に埋まっているものを全てスキャンして、コンピュータで管理しています。スキャンする技術自体は日本にもあるのですが。
 
西村)どんな機械ですか。金属探知機みたいにセンサーで判断するのですか。
 
松原)平面でカットするようにレーダーでスキャンしていきます。それを面で繋げて立体を作り、線ごとに色分けをして、中に何が入っているのかを確認します。東京・巣鴨の「地蔵通り商店街」では、無電柱化をやっているのですか、地面の中に何があるかがわかる状態になっています。恐ろしいことに、日本では、ガス管も水道も地中に何があるのかがほとんど把握できていないんです。高度成長期に開発されたものです。
 
西村)無電柱化を進めるときに、どこに何が埋まっているかを把握しておくことが必要なのですね。
 
松原)把握すればいろんなことに役立ちます。今の電力会社、通信会社の技術をもってやればできるはずです。
 
西村)無電柱化には、スキャンをするのにも、電線を地中に埋めるにも、すごくお金がかかるのではないですか。
 
松原)お金は相当かかります。1kmあたり5億円強、6億円近くかかります。
 
西村)そのお金は誰が出すのですか。
 
松原)今のところの規定では、箱は国と道路管理者(地元の自治体)。3分の1を電力・通信事業者が持ちます。電柱を立てる場合は約1500万円で、埋める時は約1億6000万円。約10倍になると電力会社は発表しています。
 
西村)となると、電気料金が上がったり、税金が上がったりするのでしょうか。
 
松原)税金については、国土強靱化に合わせた予算の中でやるのかにもよります。電気料金の値上げは、電力会社の配当戦略によると思います。無電柱化は、今までやってなかったのでこなかったので技術が全然開発されていません。
 
西村)やるべき地域を限定して、少しでも無電柱化をすすめることが、今後のコスト削減にもつながっていきますね。技術を後世に伝えるきっかけにもなります。
 
松原)東京など都市部では、緊急輸送道路の無電柱化を進めようとしています。古い町並みを見せたい観光地では、地元の商店街がお金を出したり、道の真ん中に電柱が残っているところは、交通安全のために撤去したり。いろいろな目的があって、重要度によってどこからすすめるのかが決まってくると思います。
 
西村)どの話にもつながりますが、最も最優先されるのは人の命を救うことですよね。
 
松原)無電柱化が進んでいないのは、日本だけになりつつあります。諸外国は国が主導で進めています。日本は企業との調整が難しいですが、技術革新を本気でやったら、技術レベルは高いので、コストダウンも時間かからないと思います。
 
西村)無電柱化はコストの問題があってなかなか進まないのが現状ですが、最も最優先されるのは人命。万が一災害があったときにどうなるかというポイントを意識しながら、今後もこの問題に注目していきたいと思いました。
きょうは、電線のない街づくり支援ネットワーク副理事長で放送大学教授の松原隆一郎さんにお話を伺いました。