第1362回「発達障がいのある人の災害時の備え」
ゲスト:NPO法人アンジュ 水上さゆりさん、郡奈美さん

西村)発達障がいという障がいを知っていますか。知的障がいや特定のものに対してのこだわりが強いなどの特性がある自閉症や、読む・書く・計算するなどの学習が困難な学習障がいなどの総称です。
きょうは、発達障がい児の防災活動などを行うNPO法人アンジュ 代表 水上小百合さんと児童発達支援管理責任者の郡奈美さんに発達障がいがある人の災害時の備えについて教えてもらいます。
 
水上・郡)よろしくお願いいたします。
 
西村)水上さん、発達障がいというのはどんな障がいですか。
 
水上)私の息子も重度の知的障がいで、発達障がいもあります。自閉傾向がかなり強く、こだわりが多いです。
 
西村)どんなこだわりがあるのですか。
 
水上)同じ洋服を着ない、同じものを食べるなどです。1日の流れが決まっていて、朝起きたらこれをして...と彼の中でやる事の順番が決まっています。それを邪魔されたらパニックを起こします。彼がやりやすい環境を作るというのが長年の生活のスタイル。息子が小さいときは、日々の生活が本当に大変でした。でも今は30歳になり、30年という月日が彼を少しずつ変えてくれています。生きていく力がついてきたからです。周りの人たちや家族、地域の人の支えがあって、今があると思っています。
 
西村)発達障がいにもいろいろな障がいがあると思うのですが、どのようなものがありますか。
 
郡)自閉症の人は、コミュニケーション、人間関係や社会性、興味やこだわりに特徴があります。例えば、いつもと同じ道・モノ・行動が安心するというこだわりです。それをわがままととられることもあります。言葉は文字通りに解釈してしまいます。また、ADHDの人は衝動性と多動性があり、わかりやすく言えばドラえもんのジャイアンみたいなタイプとのび太くんみたいなタイプに分けられます。ほかには学習障がいなどもあります。いろいろな特性を併せ持っている人がほとんどです。
 
西村)ひとつではないのですね。
 
郡)自閉スペクトラム症と呼ばれていて、障がいはグラデーションだという捉え方。感覚の過敏さを持っている人もたくさんいます。聴覚が過敏な場合、スーパーに行くと、店内のBGM、冷蔵庫の機械音、子どもの声、レジ音など全ての音が同じ大きさで耳に入ってきてしまうのです。
 
西村)冷蔵庫のモーター音などかすかな音でも、すごく大きな音に聞こえてしますのですね。
 
郡)そうです。音を取捨選択することができないのです。口腔内の過敏さを持っている場合は、苦手な食材を食べているときは、アルミホイルを噛んでいるように感じることもあるといいます。これは全て生まれつきの脳の機能的障がい。目が見えない、手が不自由などと同じなんです。
  
西村)水上さんは、息子さんが自閉症で、知的障がいもあるとのこと。発達障がいは生まれつきのものという話を聞いたとき、お母さんとしてどう思いましたか。
 
水上)早産だったので、わたしが原因なのではないかと自分を責めました。後に生まれつきのもので、わたしのせいではないということがわかったとき、それなら向き合うしかないと。それまではすごく自分を責めていたんです。
 
西村)発達障がいは、お母さんのせいでも、親のしつけのせいでもない。先天性の脳機能障がいということなんですね。例えば足が不自由で車いすに乗っているなど、見た目ですぐわかれば、サポートできるのですが。
  
郡)あわせ持っている知的障がいの度合いにもよります。見ただけではわからないことも。多動性や衝動性があれば、関わったことのある人は気づくかもしれません。
 
西村)多動性や衝動性にはどのような特徴がありますか。
 
郡)じっとしていることが難しいです。絵本を見ているときなど1人だけそわそわする、教室の後ろから誰かが来たら「誰か来たー!」と叫ぶ、などです。そのようにほかの子とは少し異なるところがあります。
 
西村)電車の中でジャンプをしてうれしそうに言葉を発しながら飛び跳ねている子を見かけたことがあります。それも発達障がいの特性なのかも知れませんね。目に見えない障がいを抱えている人たちは、災害時に特別な支援が必要ですか。
 
水上)災害時だけではなく、日常の生活の中に災害を想定した活動を取り入れることが大事です。
 
西村)水上さんは、発達障がい児の防災活動を続けていて、先日は豊中で防災フェスを開催しました。なぜ発達障がい児の防災活動をしているのですか。
 
水上)発達障がい児はわかってもらいづらいです。私の息子は170cm・70kgなのですが、黙っていたら普通のお兄ちゃんです。でもちょっと物音がしたり、気になるものが目の前を通過したりしただけで、飛んだり跳ねたり、大声を出してしまいます。声が出ると、周りの人からは不思議な人という見方をされてしまうんです。わたしは、近所の公園清掃に彼を連れて行って、地域の人に知ってもらうための努力をしています。また、普段からの食べるもののこだわりが強いので、災害時に出てくる乾パンや菓子パンなどを日々の生活の中で、遊びがてら一口食べてみることも。運営している事業所でもやっています。これがすごく大事なこと。
 
西村)水上さんは、実際に大阪北部地震のときに発達障がいがある人たちと一緒に過ごしたそうですね。
 
水上)大阪北部地震の年は台風の被害もあり、とても災害の多い年でした。北部地震のときは、グループホームのみなさんが作業所に向かっているときでした。ホームに帰ってきたときには停電、断水が起こっていました。起きたことを説明したいけど、わたしたちもパニック。仕方がないので、楽しい活動に切り替えるしかないと。室内でキャンプをやってみよう!という形を取りました。子どもと言っても20歳を超えている人ばかりですが、彼らと一緒に備蓄のカセットコンロと鍋でご飯を炊いてみることにしました。米を研いで、水を入れて、火加減を見て...自分たちで炊いたご飯は美味しかったのでしょう。普段よりたくさん食べていました。災害は怖かったという記憶ではなく、工夫したらうまくいったという楽しい経験になったと思います。そのときにみんなで一つの部屋で寝たんです。そうしたら、今でも「みんなで一緒に寝よう」と言ってくれます。彼らにとってすごくいい経験になったと思います。
 
西村)家族の中に発達障がいがある人がいる場合、災害時の必要な備えは何でしょうか。
 
水上)家族が我慢していては、災害は乗り切れません。避難生活は長期間になります。その子に必要なものは何か、家族も話し合ってほしい。さらに地域の人にも発達障がいの子の存在を知ってもらうことが大事です。
 
西村)知ってもらうことから始まるのですね。
 
水上)知ってもらって、助けてもらえる仲間を作っておく。お母さん同士や、放課後等デイサービスの先生方、計画相談員さんたちと繋がっておく。福祉のサービスについて知っておく。知っておくことはとにかく大事です。そして、いろんな場所に子どもと一緒に出かけてみてください。忙しくて難しければ、自宅で寝袋で寝てみる、非常食を一緒に作ってみる、普段食べたことのないものを口にしてみる。お母さんが一緒なら食べられるなどの経験を繰り返してください。我が家では、本人の名前を書いた災害ボックスを作っていて。何かあったら持って逃げようと決めています。そこには大好きなチョコレートやポテトチップスなど普段食べているものを入れています。
 
西村)それは子どもや家族の安心に繋がりますね。大切な備えですね。郡さんは、児童発達支援管理責任者という立場で、さまざまな障がいのある人と接していますが、発達障がいのある人が家族にいる場合、災害時に必要な備えは何だと思いますか。
 
郡)避難所に一度行っておいてくださいとよく保護者のみなさんにお伝えしています。
 
西村)今は、在宅避難が多くなっていますが、なぜですか。
 
郡)初めての場所で、知らない大人と一緒に過ごさなければいけないとなると、すごく不安になると思うんです。でも一度行ったことのある場所なら少しは安心して過ごせると思います。経験していると全然違いますし、親もそこに行くときに必要なものにも気づくことができます。「みんなと同じ体育館は難しいなら、この部屋を開けよう」など運営側にも考えてもらえると思うんです。
 
西村)避難所に発達障がいのある人がいたら、わたしたちはどんな配慮をすれば良いですか。
 
水上)「何か必要なことはない?何か困ってることはない?」と声をかけてください。声をかけられたらほっとします。その声かけで、大概の人は「大丈夫です」と1回目は答えます。でも声をかけてもらえたことで、時間差で「助けてもらえるんだ」という、安心感が芽生えます。1人では災害は乗り切れません。誰かに助けてもらわないと無理なんです。自分も甘えられるんだということをお母さんたちに知ってほしいし、周りの方たちも声をかけてください。発達障がいの子の親は「他人に迷惑かけている」と肩身が狭いんですよ。車中泊をしたり、グラウンドの隅っこで過ごしたりして、支援物資も届かない環境に陥ってしまう。何回も災害がありながらそんなことを繰り返しています。自分たちも「助けて!」と声をあげて良い。声を上げたときに「助けますよ」という優しい声が返ってくる社会になればいいなと。
 
西村)郡さんはリスナーに伝えたいことはありますか。
  
郡)「すみません」言いながら過ごしている家族がたくさんいます。「何か困ったらすぐ言ってくださいね」と一言伝えてあげて、それをシェアしてほしいですね。大勢で過ごすことが苦手な人も多いので、少人数で過ごせる場所をすぐ提供できたら。
 
西村)まず知ることが大切。きょう、わたしも初めて知ることがたくさんありました。聞いた話を共有する、みんなで語り合うことが、理解につながると思います。
きょうは、発達障がい児の防災活動などを行うNPO法人アンジュ 代表 水上小百合さんと児童発達支援管理責任者の郡奈美さんにお話しを伺いました。