第1352回「プチプラ防災のススメ」
オンライン:国際災害レスキューナース 辻直美さん

西村)政府は、この先30年間に首都直下地震や南海トラフ地震が発生する確率を70%と予測しています。また、北海道から九州まで、わかっているだけでも約2000の活断層があります。いつどこで大きな地震が起きてもおかしくありません。
きょうは、国際災害レスキューナースの辻直美さんにお話を伺います。辻さんは、阪神・淡路大震災で被災し、東京の病院で地下鉄サリン事件への対応にあたって以降、災害専門のレスキューナースとして国内外31ヶ所の被災地で活動しています。
 
辻)よろしくお願いいたします。
 
西村)きょうは、辻さんが提唱している「プチプラ防災」について伺います。プチプラ防災とは何でしょうか。
 
辻)お金をかけなくても、地震に強い部屋作りができる防災です。
 
西村)プチプラとは、プチプライスということですよね。
 
辻)そうです。100円均一やホームセンターに売っているもの、家の中に転がっているものでもできるし、無料でもできます。
 
西村)防災対策は、お金がかかるという声を良く聞きます。お金をかけなくてもできる防災とはどのようなものですか。
 
辻)タダでできる対策は、片付けること。片付けるときにポイントがあります。家中全部片付けるのは面倒ですよね。全部片付けるのではなく、家の中で危険な箇所を見つけて、まずはそこを片付けるんです。
 
西村)危険な場所...まずどのあたりでしょうか。
 
辻)自分がよくいる部屋を360度ぐるっと見回してみてください。危険なモノが何個かあると思います。それは、確実にあなたを傷つけます。まずはそこを片付けましょう。
 
西村)我が家のキッチン、片付けられてないです。洗った食器が積み上がっていて、調味料も出しっぱなし...。
 
辻)全部片付けるのが面倒な人は、危険な場所から逃げましょう。これもタダでできる防災対策です。
 
西村)わたしは、収納上手な人のインスタグラムを見て、キッチンをおしゃれにしようと思っているんですけど、食器や調味料のボトルを"見せる"収納をしている人も多いですよね。
 
辻)それは防災的には危険です。大きな地震があると、腰の高さにあるものは弧を描がいて、こちらに飛んでくるんです。菜箸が首に刺さって亡くなった人もいます。キッチンばさみやフライパンなどを吊り下げ収納していると、飛んできて危険です。
 
西村)ナイフや包丁を壁に貼り付ける"見せる収納"を見かけたことがあります。
 
辻)危険ですね。それをどうしてもやりたいのなら、そこから逃げてください。危険な場所から離れること。キッチンを片付けることも諦めてください。
 
西村)防災的な観点から見て、危険なキッチンから安全なキッチンに変えたいときは、どのようにしたら良いですか。
 
辻)吊戸棚に引き出物や懸賞でもらった食器など、モノをたくさん収納している人は多いと思います。防災的なポイントは、重いものは下、軽いものは上に収納すること。吊戸棚の上にあるものは、普段使わないものなので、そもそもキッチンに置いておく必要はないかもしれません。収納場所を見直してみてください。食器棚にそのまま食器を入れておくと、揺れで扉が開いて落ちてきます。わたしは、棚に滑り止めシート貼って食器を収納しています。
 
西村)100円均一のお店で買えますね。
 
辻)ラグやホットカーペットの下に敷く滑り止めシートです。きっちり測らなくても、適当に切って貼っても構いません。その上に食器を置くだけで滑らなくなります。わたしは、さらに100円均一で売っている収納箱に食器を入れています。
 
西村)食器棚の中にもう一つ箱があって、その中にお皿などを入れているのですか。
 
辻)例えば朝食用、うどん用、ラーメン用...などカテゴリー分けしています。よく使う食器をまとめて箱の中に入れておくと、毎日の生活がラク。
 
西村)子どもも片付けしやすいですね。
 
辻)防災って、頑張りすぎると面倒くさくなる。お母さんだけが知っているルールは長続きしません。みんなができるシンプルなルールにしましょう。必然的に家の中が片付いて防災対策になります。
 
西村)理想的ですね。
 
辻)難しく考えずにゆるいルールでいいんです。収納箱に入れるときも、きっちりカテゴライズしなくてOK。
 
西村)実家のキッチンは、背が高くて大きな家具が多いです。阪神・淡路大震災のときは、食器棚の観音開きのガラス戸が開いて、食器が落ちて割れました。開く戸棚の対策として、100円均一の商品でできる方法はありますか。
 
辻)食器棚の足元につける、樹脂でできた転倒防止板というものが売っています。背の高い家具は天井と家具を突っ張り棒で固定しなければならないのですが、家具の上にダンボールを置いても成果が出ます。そのままのダンボールでは、生活感が出てしまうので、私は100円均一で買ってきたリメイクシートでおしゃれに隠しています。
 
西村)かわいい包装紙を貼って、子どもにお絵かきしてもらっても楽しそう。大阪北部地震のときはどうでしたか。
 
辻)震源から3kmしか離れてないマンションの12階に住んでいるのですが、3LDKの家の中で倒れたのは、ペットボトル4本だけでした。お隣さんに「助けて!」と言われ、ベランダから入ったのですが、家の中がぐちゃぐちゃでとんでもない状態でした。キッチンのモノが全部落ちていて、醤油や酒やみりんの瓶が割れてこぼれて、冷蔵庫の中のモノも全部出てきていました。どの部屋もぐちゃぐちゃで片付けられない。
 
西村)どこから手をつけて良いのかわからない状況だったのですね。
 
辻)どの部屋もぐちゃぐちゃなので片付けたモノを移動できないんです。
 
西村)スペースがないのですね。
 
辻)結局お隣さんは、片付けないまま1ヶ月半の間、お孫さんのところに避難しました。1ヶ月半後「ギャー!」という声が聞こえて行ったら、床が腐って抜けていました。モノが倒れないためにやるのが防災ではありません。早く元に戻すためにやるのが防災です。日々の片付けも一緒。片付けることが防災になるというのは、そういうことです。
 
西村)シンプルで片付けやすい部屋にしておくと、大きな地震が起こったときでも被害が少ないのですね。
 
辻)大きな地震が起きると、モノは倒れる、落ちる、移動する、飛ぶという動きをします。わたしの友人は東日本大震災のとき、重たいル・クルーゼの鍋が飛んできたと言っていました。
 
西村)重い鍋が飛んできて、頭を直撃したら大変なことになりますよね。
  
辻)わたしは、阪神・淡路大震災のとき、テレビデオが飛んできて顔に当たって骨折しましました。倒れる、落ちる、移動する、飛ぶという4つの動きをしないように、防災グッズを使いましょう。100円均一とかホームセンターで売っているプチプラ商品でも良いものがあります。
 
西村)地震に強い家作りについて、リスナーのみなさんに「これだけは覚えておいてほしい」いうことはありますか。
 
辻)命を守る部屋作り3か条です。まず1つ目は「家具の重心を低くする」。
本棚や洋服ダンスでは、重いものは下、軽いものは上に収納してください。重心を低くして収納することによって、転倒しにくくなります。低い家具でも揺れによっては、引き出しが飛び出てくることもあるので、キャビネットロックや赤ちゃんのいたずら防止用バンドを使ってください。2つ目は「寝る前だけは必ず片付ける」。

 
西村)片付けるのは、寝る前だけで良いんですか。
 
辻)できれば出掛ける前もしてほしいですが。夜間に地震が起きたときに、モノが散乱して床がぐちゃぐちゃになったら真っ暗で足元が確認できず、歩けませんよね。
 
西村)子どものブロックやミニカーを踏んだらものすごく痛いです。足をケガしたら大変です。
 
辻)元の場所に片付けるのが面倒な人は、収納ボックスを1つ買ってきてそこに全部掘り込んでおいてください。
 
西村)それなら子どもたちと一緒に寝る前に片付けられますし、安全面も安心ですね。
 
辻)これだけで、大幅に生存率が上がります。とにかく寝る前には、箱の中に全部入れるという習慣をつけると良いです。
3つ目は「1ヶ所安全な場所を作る」。家を360度見回したときに、物が落ちてこない、物が落ちてきても体を守るスペースがある場所を探しておいて、そこだけは片付けておきましょう。

 
西村)そういう場所があったら安全ですね。
 
辻)ひとつの部屋の中でも、タンスが倒れてくる、クーラーが落ちてくる等、いろいろな危険箇所があります。大抵の方が思いつくのはリビングテーブルの下だと思います。でもみなさん、リビングテーブルの下に梅酒のビンとか缶ビールのダンボールとか置いていますよね。モノがあると入れないので、そこだけは片付けておいてください。これも防災対策になります。
 
西村)昔は、地震が起きたらトイレに逃げ込もうと聞いたことがあったのですが。
 
辻)それは防災のアップデートができてないですね。今は、昔と違って、トイレが頑丈にできていません。トイレに閉じ込められたらどうなりますか。
 
西村)イヤですね。狭いし、掃除していなかったら臭いかもしれないし...。
 
辻)マンションのトイレは、窓がないので真っ暗です。狭い空間で空調設備も使えないとなると、命の危険を感じます。トイレに逃げるのはナンセンス。今は、玄関に逃げるというのが主流です。
 
西村)時代とともに災害の規模も変わってきています。防災知識のアップデートも大切ですね。
 
辻)情報はたくさん転がっていますが、アンテナを立てないと情報は入ってきません。常に防災のアップデートを意識して、情報を仕入れてください。
 
西村)辻さんは、8月10日に「プチプラで地震に強い部屋作り」という本を出版。きょうのお話も詳しく載っているのでしょうか。
 
辻)誰でもできる防災を松竹梅の3つのステップで載せています。面倒くさがりの人から片付けが大好きな人まで対応できる本になっています。ぜひご覧になってください。
 
西村)辻さんの本を読んで、わたしも防災に強い部屋を作っていきたいと思います。
きょうは、国際災害レスキューナースの辻直美さんにお話を伺いました。