第1381回「サステナブルな防災備蓄缶」
ゲスト:但馬漁業協同組合 参与 丸山和彦さん

西村)災害対策の一つとして、普段食べているものを少し多めに購入し、食べた分を買い足すというローリングストックが推奨されています。きょうは、ローリングストックにも最適な缶詰を紹介します。サステナブルで美味しいと注目を集めている缶詰に使われているものは、のどぐろやカニなど、これまで備蓄食としてはあまり見かけなかった高級な海の幸。なぜこのような缶詰を作ったのか、開発者の但馬漁業協同組合 参与 丸山和彦さんに聞きます。
 
丸山)よろしくお願いいたします。
 
西村)丸山さんが開発した缶詰がスタジオにあります。「但馬漁協がつくった缶詰め」のかに飯、のどぐろ飯、にぎす飯、はたはた飯、ほたるいか飯、鰰(はたはた)ご飯です。どれも炊き込みご飯なんですね。
 
丸山)但馬漁協で開発している魚醤でたき込んだ炊き込みご飯の缶詰です。通常の魚醤は塩と魚で発酵させるのですが、但馬漁協の魚醤は、麹を使って発酵させています。
 
西村)いつ頃から開発をはじめたのですか。
 
丸山)魚醤は10年ぐらい前から。缶詰は2019年から開発を始めて、2020年7月に完成しました。
 
西村)缶詰は賞味期限が長いですが、この缶詰は何年ぐらいもつのですか。
 
丸山)賞味期限は製造から3年間です。
 
西村)災害の備蓄にもピッタリですね。
 
丸山)備蓄食としてもPRしようと動いています。湯煎をして食べるということが条件になるのですが。
 
西村)先日わたしも試食しました。カセットコンロでお湯を沸かして、火を止めた鍋に缶詰を入れて蓋をして、10分でできあがります。缶詰の蓋を開けると2歳の娘が「お魚だ!」と笑顔になりました。のどぐろ飯は小さな切り身が真ん中に入っています。ご飯がふっくらしていて、魚の旨味が口の中に広がって、魚醤のコクもあってとても美味しかったです。こんな高級な魚を災害時に食べることができたらうれしいですね。
 
丸山)美味しいものを食べて、少しでも元気を出してもらえたらという思いも込めて作っています。
 
西村)ほかにもいろいろな種類があるのですね。丸山さんはどれが一番オススメですか。
 
丸山)ハタハタの魚醤で炊き込んだハタハタ飯です。身は脂がのっていてとても美味しいですよ。
 
西村)魚とご飯を一緒に食べるとこんなに美味しくなるのですね。
 
丸山)魚は臭みがあって調理が面倒ですが、ご飯と一緒に炊くと簡単に美味しく食べられるというメリットがあります。
 
西村)栄養も旨味も逃さず食べることができますね。普段の食卓にのどぐろのような高級魚が出てくることはなかなかないです。なぜこのような高級な魚を使って缶詰を作ろうと思ったのですか。
 
丸山)この缶詰に使っている魚は市場に出回らない魚なんです。魚は通常、漁師が船の上で選別をして梱包して、港に持ち帰って、競りにかけられますが、サイズの小さいものや形の悪いものは、浜揚げしてもお金にならないのですべて海に廃棄してしまうんです。
 
西村)もったいないですね。それはどれぐらいの量ですか。
 
丸山)漁獲量の約30%です。うまく利用すれば食べられるのですが、サイズが小さいと処理が大変なので売れないんです。漁師もそれをわかっているので持って帰りません。
 
西村)例えば蟹なら、足が折れていたり、取れていたりすると市場に出回らないのですか。
 
丸山)蟹の場合は、高級な松葉ガニは、1~2本折れていても流通に乗るのですが、香住ガニ(紅ズワイガニ)は、松葉ガニと比べると値段が安いので、足が折れていたり、甲羅が潰れていたりすると商品価値がなくなります。そのようなものは廃棄の対象になります。
 
西村)もったいないですね。
 
丸山)獲れても漁師の収入にならないんです。最近は漁業をやめる人が増えています。廃棄する魚に価値が見出せて、収入になれば、漁業を続ける漁師も増えるのではないかと、漁業者の支援を目的に商品の開発を始めました。魚を船上で選別して持って帰るのは、非常に手間がかかります。ある程度の値段で購入してあげないと持って帰ってくることができません。漁師も獲れたものを少しでも買ってもらえたらありがたいということで、協力してもらっています。
 
西村)市場に出回っていなかった魚を利用して缶詰を作って、漁師もわたしたちも笑顔になる。これがサステナブルな缶詰の秘密だったのですね。缶詰は何種類あるのですか。
 
丸山)21種類あります。
 
西村)水産資源の有効活用と産学連携の取り組みとして、香住高等学校 海洋科学科の生徒と一緒に缶詰の共同開発をしたそうですね。香住高等学校 海洋科学科の篠原健悟先生に開発当時の生徒の様子についてインタビューしました。
 
音声・篠原健悟先生)生徒たちは、未利用魚を使って缶詰を作ることに興味を持って、いきいきと開発に取り組んでいました。骨まで食べられる魚の炊き込みご飯は、過去に食べたことがなかったので、新鮮さもあり美味しかったです。水産高校なので普段から実習で加工もしています。備蓄食料などについて関心を持つことは、自分や周りの人の身を守ることにもつながるということを防災教育の中で教えています。
 
西村)サステナブルな取り組みと防災を一緒に学ぶことができて、家族や友達と防災のことを話すきっかけにもなりますね。災害備蓄食として、2020年度からホタルイカ飯と鰰(はたはた)ご飯の缶詰を合計1万缶購入した豊岡市の担当者にもお話を伺いました。
 
音声・豊岡市担当者)新型コロナウイルス感染症の拡大によって水産物の消費が落ち込んでいたので、後押しできる取り組みはないかと検討していました。但馬漁協が開発した缶詰は長期の保存が可能で、災害時の備蓄食料に適していると考え、購入しました。
 
音声・ディレクター)鰰(はたはた)ご飯の缶詰はノンアレルゲンの商品ですね。
 
音声・豊岡市担当者)災害時の食事は種類が限られているので、いろいろな人に対応できるように、新たなバリエーションを加えました。
 
西村)豊岡市が災害の備蓄用に購入した鰰(はたはた)ご飯の缶詰はグルテンフリーなのですね。
 
丸山)ほかの炊き込みご飯の缶詰は、小麦と大豆で発酵させた魚醤を使っているのですが、鰰(はたはた)ご飯の缶詰は、「こうのとりを育む会」の米麹で、ハタハタと塩を漬けて発酵させた魚醤を使っています。小麦・大豆を使っていないのでグルテンフリーになります。
 
西村)小麦アレルギーを持っている人も食べることができる缶詰が市で備蓄されていると安心ですね。高校生と一緒に作ったことによって、アイディアが広がったり、気付いたりしたことはありましたか。
 
丸山)商品開発をしている漁協の企画開発部には製造のノウハウが全くありません。香住高校が缶詰を作っていることを聞いていたので、「何かできませんか」と先生に魚を持ち込んで、缶詰作りを始めました。生徒も地元の漁業について興味があったそう。「学校の授業では知ることができない課題を再認識し、アイディアを出すことができて、非常に勉強になった」と言っていました。
 
西村)一緒に作ったものを食べたときはいかがでしたか。
 
丸山)いろんな種類の炊き込みご飯を作ってもらったのですが、「なにか一味足りないな」というのが最初の感想です。そこからいろいろと意見を出し合って、最終的にこの形になりました。
 
西村)この缶詰はどこで買うことができますか。
  
丸山)漁協の通販サイトで購入できます。グルテンフリーの鰰(はたはた)ご飯の缶詰は、お試し価格の680円で販売しています。ほかの缶詰は800~1000円で販売していて、兵庫県内、但馬エリアの道の駅などでも購入できます。
 
西村)香住高等学校 海洋科学科の生徒のみなさんも漁業が身近になったのでは。漁師になりたいという高校生も出てくるかもしれませんね。
 
丸山)そうなればありがたいですね。
 
西村)今までは捨てられていた未利用魚が缶詰になって、美味しく食べられるというのは、素敵な取り組みですね。災害時に食べる楽しみが生まれるのも良いですね。
 
丸山)災害時に気持ちが落ち込んだときに、美味しいものを食べて元気になってもらいたいです。
 
西村)食べる楽しみがある缶詰ならローリングストックの循環にもつながりますね。わたしもいろんな種類を食べてみたいです。友人へのプレゼントにも良いですね。
 
丸山)ギフトセットや地元のお米とセットにしたものもあります。
 
西村)兵庫県香美町の美味しいものを災害時の備蓄に。みなさんも是非試してみてください。
きょうは、サステナブルで美味しい災害用備蓄缶を開発した但馬漁業協同組合 参与 丸山和彦さんにお話を伺いました。