第1347回「災害時の車避難の注意点」
オンライン:アウトドア防災ガイド あんどうりすさん

西村麻子※以下 西村)きょうは、災害時、特に豪雨のときに車で避難する際の注意点について、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんにお話を伺います。
 
あんどう)よろしくお願いいたします。
 
西村)アウトドア防災とはどういうものですか。
 
あんどう)アウトドアは楽しいもの。意識しなくても「防災やろう!」と頑張らなくても、アウトドアを楽しんでいたら、防災スキルも手に入る、アウトドア防災をオススメしています。
 
西村)一石二鳥ですよね。楽しみながらいつの間にか防災スキルを得られるなんて。
 
あんどう)わたしは、阪神・淡路大震災を体験しています。被災体験はあまり話したくないものですが、アウトドア体験だったら話せるだろうとはじめました。今では講演やラジオ出演などの活動をしています。
 
西村)アウトドアのスキルが防災スキルにつながるのですね。
 
あんどう)寒いとき、暑いとき、雨天時の移動などには、アウトドアスキルがすごく役立ちます。
 
西村)アウトドアに行くときは、荷物がたくさんあるので車を使います。災害時や避難時にも車があると安心できると思うのですが。
 
あんどう)車は、アウトドアでの車中泊や車でしか行けない場所への移動でよく使いますよね。車はたくさん荷物が積めます。鍵もかけられて、雨に濡れない。安心感があると思うのですが、車で避難することがかえって危険になることも。車で寝ることによって、エコノミークラス症候群になるなど、命に危険を及ぼすリスクもあるので注意も必要です。
 
西村)どのような注意をしたら良いのでしょうか。
 
あんどう)車中死という言葉があります。浸水していて歩けなくても車なら行けるのではと思いがち。歩けなくなったら、車も水没します。危ない道が見分けられずに突っ込んで、移動中に死亡してしまうということも問題になっています。2019年に関東や東北で被害をもたらした台風21号では、千葉県や福島県で亡くなった10人中5人が、冠水した道路で車が水没したり、川に流されたりしたことで亡くなりました。
 
西村)車のどのあたりまで水につかったら危ないのですか。
 
あんどう)タイヤの3分の1~半分ぐらいまで水没するとエンジンの中まで水が入って、エンジンが止まってしまいます。電気で開く窓は、エンジンが止まると開けることができません。水深が高くなって、水がドアまでかかると水圧でドアが開けられなくなり、閉じ込められて助からないケースも。
 
西村)水がドアのところまで来ると水圧でドアが開かないのですね。
 
あんどう)かなり重たいです。体ごとぶつかっても開かないと思います。前の車が危ない道に突っ込んだとき、前が進むと「前もいったから大丈夫だろう」と行ってしまう車も多いようです。鉄道などの下を道路がくぐるアンダーパスで止まれない車が結構いるようです。
西日本豪雨のときに避難していた車のドライブレコーダーを見たのですが、その車は雨の中、水溜りになっている道を走っていました。その後、離れた道に入るとすり鉢状になっていて。見た目は、今までの道と変わらないので突っ込んでしまったそう。上が全部水溜りになっていて、水面にヘッドライトが反射して、まっすぐな道に見えたそうです。全く深さがわからず、突っ込んで初めて、すり鉢j状だとわかったそうです。

 
西村)そのときは、電気系統が壊れたり、ハンドルが効かなくなったりするのですか。
 
あんどう)水の中に入ってしまうと動けなくなってしまうことがあります。その車は車高が高く、たまたま脱出できたからよかったのですが、そのまま中にいた車もあったようです。雨で見えないだけではなく、道自体が反射して深さがわからなくなることも。橋の崩落を恐れて、橋を見て車を走らせていたら、手前の橋げたが崩落していていることに気付かず突っ込んだ車もあります。
 
西村)そんな想定外なことがおこるのですね。改めて大雨のときの避難で大切なことを教えてください。
 
あんどう)車避難は、暗くなると危険物が見えません。昼間のうちに車避難を決断してほしいです。どんなに注意していても、深いところに入ってしまうケースもあるので、脱出ツールを用意してください。金槌やトンカチのようなものや、窓に押しつけてバネの力で窓を割るものなどさまざまな形状のグッズが販売されています。車に乗る人は、保険代だと思って購入しておいてください。
 
西村)車が水没して電気系統が使えなくなると窓が開かなくなる。窓を割らないと脱出できないのですね。
 
あんどう)フロントガラスは、車がぶつかっても割れないものになっているので、割ることができません。割れるガラスは、運転席横や後ろ、最後部など。高級車は、運転席の横も割れにくくなっていることがあります。どこが割れるかを確認しておいてください。
 
西村)防災訓練をしたくても、試しに割ってみることができないですよね。
 
あんどう)「脱出できなかった」など国民生活センターに情報が提供されているものもありますので、商品をネットでよく調べて購入してください。
 
西村)車避難は避けた方が良いのでしょうか。
 
あんどう)荷物をたくさん積める、鍵をかけられるという利点もあるので、昼間のうちに早い段階で避難するなら良いと思います。豪雨土砂災害は、ある程度事前に情報がわかっているので、早めに避難できると思います。
 
西村)警戒レベル3ぐらいから高齢者や体の不自由な人は、避難を始めなければいけませんね。
 
あんどう)ペットがいる人は、避難所の入口までしか入れないなど制約があることも。車で早めに移動すると、ペットと泊まれるホテルに行くこともできます。
 
西村)おいていくわけにもいかないし、連れて行ったら他の人に迷惑がかかるかもしれない...と気になります。
 
あんどう)自治体によって受け入れ方は異なりますが、ペットと一緒に寝られない場合が多いです。ペットがいる人は、車避難を選ぶ人が多いですね。
 
西村)アウトドアでも使えて、豪雨のときの避難の際の防災グッズにもなるものはありますか。
 
あんどう)歩いて避難するなら、きちんとしたレインウェアを購入しておきましょう。濡れない、蒸れないという状態が作り出せるのでオススメです。
 
西村)どのようなものが良いのでしょう。
 
あんどう)透湿防水素材といって、アウトドア製品のものは、耐水圧が10,000mm以上あるものが多いです。10,000mm以上の耐水圧があると、体重50kmの人がレインコートを着て、水溜りの上に座り込んで圧をかけても染みてきません。傘よりも水を防いでくれます。濡れることは避けなければなりません。
 
西村)なぜですか。
 
あんどう)水害時は、濡れると低体温症になりやすいです。濡れたものを着ていると、液体を気体にするときに発生する気化熱が体温を奪い続けます。体温が下がるとなかなか上げることができません。避難するときは、汗で濡れることもあります。アウトドア用のレインウェアは、外から濡れないだけではなく、目に見えない小さい穴がたくさん開いていて、汗の水蒸気を外に出して蒸れないようにする工夫がされているんです。
 
西村)優秀!
 
あんどう)風は通さないけど水蒸気は通す工夫がされているので、体温を下げません。ビニール袋でレインコートを作ってる場合じゃないんです。中に水がついたら、命に関わります。実際に豪雨のときに低体温症になり、夏でも亡くなる人も。ぜひ濡れないレインウェアを用意してください。
 
西村)冬は体を冷やさないように意識するけど、夏でも濡れると低体温症になる可能性があるのですね。
 
あんどう)水の中は通常の20倍ほど体温を奪います。意識を失っている人が濡れた服を着続けていると、助からなくなることがあります。もし濡れてしまって、レインコートを着ていなかったら、乾いたものに着替えさせるということを忘れずに。
 
西村)子どもたちと一緒に避難したときは、子どもの服が濡れてないかもしっかりチェックした方がよさそうですね。
 
あんどう)災害時は着替えがおろそかになりがち。あらかじめ濡れない服を着ておくと、雨の中、走って遊んでも濡れないので親も楽。ぜひ普段から使ってください。
 
西村)防水ウェア以外にも何かありますか。
 
あんどう)夜避難するときには、ヘッドライトを用意しましょう。アウトドア用の軽くて明るいものがたくさんあります。
 
西村)足元はどうでしょう。
 
あんどう)水の中になるべく入らないように、早めの避難を意識して準備してください。
 
西村)雨がひどくなる前に、きちんと歩けるシューズを履いて避難しましょうということですね。
 
あんどう)浸水する前に避難するのなら、長靴だと濡れないし、精神的にも楽なので長靴で逃げられる時間帯に水平避難を。浸水してきたら、垂直避難といって、上の方に逃げることを検討しましょう。都市部は坂道も多く、水が流れてくると足首ぐらいの深さでも体ごと持っていかれます。水の中を歩くことは、すごくリスクがあります。
 
西村)地震とは異なり、大雨は事前に予測できる可能性が高いです。みなさん早めの避難を心がけましょう。車にしても、歩くにしても早めの避難が一番命を守ることにつながります。
きょうは、災害時、車で避難する際の注意点について、アウトドア防災ガイドのあんどうりすさんにお話を伺いました。