第1308回「相次ぐ噴火に地震~巨大災害の危機は迫っているのか」
ゲスト:神戸大学海洋底探査センター客員教授 ジオリブ研究所所長
    巽好幸さん

西村)先月20日、熊本県の阿蘇山が噴火しました。また、8月に噴火した小笠原諸島の海底火山の影響で、沖縄や奄美地方の海側には軽石が大量に漂着したことも報じられています。今年に入ってから震度5弱以上の揺れを観測した地震は7回起きていて、発生場所も広い範囲に及んでいます。こうした火山の噴火や地震は何か関連があるのでしょうか。また巨大な噴火や南海トラフ地震などとの関連も気になります。
きょうは、神戸大学海洋底探査センター客員教授でジオリブ研究所所長、マグマ学者の巽好幸さんをゲストに迎えて、これらの活動について解説していただきます。

巽)よろしくお願いします。

西村)黒い噴煙が高く上がっている阿蘇山の映像を見て衝撃を受けました。今回の阿蘇山の噴火はどういうものだったのでしょうか。
 
巽)映像はすごく危険そうに見えましたが、あの噴火は、マグマが関与していない小規模な水蒸気爆発です。マグマや水蒸気の移動によって起こされる地震や地殻変動も観測されていません。今回のものは、生きている活火山の息づかいの一つです。
 
西村)爆発と聞くと小規模でも怖いのかと思うのですが、火山の息づかいということは日常的な活動なのですね。
 
巽)あの程度の小規模な水蒸気噴火は、他の火山でもよく起こります。活火山は当然生きているので、噴火は起きるということ。
  
西村)18日に阿蘇山の噴火警戒レベルは、入山規制から火口周辺規制に引き下げらましたね。
 
巽)警戒レベルが下がったから大丈夫ということではありません。水蒸気爆発は予測が難しいです。ですから急に噴火することもあるので、火山は生きているということをよく理解してほしいと思います。
 
西村)活火山に登るときは備えをしておいた方が良いのでしょうか。
 
巽)活火山は景色も良く、今頃なら紅葉が綺麗ですが、予測しにくい水蒸気爆発が起きる可能性があるということを覚悟してください。長袖を着て、ヘルメット、ゴーグル、手袋は持っていきましょう。もし噴火が起きたら一目散に逃げること。そのような備えをして、登山を楽しんでください。
 
西村)逃げるときのコツはありますか。
 
巽)学生時代に「落ちてくる石を見ながら後ずさりをしなさい」と先生に教わったこともありましたが、とても無理です。とにかく一目散に下へ駆け下りてください。
 
西村)今年は阿蘇山の他にも、九州地方の火山、海底火山の噴火など、火山噴火のニュースが多かったように思います。
 
巽)桜島は日常的に噴火を繰り返していますし、諏訪之瀬島、口永良部島も噴火警戒レベルが上がっています。軽石を出している小笠原諸島や西之島もまだ活動中です。あちらこちらで火山活動が起きているということ。
  
西村)小笠原諸島の福徳岡ノ場の海底火山が噴火して発生した軽石が各地に漂着していて、沖縄では海ブドウが取れないという話も。各地で影響が出ていますが、関西にも影響はあるのでしょうか。
 
巽)大阪湾まで軽石が入ってくることは、非常にまれなケースだと思います。黒潮が流れている南の方には漂着する可能性はあるかもしれません。
 
西村)軽石が海面に浮いている映像をよく見かけますが、軽石はずっと浮いたままなのですか。
 
巽)軽石はいつか沈みます。軽石は、名前の通りすごく軽いんです。持たれたことはありますか?かかとの角質をとるために軽石が売られています。
噴火のときに出た泡の通り道が軽石の中にたくさんあって、空気が入っているので軽い。しかし水に浮いているとだんだん海水が染み込んで、空洞が全部埋まると水より重くなるので沈みます。

 
西村)沈むと何か悪影響があるのですか。
 
巽)沈むと海底にたまって地層になります。海底に住んでいる生物たちに少し影響はあるかもしれませんが、特に大きな影響はありません。ただ、浮いている間は養殖している魚が間違って食べてしまったり、船が出せなかったりするので、軽石が漂着しないように工夫することが必要だと思います。
 
西村)ニュースを見ていると、軽石=悪のようなイメージがありましたが、かかとの角質をとるために使われていたり、火山の恵みもあるのですね。
 
巽)足をこするためだけじゃなくて、軽石はシリカ、ケイ素という成分が多く、セラミックなど色んな工業材料に使われています。それから、自宅で園芸をされている方は鉢の底に軽石を敷きますよね。
 
西村)この前、小松菜を育てようと思ってプランターを買った時に軽石を買って敷きました!
 
巽)水捌けが非常にいいんです。多くは関東地方にある赤城山から飛んだ軽石です。こんな風に利用されていますので決して軽石=敵ではありません。我々は十分に恩恵も受けていますので、悪影響を及ぼすところはきっちりと排除して、仲良くすることが大事だと思います。
  
西村)各地で活発化している火山活動は関連性があるのでしょうか。
 
巽)あちらこちらで噴火すると、日本で火山が暴れだしているのではないかと心配になりますが、火山は、一つ一つが独立しているので、連鎖して噴火活動が起きることはありません。今、同時に起きているのは単なる偶然で、何の関係性も因果関係も連動性もありません。
  
西村)地震と関連があるのかも気になります。今年、震度5弱以上の地震が7回も起きています。発生場所は、東北沖が4回、ほかに能登地方、和歌山県、千葉県。こうした地震と噴火は関係があるのでしょうか。
 
巽)九州の噴火は「フィリピン海プレート」が沈み込んでいる影響で、先ほどの地震の多くは和歌山を除けば、すべて「太平洋プレート」のが関係しています。よって、お互いが影響を及ぼしているということはありません。
 
西村)東日本大震災のときの地震の影響は今でもありますか。
 
巽)3.11の地震で、沈み込んでいたプレートがパーンと跳ね上がって伸びて引っ張られている状態になっています。そうなると圧力が下がります。例えば、シャンパンの栓を抜いたら泡が出て溢れますよね。それと同じで引っ張られたら、マグマの中で泡が出やすくなって、東日本から中部日本にかけておそらく20~30年単位で噴火が起きやすい状況になっています。草津白根山で起きた噴火(2018年)は亡くなられた方もいますが、おそらくその影響だったと考えられます。そういう意味で、海溝型の巨大地震が起きた後に噴火が起きるということは、連動と考えることはできますが、今年の地震の状況では、連動はしていないと考えて良いと思います。
 
西村)そう聞いて安心する人もいるかもしれませんが、首都直下地震や南海トラフ巨大地震の危険性が高まっていることは変わりないですよね。
 
巽)日本列島はプレートから押されて、変形して、ひずみが溜まっている状態。特に南海トラフは非常に大きなひずみが溜まっています。首都直下もひずみが溜まっています。必ず地震は起きると言われていて、確率は今後30年間に80%と言われています。これは鬼気迫る高い確率だと我々は思っています。
 
西村)今後、確率が80%からさらに高まる可能性もあるのですか。
 
巽)確率は地震が起こるまで上がり続けます。阪神・淡路大震災の前日の地震発生確率は、わずか1%程度。80%はどれだけ危ないかがわかると思います。備えることが大事です。
 
西村)大地震への対策は、国全体で機運が高まっていますが、巨大噴火についての対策は進んでいるのでしょうか。
 
巽)ほとんど進んでいない状況です。巨大地震は比較的頻繁に起きるのですが、巨大噴火や超巨大噴火は起こる頻度が少ない。自分のこととして考えられないのですが、災害であるという認識を持ってほしいです。九州で超巨大噴火が起きると首都圏でも20cmの火山灰が積もります。富士山噴火の1000倍のマグマが一気に出ます。
 
西村)1000倍...想像つかないです。
 
巽)瀬戸内海の半分が埋まり、東京湾はすべて埋まるくらいのマグマが一気に出ます。7300年ぐらい前に南九州で海底火山活動が起きて、巨大カルデラ噴火が起きました。そのときの火山灰は東北まで飛びました。南九州に住んでいた縄文人の文化は一瞬にして根絶やしに。森や入江が破壊されて食べるものが何もなくなりました。そのような噴火が今後日本でも100年に1%程度の確率で起きると考えられています。
 
西村)100年に1%なら大丈夫かな...と思ってしまいます。
 
巽)阪神・淡路大震災の前日の発生確率が30年で1%、100年で0.5%でしたが、それくらい低い確率でも地震が起きましたよね。ということは起きる可能性は十分にあるということです。被害はあまりにも甚大で、本州ほぼ全域ですべてのインフラが止まってしまいます。
 
西村)富士山の噴火と超巨大噴火は別のものなのですか。
 
巽)別です。富士山は黒いマグマが特徴ですが、超巨大噴火は白いマグマを出します。白いマグマの方が圧倒的に量が多くて、爆発的で危険です。九州は阿蘇のカルデラは3万年ぐらい前に出来たもの。九州には超巨大噴火でできたカルデラがいくつもあります。
 
西村)いつおこるかわからないので、しっかりと備えをしなければいけませんね。
 
巽)超巨大噴火が起きたときは、あまりにも巨大な被害を及ぼすので、みんなで考えていかなければならないと思います。
 
西村)専門家のみなさんはどのような研究をしているのですか。
 
巽)超巨大噴火が起きることを予測できればと考えています。5年後、10年後、20年後ぐらいに起きる、もしくはだんだん起こりつつあるなど起きる可能性があるということを発信できれば準備ができます。
 
西村)5年後、10年後なら国全体でも対策が進められますよね。
 
巽)噴火の前にできる地下のマグマだまりを、CTスキャンのように撮影をして調べて、予測に繋げたいと思っています。
  
西村)それはどのように行うのですか。
 
巽)CTスキャンはX線を使うのですが、私たちは地震波を使います。7300年前に南九州沖で起きた「鬼界カルデラ噴火」のカルデラは海の中にあるので、現在探査船で調査を進めています。音波で振動を出し受信機で受けるという、CTスキャンと同じ原理で地下の様子を探っています。まだ世界中でも例がない調査です。
 
西村)巽さんや専門家のみなさんがコツコツと研究を進めてくれているのですね。やはり日本は、巨大噴火や地震の歴史作られてきたのですね。
 
巽)地震や火山噴火が多いところを専門用語で変動帯といいます。日本は間違いなく世界一の変動帯。我々日本人は、世界一の変動帯と付き合いながら今までやってきたわけです。変動帯では地震も超巨大噴火も起きるということをよく理解した上で、たくさんの恩恵を受けながら、試練には備えるということが大事だと思います。
 
西村)最近起きている地震や噴火をきっかけに、私たちもしっかりと備えていかないといけないと思いました。
きょうは、神戸大学海洋底探査センター客員教授でジオリブ研究所所長 マグマ学者の巽好幸さんにお話を伺いました。