第1254回「コロナ禍で避難所設営~大阪府摂津市の訓練を取材」
取材報告:亘 佐和子記者

西村)これまでの番組で、新型コロナウイルスが蔓延する中で、どう避難所を作るかという話を聞いてきました。
今日はその実践編です。亘記者のリポートです。
 
亘)大阪府摂津市で避難所を設営する訓練が行われ、取材に行ってきました。
摂津市は大阪市の北側で、市内に淀川と安威川が流れています。
この2つの川が氾濫すると、市内の8割が浸水するという想定なんです。
 
西村)市内の8割も!
 
亘)浸水想定区域に、人口の8割にあたる6万8000人の方がお住まいになっていて、水害があれば何らかの避難行動をとる必要があるんです。
さらに今はコロナの問題がありますよね。
感染防止のために、3密を避けた避難所を作らなければならない。
大阪府の中でも特に危機感をもって、この防災に取り組まなければならない自治体です。
9月30日に、市内にある避難所のひとつ「市立子育て総合支援センター」(旧三宅小学校体育館)で避難所設営の訓練が行われました。
 
西村)どんな方が参加されたんですか?
 
亘)地元住民の方約30人に加え、市の避難所運営の担当者、大阪府、国土交通省や地元企業の方など約70人が参加した大規模な訓練でした。
訓練の想定は「京都府南部に降った豪雨で安威川が氾濫し、
旧三宅小学校の体育館に30人の住民が避難してくる」というものです。
まず最初は、感染症対策をしながら避難者を受け入れるという訓練です。
住民が避難者役をして、市の職員が受付をするというかたちで行われました。
 
音声・市の職員)体調不良者の方が来られました。この建物の中には入らず、完全に動線を分けて、外をまわっていただき、体調不良者専用の個室に入っていただく流れ...
 
亘)市の職員が説明しながらやっていくんですが、体調の悪い人には、一般の避難者が来るスペースには入ってもらわずに、体育館隣の体育倉庫を別室とし、そこに案内していきます。その動線も、体育館の中は通らずに外側を回って、一般の避難者と接触しないようにしていました。
 
西村)別ルートを通ることは、大事なポイントですね。
 
亘)体調の悪くない一般の避難者も、入口で検温・消毒があり、体調確認シートの記入があるので、結構時間がかかるなと思いました。
この避難所設営訓練には2人の専門家が参加されていて、要所要所で気づいたことをお話されていました。
お一人は、この番組にも今年4月に電話出演してくださった日本赤十字北海道看護大学教授・根本昌宏さん。
医療・看護分野のスペシャリストです。
この受付風景を見た根本さんのアドバイスをお聞きください。
 
音声・根本さん)受付を屋外にしていましたが、夜、寒さ、風、雪などさまざまな気象条件を考えた上で、外が厳しい場合は、屋内に検温エリアを設けるなど、状況に応じて臨機応変に対応した方がいいと思います。
記帳台でみなさんが記帳をすると時間がかかり、渋滞ができてしまう。
紙をお渡しして、それぞれのエリアで書くなどして、渋滞を作らない方が良いと感じます。

 
西村)受付は屋外にあったんですね。
 
亘)入口の受付で、避難者の渋滞が起こると感染対策上も良くないので、根本さんがおっしゃったように、紙だけ渡して中で書いてもらうほうがスムーズだと私も感じました。
もう一人の専門家は、東京大学 総合防災情報研究センター客員教授・松尾一郎さんです。松尾さんも3年前この番組にご出演いただいています。
松尾さんは災害対応を時系列で考えていく「災害タイムライン」を提唱されていて、全国の自治体をまわってアドバイスされています。
避難者受付を見た松尾さんのコメントをお聞きください。
 
音声・松尾さん)体調不良者を同じ空間の中に避難させるのは難しいと思います。
学校の校舎を活用して、この避難所の中での分散避難を考えるべきかもしれません。

 
西村)今は使っていない小学校だから、別の校舎に避難するということができますよね。
 
亘)大きな敷地ですし、建物も別にあるわけです。同じ建物に体調不良の方を入れてしまうと、気になったりすることもあるので、建物自体を分けた方が良いのではないかというアドバイスでした。
 
西村)トイレとか階段とか、みんなが共用で使う場所も同じになってしまいますもんね。
 
亘)別の建物がない場合でも、フロアを分けるなどの対策が必要だと言われています。
訓練は、受付から数時間が経ったという設定で、今度はダンボールの間仕切りやパーティションの設置をやりました。
避難者と市の職員が一緒に設置していきました。
 
音声・市の職員)中の袋を開けていただいたら、長い棒と短い棒があります。短い棒が柱になる。長いほうが横の面。2本ずつ置いて・・・
 
亘)市の職員の方が説明をして、それを聴きながら住民の方が組み立てていきます。
12本のポールを組み立てて、そこに布を掛けてパーティションを作るという訓練でした。
 
西村)保健室みたいな感じですね。
 
亘)1人あたり4平方メートル(2×2m)のスペースを確保しながらでしたが、結構ゆとりがある広さだなと思いました。この広さは、国や大阪府の指針でも推奨されている広さなんです。
阪神・淡路大震災で避難所生活を経験している私としては、4平方メートルは、すごくゆったりしていいなと感じました。
 
西村)ソーシャル・ディスタンスも保てますしね。
 
亘)そして訓練は次の段階に移ります。
今度は被災の3日後に、段ボールベッドが届いて、みんなで設置するという訓練。
段ボールベッドは、小さい段ボールケースを12個並べて、上に天板を置いて作ります。
2人で上手にやれば、数分で組み上げることができます。
しかし部品が34個あるので初めての場合、難しくて迷うかもしれません。
一度体験しておけば要領がつかめるのではないかと思いました。
参加した住民の方は、実際に自分で段ボールベッド作って寝てみて、床と比べたりしていました。
感想をお聞きください。
 
音声・男性)思ったより熟睡できそう。説明聞いて作ったら簡単にできました。しっかりしているし、いいですね。
 
音声・女性)腰の負担がなくて、感触が柔らかくて暖かいですね。
床は冷たくて固かったです。
夜になるとこの冷たさはきついやろなって思う。冬に床の上に寝るのは辛いですね。
段ボールがこんなに強度があるとは知りませんでした。十分に寝られますもんね。

   
西村)みなさん、声が明るいですね。
  
亘)段ボールベッドが大好評だったんです。
床に直接毛布を敷いて寝るのとは全然違うと、実感されたようです。
  
西村)コロナの対策としても、床の埃やウイルスが舞うので、段ボールベッドの方が良いという話も以前からありましたもんね。
  
亘)また、高齢者の方は、床に座ると、立ち上がるのが大変。
生活の面でも、普段ベッドに腰掛けられるのが便利と言っている方もおられました。
段ボールベッドを組み立てる訓練を終えて、日本赤十字北海道看護大学・根本さんのコメントです。
  
音声・根本さん)避難グッズの中には必ず軍手を入れておいてください。
段ボールベッドは新品なので、とても手が切れやすいんです。
必ず軍手を装着してやってください。
簡単に段ボールベットの紹介をします。
これは、平面荷重で8トンまで耐えられます。
ベッドの中の筋交いを取って、着替えや生活用品を詰め込むことができます。
寝る時には貴重品を自分のお尻の下に収納できるので、安心して眠ることができます。
段ボールベッドは寒さに対して最強の資材です。
これがあるだけで暖房がいらなくなります。

 
亘)「段ボールベッドは暖かい」とみなさんおっしゃっていました。
根本さんのコメントにもありましたが、収納もできることは案外知られてないんです。
 
西村)知らなかったです。便利ですね!
 
亘)寝る時には貴重品を入れられる安心感もありますし、やっぱり段ボールベットは良いなと感じました。
「避難グッズに軍手を」という話が根本さんからありましたが、
東京大学の松尾さんからも大切な避難グッズの提案がありました。
今年9月に九州を襲った台風10号の経験を踏まえてのお話です。お聞きください。
 
音声・松尾さん)九州を襲った台風10号では、けがをした人が多かったんです。
80人近くの人がけがをしたのですが、多くは高齢者で、避難所でけがをされました。
雨風の中、避難所に入ると床面が濡れていて転倒します。普通のスリッパだと絶対滑るんです。
入院された方もいらっしゃいます。
避難所には、上履きやできればズックを持参というのを、行政が市民に周知してほしいですね。

 
西村)避難用のリュックに靴を入れるとかさばる。
私も折りたたみの室内用のスリッパを入れておこうかなと思っていましたが、スリッパはすべりやすいんですね。
 
亘)命を守るために避難したのに、けがをしては何にもならないですよね。
床は濡れているものだと思って、滑らない履物を用意した方が良いというお話でした。
履物については、根本さんも補足のコメントをされました。
 
音声・根本さん)みなさん、災害の時に「避難グッズの中にスリッパ、上履きを持ってきて」と言われたことはありますか?
これは、このコロナ以降は当たり前にする必要があります。
床はコロナウイルスだらけの可能性があります。
なぜかと言うとトイレからの動線が必ずあるからです。
この床は汚れているものだと思ってください。
そう思ったら裸足で歩けないですよね。
周りの方々にも、「避難する際は上履きを持って来てほしい」と広めてください。
さらに可能であれば、夜の3時にトイレに行けるように、静かに歩けるかかと付きの転びにくい靴がいいですよね。
そんなことまで考えていただくのが、このコロナ禍の避難対策だと思います。

 
西村)上履きは、転倒防止だけではなく、感染対策にも有効ということですね。
 
亘)床はウイルスがたくさんあるといわれると、底がしっかりした上履きを持って行こうと思いますよね。
他にも、パーティションをずっと閉めたままだと、換気が出来にくかったり、コミュニケーションが取りづらかったり、治安上の問題もあるというお話がありました。
例えば、昼間はパーティションを開けてマスクをして感染対策、夜は閉めてプライバシーを確保するというようなメリハリも必要とおっしゃっていました。
 
西村)気分のオン・オフは大切ですからね。
 
亘)この後、「トイレカー」の説明がありました。走る仮設トイレです。
災害があると水や電気が止まりますよね。
このトイレカーは、トラックの荷台にトイレが載っているかたちです。
トラックが水源に水を汲み上げに行き、避難所に戻ってきて、その水を使って流すしくみで、100リットル貯められるので160人ぐらいは使用できます。
汚物は、下に排出ホースがあって、マンホールに直接流せるというものです。
蓄電池があり、エンジンをかけて充電もできるんです。
「避難所生活はトイレに始まり、トイレに終わる」と言われますが、避難所環境を整える上で、一番大切なのはトイレだと思います。
住民のみなさんのトイレカーの感想をお聞きください。
 
音声・男性)このトイレはなかなかいいけど、震災で200~300人来たら全然足りませんね。みんな「水分をとれ」と言うけど、水分をとったら出さなあかんから、トイレが本当に大切。
 
音声・女性)私には使いにくいです。縦の手すりがないから。トイレに上がる階段が高いので、高齢者や私みたいに足の悪い人は使いにくいですね。

 
西村)実際にトイレカーの中に入ったからこそわかることがたくさんあったんですね。
 
亘)このトイレカーは良いけど、たくさん数がないと困るというのは、私も思います。
また、車のタイヤの分の高さがあるので、足の不自由な人が上がりやすいように、手すりを付けるなど、今後改良が必要かなと。
この訓練全体通して住民のみなさんのいろいろな感想を聞きましたので、紹介します。
 
音声・女性)こんなこと言っていいんでしょうか...楽しかった!
いろいろなタイプの間仕切りなどを体験して、ちがいがわかりました。
布製のパーティション作りですが、ポールの長さのちがいが分かりにくかったです。
色を変えた方がわかりやすいかもしれませんね。

 
西村)楽しみながら訓練をするっていいことですね!
 
亘)パーティションのポールの長さが分かりにくいという話がありました。
長い方が2m 、短い方が1.8mで、そんなに変わらないので、わかりにくいんです。
摂津市に聞きますと、この女性の言うように「ポールに色を塗ろうと思っています」とおっしゃっていました。
 
西村)組み立てたからこそわかることですよね。
 
亘)もうお一人、感想をご紹介します。
 
音声・男性)非常に勉強になりました。書類には目を通していましたが、実際にやるとやっぱりちがいますね。
私の住まいは川沿いで、2階まで浸水します。
近くの小学校や公民館も水に浸かるでしょうね。
自治会長なので、体の弱い人を避難所に連れていったら「もう満杯」ということになりそう。
自分自身は、事前に近くの高いマンションに避難した方がいいんじゃないかと思っています。

 
亘)この男性は、とても大切なことをおっしゃっています。
今回、避難所設営訓練をしましたが、そもそも避難所が足りないんじゃないかということです。
冒頭に「摂津市は面積の8割が浸水想定区域」と言いましたが、市内の30か所の避難所のうち、浸水しない避難所は3か所だけなんです。この旧三宅小学校はその浸水しない避難所のひとつなんです。
コロナで3密を避けなければならないし、旧来の避難所に入ることができる人数はすごく限られているわけです。
つまり分散避難が必要。
そこで摂津市では今年 「SOS避難メソッド」というものを発表しました。
  
西村)「SOS」と は何の意味ですか
  
亘)SOSは「摂津市・オリジナル・セパレート避難」の頭文字です。
避難所に行くことができる人数は限られているので、在宅避難できる方は在宅で、知人の家に避難できる方はそこへ。
また、摂津市にはたくさんの企業がありますので、企業のオフィスや事業所に住民の方が避難できるような提携も進めています。
今回は避難所を設営する訓練でしたが、参加したみなさんが自分はどこに避難するのかということも含めて、考える良い機会になったのではないかと思います。
 
西村)是非、私も自分の地域で体験してみたいなと思いました。